腰が抜けそうになる
裁判が進めば、どうしたって私の証言が重要になり、この一件に関わっていると明らかになる。よって現状では「とある女性」となっているが、いずれ私だったと公表されることは納得済だった。でもまさかこの場であるとは思わず、驚いていたが。
「……攫われそうになった公爵令嬢の身代わりとなり、火災現場からハンス一家とその隣人を避難させた勇敢な女性。彼女は今、この場にいる」
(国王陛下はここで皆に私のことを話すつもりだわ!)
心臓がドクン、ドクンと激しく鼓動している。
「その彼女こそが、こちらのアンジェリカ・リリー・コルネ嬢だ」
驚きの様子のざわめきが起きた。
顔見知りのみんなは既に知っていることだった。だがそれ以外の貴族たちは初耳となるため、大いにビックリしている。
「ここで彼女の献身を明らかにしたのは他でもない。悪事を暴くきっかけを作り、何も知らず父親の事件に巻き込まれた公爵令嬢を助けたコルネ嬢に、特別な勲章と爵位を授けたいと思う」
国王陛下のこの言葉にはもうビックリで、腰が抜けそうになる。
(まさかこの件で爵位を授かるなんて……思ってもみなかったわ!)
「コルネ嬢の献身は目を見張るものである。本件以外での活躍も加味した結果、献身の乙女勲章 と伯爵位を授けることを決めた」
これには驚きの声が起こったが「おめでとう、コルネ嬢!」「やったな、コルネ嬢!」「お前さんの頑張りにはその価値がある!」と職人のみんなを皮切りに、料理人やパティシエたちも「コルネ嬢は我々の誇りです!」「良かったですよ、コルネ嬢」と声を上げてくれる。同時に拍手も沸き起こり、いきなりの伯爵位授与も大変好意的に受け止められることになった。
《余程のことがなければ、いきなり伯爵位を授けられることなんてない。だが計画は上手く行った。彼女の功績を実演と共に披露し、そしてスピーチをさせる。スピーチを通じ、彼女の人柄の素晴らしさに、皆、瞬時に魅了されると思ったが、まさにそうなった。その上で、勲章と共に爵位の授与を発表する。流れとして彼女を評価する素地はできているし、何より彼女の良さを実感している仲間がいる中での発表だ。上手く行かないわけはないと思ったが……。成功してよかった。父上を説得した甲斐もある》
レグルス王太子殿下の心の声に、今回の件で彼がどれだけ尽力してくれたかを理解することになった。さらにはあのスピーチも実は織り込み済みと知り、ビックリだ。
もしかすると私が躊躇したら、レグルス王太子殿下が動き、どうしたって私がスピーチする状況になっていたのかもしれない。
(それにしても国王陛下まで説得し、尽力してくれるなんて……!)
感動するが、不思議な気持ちも沸き上がる。
(どうしてそこまでしてくださるのですか……!)
もう涙腺は崩壊寸前だが、国王陛下が記念のメダルがついたリボンを手にしている。
「ありがとうございます……!」
カーテシーで身を低くくすると、リボンを国王陛下が首へかけてくれた。顔をあげ、胸元を確認する。そこには星型のメダルに、青と白のストライプのリボンが見えていた。
そこで一斉に拍手が起きる。
一際大きな歓声と拍手が起き、それはしばらく鳴りやまない。
「さて」
そこで国王陛下が声をあげる。
「舞踏会の冒頭でこれ程長くセレモニーをするのは初めてのこと。だが皆は歴史的瞬間に立ち会うことになった。多くの貴族が地方領にいる今、このセレモニーを目の当たりにできたことは、実に快挙であろう。大いに語り継ぐがいい」
これには貴族たちは大喜びのようで、明日にはこの王都中で、私に授けられた勲章、そして爵位のことは知れ渡るだろう。
「ということでセレモニーは終わった。通常の舞踏会の流れに戻ろう。まずは最初のダンスだが……」
国王陛下と視線が合う。
(これは間違いなく、私に指名が来るわ!)
でもそうなると、私が踊る相手は……。
「今日の主役は間違いなくこの二人であろう。コルネ嬢……コルネ伯爵を見出した王太子レグルス・ウィル・アトリア。そしてアンジェリカ・リリー・コルネ伯爵。二人に最初のダンスをお願いしたい」
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