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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
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彼女と初恋

 初恋について「実らないから美しい。永遠に色あせることはない」と、ある詩人が語ったというが、それはまさにその通りだと思う。


 周囲の反対により、結ばれなかった私の初恋。


 連絡が取れないことで、彼からも私は……距離を置かれてしまったのか。そう思いつつも、心の片隅では「そんなことはない。彼も泣く泣く、私と別れたのだわ」と思っている。そして時折、彼のことを思い出す。


 例えば一緒にティータイムで食べたピスタチオ味のマカロンを食べた際。初めてのデートで散歩した公園のそばを、馬車で通り過ぎた時。彼のつけていた香水の香りを知覚した瞬間。


 彼の瞳を思い出す。


 柔らかな白水色の瞳を細め、シルバーブロンドの髪を煌めかせて微笑む彼は、私にとっての王子様だった。幼い頃に読んだ絵本に登場するヒーローそのもので、優しく、笑顔が素敵で、素敵な王子様だったはずなのに。


 再会し、彼がまだ私を好きだと分かった。

 私への未練で、今も婚約者がいないことを知ったのだ。


 気持ちは大いに盛り上がる。


 彼への想いがますます深まっていく。


 当然、想像してしまう。


(頑張ってお給金を貯め、持参金を用意できれば……。私、フェリクスと今度こそ、婚約できるかもしれないわ……!)


 フェリクスと再会できた直後の私は、もう笑顔が止まらない。その様子を見たコルネ伯爵は……


「どうやら思いがけない再会は、ルベール嬢に幸運をもたらしたようね? 今日の笑顔はいつもに増して素敵よ」


 そんなふうに言われ、私は心から「コルネ伯爵、昨晩はありがとうございました! おかげで昔話に花を咲かせることができ、とても幸せです」と答えていた。


 それからの数週間。


 仕事が終わった後、夜遅くまで開いているカフェや、再会した際に行ったパブリック・ハウスでフェリクスと会った。紅茶しか飲んでないのに、私はフェリクスと話していると、いつも全身が熱くなり、酔ったような心地になっている。


 本当にその数週間は幸せで、幸せで……。


 一度は失った人生の春。それを取り戻したような気分になっていた。この言葉を言われるまでは。


「イヴ」

「何、フェリクス?」


 この後、彼からいつものように「イヴ、君のこと大好きだよ」と言われ、手をぎゅっと握られると思っていた。だが――。


「実はね、僕の父親、事業に失敗してしまったんだ」

「え、そうなの……?」

「うん。多額の借金があって、それは……もうどうにもできない金額なんだ」


 そこで少しの不安が込み上げる。


(こういう話をするということは、もしやお金を用立てて欲しいと言われるのでは……?)


 しかしフェリクスは慌ててこう言う。


「ごめん、こんな話、してしまい。あ、この話をしたからと言って、お金を貸してくれとか言うつもりはないよ」


 この言葉を聞き、いらぬ想像をしてしまった自分を恥じる。


「ただ、なぜこの話をしたのかというと……」


 そこでフェリクスは、これまで見たことがないような暗い表情になる。


「借金の返済の目途が立たないんだ。このままだと僕たち家族は……借金取りに売られるかもしれない。奴隷制が許されている国に」

「えっ……!」

「僕は若いだろう? だから男娼として売れる、なんて言われたんだ」

「そんな……!」


 顔面蒼白になった私の手を、フェリクスがぎゅっと握りしめる。


「男娼になるぐらいなら、貴族としての名誉を守り、僕は死を選ぶ」

「フェリクス!」

「その一方で、僕はイヴと再会してから、ずっと夢を見ている。君と結婚し、一男一女の子どもに恵まれ、幸せに暮らす未来を」

「……!」

「イヴ、僕たち家族と一緒に亡命しよう」


 そこからフェリクスが語ることは……。


(悪夢だった。今、思い出しても、鳥肌が立つ)


 フェリクスたち家族を亡命させてもいいと言っている外交官がいる。ただし、条件があった。それは――。


「イヴが仕えているコルネ伯爵。彼女に毒を盛るんだ。伯爵に僕らの家族、恨みがあるわけではない。でもそれが亡命の条件なんだ。毒を飲み、伯爵が死のうが、一命を取り留めようが、どっちでもいい。とにかく毒を伯爵が飲むことが重要なんだ。成功したらサンマリン公国で、僕とイヴは晴れて夫婦になれる」


 コルネ伯爵に毒を飲ませたら、私はフェリクスと結婚できる……?


 以前の私だったら。テレンス嬢と出会っていなかったら、私は人を踏み台にして、自分の幸せを手に入れることに躊躇しなかったかもしれない。


(でも今の私は違う。コルネ伯爵は私が仕える相手であり、心から尊敬している。その彼女に毒を飲ませるなんて! できるはずがないわ)


 何より、私がそんなことをしたら、テレンス嬢は怒るより悲しむだろう。モンクレルテ嬢も号泣する。パティシエや料理人のみんなもショックを受けると想像できた。


 フェリクスのことが好きだった。彼は私の中で絵本に登場するような、ヒーローであり、王子様だったのだ。


(でも現実は違っていた。フェリクスは王子様なんかではなかった。彼は悪魔だったんだ……)


「初恋は実らないから美しい。永遠に色あせることはない」――それは真実だと思う。


 フェリクスとは一生再会することなく、終わればよかった。でも出会ってしまった事実から、逃げることはできない。


 テレンス嬢は私の悪意から逃げなかった。

 彼女はちゃんと向き合ってくれた。

 私も……この残酷な現実から逃げちゃダメなんだ。


「コルネ伯爵。実はご相談したいことがあります」


 この瞬間。私の初恋は終わった――。


お読みいただき、ありがとうございます!

消化不良の恋と決別した時、次の物語が始まる――。

次話『彼女の希望』は明日のお昼更新です~

お楽しみに☆彡

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