甘えん坊
レグルス王太子殿下の執務室。
以前はそこに当たり前のように三人の人物がいた。
部屋の主であるレグルス王太子殿下。
スコット筆頭補佐官。
そして専属侍女だったコルネ嬢。
ここでいくつもの発明品が生まれ、レグルス王太子殿下はコルネ嬢への愛を深めた。
だが現在、殿下は専属侍女をおかず、この部屋の利用者は二人に戻った。
そう、レグルス王太子殿下とスコット筆頭補佐官。
レグルス王太子殿下は席で執務をこなすことも多いが、日中は会議やら何やらでこの部屋を空けることも多々ある。
そして今日、この時間、レグルス王太子殿下は毎週恒例の宰相との情報交換を兼ねたティータイム。これは完全に二人きりで行うもので、護衛騎士は廊下で待機するが、スコット筆頭補佐官の同席はない。
一方のコルネ嬢は王妃殿下と共に孤児院へ慰問している。同行しているのはマルグリット夫人とモンクレルテ嬢、ララ嬢で、わたくしはお留守番だった。
お二方が戻るのは夕方になる。
コルネ嬢付きの侍女たちは決まった仕事が終わると自由に過ごすことができた。ティータイムの時間なので、ゆっくりお茶菓子を楽しむ者が多い。
ところが、まさに使用人専用の休憩室に行こうとしていたわたくしは……。
「スコット筆頭補佐官からの伝言です。執務室へ来てくださいと」
従者にそう言われたわたくしは「わかりました」と応じる。
コルネ嬢の侍女には、専用の作業室が与えられていた。そこで書類や手紙を確認したり、郵便物の宛名を書いたり、様々な作業を行う。その作業室にいたわけだが、スコット筆頭補佐官……わたくしの婚約者でもある彼から呼ばれ、何かしら?と思いながらレグルス王太子殿下の執務室へ向かうことになる。
殿下とコルネ伯爵が婚約をしているのだから、スコット筆頭補佐官とわたくしが連絡を取り合うことも多くあった。でも近々で何かあったのかしら?と考えながら向かうと──。
「ルイーザ嬢!」
「スコット筆頭補佐官、どうされましたか?」
公私混同しないために、職務をしている最中は、お互いに「テレンス嬢」「スコット筆頭補佐官」と呼ぶと決めていた。それなのに二人で会う時の呼び名である「ルイーザ嬢」と呼ばれたので「はて?」と訝し気にスコット筆頭補佐官のことを見てしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ。ここは執務室ですが、殿下もコルネ伯爵もいないですわ。一応、二人きりですので。それよりもどうされましたか?」
するとスコット筆頭補佐官が瞳をうるうるさせてわたくしを見る。
「殿下から、実は内示をいただいたいのです」
「?」
「身内のみとなりましたが、ルイ……テレンス嬢との婚約式も終わりましたよね」
スコット筆頭補佐官との婚約式。
それは身内のみで確かに済ませていた。
わたくしの場合、参列する家族・親族はないので、レグルス王太子殿下とコルネ伯爵が参加くださり、スコット筆頭補佐官のご家族と共に立会人になってくれたのだ。
そもそも平民同士の婚約――ということで、大々的には行わなかった。オルリック嬢は最後の最後まで参列したいと言い張ったが、結婚式では最前列に座ることを認めるので、今回は我慢するよう頼み……。何とか受け入れてくれた――それが昨日のことのように思い出される。
「婚約式は無事、終わっていますわ。……まさか何か問題でも……?」
「! そんな顔をなさらないでください、ルイーザ嬢」
スコット筆頭補佐官がわたくしの両手をぎゅっと握りしめる。
「僕の伝え方が悪かったです。これから話すことは、朗報です」
「! そうなのですね」
「殿下から無事婚約できたら、その後、爵位を与えると言われていたのです」
「!」
「そして今朝、殿下から……驚きました。いきなり子爵位を授けると言われてまして」
「まあ、そうなのですね! 通常は男爵位ですのに」
「はい。婚約祝いも兼ねて、と言われて」
これを聞いたわたくしは、スコット筆頭補佐官の手をゆっくり外し、カーテシーでお辞儀をする。
「スコット筆頭補佐官。おめでとうございます」
「ルイーザ嬢……!」
顔を上げると、今にも泣きそうなスコット筆頭補佐官と目が合う。
「どうされたのですか? 嬉し泣きかしら?」
「はい……! ルイーザ嬢と婚約できた上に、爵位まで……しかもいきなり子爵位を賜るなんて……」
「それだけスコット筆頭補佐官の日頃の頑張りが認められたということですわ」
「……! 頑張ったかいがありました」
「ええ。頑張りました。婚約者として、大変誇らしく思いますわ」
わたくしの言葉を聞いたスコット筆頭補佐官は……。
なぜかわたくしの手をとり、ソファへと向かう。
何となくでそのままソファに並んで座ると、彼は頬をポッと赤らめる。
「……スコット筆頭補佐官?」
「……甘えてもいいでしょうか?」
「……?」
「幸せで蕩けそうなんです……!」
そう言うとスコット筆頭補佐官は、普段の仕事のできる姿とは別人となり、わたくしの腰に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。
「……甘えん坊の僕は嫌いですか?」
「! そんなことはありませんわ。普段、神経を張り詰めてお仕事をされているのです。わたくしといる時は、存分にリラックスしてくださいませ」
「ルイーザ嬢……!」
ぎゅっとわたくしを抱きしめるスコット筆頭補佐官。
彼はこれからわたくしの唯一の肉親となる。
一切連絡のないお母様。塀の向こうの人になってしまったお父様。わたくしを遠ざけたい親族たち──。
そんなわたくしの大切な家族になるスコット筆頭補佐官。
(大切にしますわ。あなたのことを)
愛しい婚約者のことを、わたくしはぎゅっと抱きしめた。
お読みいただき、ありがとうございます~!
ルイーザ様、お幸せに♡















