がっつりと
レグルス王太子殿下が《手放せない》なんて心の声で言い出すので、かなりドキドキすることになったけれど。
昨日と同じでレグルス王太子殿下とスコット筆頭補佐官は、算盤に関する会議に追われる。会議の後は、その間ストップしていた書類仕事を片付けることになり、二人とも必死! レグルス王太子殿下は心の声で愚痴る暇もない。
しかも昼食は大臣とのランチミーティング。どうやらレグルス王太子殿下は、あまり食事を取ることができていなかったようだ。
ティータイムが近づくと、こんな心の声が聞こえてきた。
《今日は……特に疲れたな。昼食の最中、財務大臣が算盤について大興奮で聞いてくるから、その説明に追われ、ろくに食べられなかった。……熱心な彼は好ましいし、悪いことではないが》
続けて聞こえたのはこの一言。
《……今日はいつものアーモンドやクラッカーではなく、がっつりと甘いものを食べたい》
レグルス王太子殿下は、その見た目のイメージ、つまりはポーカーフェイスから想像されるのは、クールで氷のような王太子だ。その彼が甘いものを好む……とは思われていないのだろう。
ティータイムで彼のために用意されるのは、ナッツ類、クラッカー、ドライフルーツなど、甘くないものばかりだった。だが今の心の声を聞くに、甘いものをがっつり食べたい、と。
(普段、甘いものを食べない人が、疲れていたり、お腹が空いている時に、急に甘いものを食べたくなるのかしら?)
前世知識で考えると、空腹や疲労で血糖値が低下すると、脳がブドウ糖を必要とする。よって甘いものが欲しくなると十分に考えられた。
(でも普段から甘いものを食べないなら、疲れたから甘いものの発想にはならないはずよ。甘いものに興味がないから、脳が糖分を欲しても、別のもの……たとえば甘くないパンで満たすと思うわ)
結論としてレグルス王太子殿下は甘いものが苦手なわけでも嫌いなわけでもない。むしろ好き。でもそのイメージから甘いものを食べないと思われ、本人もそれを否定しなかった。
(結果的にティータイムで甘いものを出されることがなくなってしまった……のではないかしら?)
でもさっきから聞こえる心の声では、甘いものを食べたがっている。
「殿下、そろそろティータイムが近いので、お茶の用意をしてきます」
「分かりました。よろしくお願いします」
《甘いものを食べたいと言わないと、さすがのコルネ嬢でも気がつかないだろう……。仕方ない。甘いものは我慢だ》
(健気だわ……。王太子なのだから、そこは堂々と「甘いものを用意するように」と命じてしまえばいいのに。自身のイメージを大切にしているのかしら?)
そんなことを思いながら執務室を出て、どんなスイーツを用意してもらうか考える。
クッキーなどの焼き菓子は、あらかじめ用意されているだろう。もっと別の彼を喜ばせる甘いものは……。
考えているうちに厨房に着くと、料理人たちがざわざわしている。
この時間、ティータイムの準備で侍女やメイド、パティシエがバタバタしていることが多い。なぜこの時間に料理人の皆さんがと思ったら!
「おや、コルネ嬢! 丁度よかったです!」
顔見知りの料理人が声をかけてくれる。
「どうしましたか? 何かあったのですか?」
「実はついに成功したんですよ!」
「?」
「先日王宮の温室で育てたバナナが収穫できて、ついに黄色くなり、食べ頃になったんです!」
ここで「ああ、バナナ?」と思ってはならない。
この世界でバナナは大変貴重。
温室でパイナップルや柑橘類を栽培出来ても、バナナは難易度が高く、なかなか育たない。聞くと十年間試し、今回初めて収穫出来たという。
「そのバナナはティータイムに殿下に出しても?」
「ええ。そのつもりで用意があります!」
そこでバナナを使ったスイーツを思いつく。
「そのままバナナを出すのもいいのですが、いくつかアレンジしてスイーツとしてぜひ提供したいのですが」
「! 今からバナナでスイーツを作るのですか!?」
料理人がビックリしているが、私が作ろうとしているのは、手の込んだものではない。
「はい! 今から作ろうかと!」
「分かりました。必要な材料を教えてください。殿下のためなら手伝います」
料理人だけではなく、パティシエも協力を申し出てくれる。
こうして私はレグルス王太子殿下の心の声に応えるべく、彼がこれまで食べたことがないであろうスイーツを用意することにした。
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