レタスとレモン
今日はレグルス王太子殿下の有能さを噛み締める一日だった。
彼は金属のペン先のついた羽根ペンを国王陛下と宰相に報告。あっという間に国が援助する形で、金属のペン先のついた羽根ペンを量産する算段を立ててしまったのだ。
ダイアン以外の鍛治職人も呼び出し、どうやったら量産できるかを話し合った。さらには金以外で作れないか、平民でも手に入る羽根ペンを作れないかまで、話したと言うのだ。
「それだけじゃないよ。まずは手始めで、宮殿で働く職員には、合金で作ったペン先のついた羽根ペンを無償配布したいんだってさ」
ダイアンが木製のビアマグのビールを飲み干し、身を乗り出す。
私は樽ビールを調達し、宮廷医ボルチモアにも声を掛け、仕事が終わったダイアンの元を訪ねた。彼女の仲間も一緒にいて、みんなでビールを飲みつつ、ハムやチーズを摘みながら、今日の一連の羽根ペンの動きについて話していた。
(私はまだ十八歳だからお酒は飲めないけど、みんなのお酒が入った状態の、このワイワイガヤガヤは好きなのよね。お酒の勢いでいろんな本音も聞けるし)
早速職人の一人が、鼻髭にビールの泡をつけながら語り出す。
「平和な世の中になってからは、剣もメンテナンスがメイン。馬具関連はしょっちゅう依頼は来るけど、すぐに終わっちまう。宮殿の装飾品もそう新しくはしない。実は暇っちゃぁ、暇だった。それが明日から大忙しさ。久々に腕が鳴るぞ」
「本当だよ。王都中の鍛冶工房に依頼を出すんだ。鍛冶職人は今後しばらくは左団扇で暮らせるな!」
「仕事終わりの美味いビールも楽しめる!」
今回の大量発注、可能な限り早く納品するということで、ボーナスが支給されることになった。陽気な彼らは、そこをお金ではなく、毎日樽ビールを届けるに変更したというのだから……。
(みんなでワイワイ楽しく飲むのが大好きな性分なのね)
勿論、鍛冶職人たちは今回の羽根ペンの大量発注を大喜びで受け入れていた。
「こんなふうに鍛冶工房が活気づくことになったのは、コルネ嬢のおかげだよ。本当に、ありがとう!」
ダイアンは宮廷医ボルチモアが入れてくれたお代わりをあおりながら、私に御礼を言う。
宮廷医ボルチモアはお酒を飲める年齢だが、いつ王族から呼び出しがかかる分からない。よってお酒は飲まないという。代わりで甲斐甲斐しくみんなにビールを注いで回っていた。
そんな宮廷医ボルチモアの分まで豪快に飲んでいるのはダイアン! お代わりのビールを半分ほど飲むと、おもむろに口を開く。
「それでさ、昨日、羽根ペンの件と一緒に頼まれていたもの。それも出来たよ」
「え、本当ですか!? 今日は一日、会議に追われていたのでは!?」
「ああ、そうさ。私は会議に顔を出していたけど、鍛冶職人全員が会議に呼ばれていたわけじゃない。残っていたメンバーがぱっ、ぱっ、ぱっと作っちまったんだよ」
これを聞いた私は目を丸くして驚くことになる。
「本当ですか! それはありがたいです!」
「しっかし、こんなものまで思いつくなんて、驚いたよ」
「いえ、これは東方で使われているものなんです」
「ふうーん。東方は神秘の国だねぇ」
そんなことをダイアンと話しながら、みんなはビールを楽しみ、つまみを食べ、夜は更けて行く……。
◇
翌日。
二日連続でレグルス王太子殿下を驚かす算段が立っている私は、朝からウキウキだった。
(昨日はレタスのようなドレスと言われたのよね……。ならば今日は……)
シャーベットイエローのレモンのような色合いのドレスを着て、執務室へ向かう。
「おはようございます!」
部屋に来た私を見たレグルス王太子殿下は、ターコイズブルーの実に鮮やかな色合いのスーツ姿。そして案の定……。
《今日の子リスはレモンのような色のドレスだな。見ているとなんだか元気が出る色だ》
「昨日はレタスのようなドレスだったので、今日はレモンみたいな色のドレスにしました」
レグルス王太子殿下の執務机の前でそう言うと、彼はいつも通りの無表情で私を見て、机の引き出しを開ける。
《やはりわたしの心が読めるように思えてしまう。昨日のドレスも今日のドレスも、レタスとレモンのような色に見える!》
心の声はそう断言しているが、口を開いたレグルス王太子殿下は……。
「コルネ嬢がそう言うのでしたら、レタスとレモンということにしましょう。……そしてレタスであろうと、レモンであろうときっと合うと思いますので、これをどうぞ」
落ち着いた口調でそう言うと、レグルス王太子殿下は引き出しから取り出した手の平サイズの小箱をトンと執務机に置く。まさに私がいる目の前に置かれている。
「あ……えーと」
「贈り物はスマートに受け取るべきですよ、コルネ嬢!」
スコット筆頭補佐官の声にハッとして「ありがとうございます!」と小箱を受け取る。そして「では開けさせていただきます」と蓋を手に取ると……。
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