二つの極上スイーツ
「レグルス王太子殿下、スコット筆頭補佐官、ティータイムのお茶の用意が出来ました!」
執務室にティーセットとバナナを使ったスイーツを載せたワゴンを運ぶと、中にいた二人は同時に書類から顔を上げる。
《なんだ、この甘く食欲をそそる香りは!》
レグルス王太子殿下の心の声は、期待がこもったもの。でも彼の口から発せられた言葉は……。
「今日は……どうやらいつものティータイムのメニューではないようですね」
「殿下、これは何でしょうか!? チョコレートの香りが……! そしてこれは?? 見た目は何ともですが、香りは最高……」
スコット筆頭補佐官は椅子から立ち上がり、ワゴンに駆け寄る。
《この甘い香りの正体は一体なんなんだ!?》
レグルス王太子殿下の心の声は大興奮なのに、表情はいつも通り。ゆったりと書類を束ねながら、スイーツのお皿を置くためのスペースを作っている。
私はティーカップを起き、バナナを使ったスイーツの載ったお皿をおもむろにレグルス王太子殿下の前に置く。
「これは……」
じっと眺めたレグルス王太子殿下の心の声が漏れまくる。
《香りは極上なのに、この見た目は……。何かの……果物……?》
もう気になって仕方ないという様子のレグルス王太子殿下を焦らすように、私はまず飲み物の説明をする。
「飲み物はロイヤルミルクティーをご用意しました」
「コルネ嬢、このバターの甘い香り漂わせる食べ物は何ですか?」
もう我慢できないらしいレグルス王太子殿下が変わらずのポーカフェイスながら、その紺碧の瞳を好奇心で輝かせて私を見る。
「百言は一口に及ばず──とは私の思いつきの言葉ですが、まずは味わってみてください!」
「食べましょう、殿下! もうこれ以上は待てません!」
スコット筆頭補佐官は両手にナイフとフォークを持ち、いつでも食べられる状態だ。
「スコット、何だか待てが出来ない犬のようだぞ」
レグルス王太子殿下は優雅にナイフとフォークを手に取るが、その心の声は……。
《百言は一口に及ばず──見事だ! 諸侯も膝を打つ名言ではないか!》
どんなに高貴な貴族でも、思わず膝を打って褒め称えると、私の言葉に大喜びしている。でもそんな心の声など知らぬ存ぜぬとばかりに、レグルス王太子殿下はおもむろに口を開く。
「ではいただこうか」
「いただきましょう、殿下!」
こうして二人はパクリとバナナのスイーツを口に運ぶ。
「甘い……とろける……」
スコット筆頭補佐官は陥落。
恍惚とした表情で宙を見ている。
「バターの風味が効いた、このとろけるような食べ物は……しかも砂糖の甘さもそうだが、このスイーツ自体もとても熟したような……もしやこれは南国のフルーツを……バターで焼き、砂糖をまぶしたのですか!?」
(さすがレグルス王太子殿下!)
「殿下、まさにその通りです。こちらは焼きバナナでございます! おっしゃる通り、バターたっぷりのフライパンで焼き、砂糖を加えてさらに軽く焼いています。仕上げで粉糖をまぶしています」
「バナナ……そうか、温室でついに実ったあのバナナですね」
レグルス王太子殿下は流石にバナナを知っていたが、スコット筆頭補佐官は「バナナ……というフルーツなんですね」と初めて食べたバナナに陶酔している。
「ということはこれもバナナですか?」
「はい。チョコレートバナナ、略してチョコバナナです。本当はチョコレートを冷やして固めた状態で出したかったのですが、その時間がなかったので、チョコレートソースをたっぷりかけたバナナを召し上がっていただくことにしました。とても甘くて美味しいはずです!」
焼きバナナとはまた違ったチョコレートの甘い香り。表情にこそ出していないが、レグルス王太子殿下の紺碧の瞳は、期待で最上級の輝きを帯びている。
《焼きバナナでこんなに甘かったのだ。チョコレートソースががかったバナナは……間違いなくわたしが求める、ガツンと来る甘さに違いない》
心の声は震えているのに。レグルス王太子殿下は実に落ち着きのある声で私に応じる。
「それは大変美味しそうですね。……では遠慮なくこちらのチョコバナナも頂いてみましょう」
ゆったりとした動作ではあるが、その手は興奮を抑えきれず、少し震えている。それでも優雅に上品に、チョコバナナを口に運んだレグルス王太子殿下は……。
「……!」
求めていた甘さに出会えたようだ。目元がうっすらと赤くなり、閉じた瞼がふるふると揺れている。
「あああ、なんて美味しさなんですか! チョコバナナ最高です!」
スコット筆頭補佐官は椅子から立ち上がり、悶絶していた。
《満たされた……。欲しかった甘さを得ることができたのだ。夕食まで、頑張れる……》
レグルス王太子殿下は、表情を変えず、でも心の声では全身全霊で喜んでいた。
《しかしわたしが甘い物を欲していると、コルネ嬢はよく気が付いたと思う。……偶然、だったのだろうか》
そこでレグルス王太子殿下が、喜びに満たされている紺碧色の瞳を私へと向ける。
「焼きバナナ、チョコバナナ、共にとても満足のできる極上のスイーツでした。今回この二品を考案したのは? 厨房のパティシエですか?」
(やはりそこは気になるわよね。ここでパティシエが考え、出すように言いました!――としても嘘はすぐにバレるわ)
「この二つを思いついたのは私です。以前料理本でこのようなスイーツが紹介されていたのを見たことがありまして」
「なるほど。それを今日のティータイムで出そうと思いついたのは……実に素晴らしかったです。ありがとうございます、コルネ嬢」
《子リス……コルネ嬢はやはり得難い人物だ。わたしは甘い物を欲していたが、それを言い出せずにいた。「殿下は甘い物はお好きではなさそう」というイメージが定着しているから「甘い物が食べたい」とは……言い出せなかったのだ。ところがまさに痒い所に手が届くような采配を、コルネ嬢はしてくれた。……やはり手放すことなどできないな》
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