殿下と僕(2)
ボルチモア医師の言葉に絶句した僕であったが、翌日、冷静になれた。
(そもそも貴族と平民の結婚問題について悩むのは、テレンス嬢と僕が両想いになってからなのでは!?)
そうなのだ。さんざん悩んだ挙句、想いをテレンス嬢に伝え、あっさりお断りされたら……。つまりはDon’t count your chickens before they hatch.だ。まさに「卵が孵化する前にヒナの数を数える必要はない」である。
(テレンス嬢と結婚できるかどうか。それは両想いになってからで……)
そう思っていたら。
翌日。
「……スコット」
「は、はいっ、レグルス王太子殿下!」
レグルス王太子殿下もいる執務室で、つい物思いにふけってしまった。それがバレたのではと、背中に汗が伝う。
心臓をバクバクさせながら、爽やかなシルバーブルーのセットアップ姿のレグルス王太子殿下を見る。
「君は子爵家の次男だ。爵位は当然だが、長男が継ぐ」
「……そうですね」
「貴族の一員として扱われるが、法的には平民扱いになる」
「はい、その通りです」
「わたしはスコット、君の日頃の頑張りに感謝している。よって父上とも相談し、まずは男爵位。年内に子爵位を授けるつもりでいたが……。一旦白紙撤回にしようと思う」
これを聞いた僕は一瞬何を言われているか、脳の理解が追いつかない。
だがすぐにレグルス王太子殿下が何を言っているのかが分かり「で、殿下、それは……!」と、何とも情けない声を上げることになった。
「だがこの方がスコットには好都合だろう?」
「!?」
「平民の令嬢と結婚したいのでは?」
「! な、レグルス王太子殿下、そ、それはっ!」
あわあわする僕に、レグルス王太子殿下は涼しい顔で告げる。
「君が幼い頃より僕を注視していたように。僕も君のことを気にしている。どうも春先から君の様子がおかしい。その理由はすぐに分かった。スコット、君はテレンス嬢のことが好きなのだろう?」
ズバリの指摘に僕は羞恥となり、机に突っ伏す。
(ま、まさか、レグルス王太子殿下にバレていたなんて……!)
「スコット。顔をあげろ」
「……はい、レグルス王太子殿下……」
「わたしは君を応援しているんだ。それはアンジェリカも同じだ」
「!」
そこでレグルス王太子殿下はとんでもないことを言い出す。
「テレンス嬢は父親の事件があり、デビュタントに出られないと思っている。だがアンジェリカは彼女のためにデビュタントに着るドレスなど必要なもの一式を手配していた。シャペロンはマルグリット夫人に任せることになっている。だがエスコート役にはあえて触れない。テレンス嬢は遅かれ早かれ、誰にエスコート役を頼めばいいか、気付くはずだ。アンジェリカもそこは一言添えると言っていた」
「つ、つまり、それは……」
「スコット。君はテレンス嬢のデビュタントでエスコート役を務めるんだ。そして君たちが二人きりになれるようにする。そこで男になれ、スコット!」
レグルス王太子殿下の言葉に「!?」と驚き、そしてその意味を考え、赤面することになる。
「さ、さすがにそれは! 婚姻前にご令嬢を押し倒すなど……」
「スコット……。君は職務においては有能だが、恋愛については無能だな」
「レグルス王太子殿下……!」
「押し倒すなどしたら、わたしが君を斬る」
「!」
「告白するんだ。気持ちを伝える。それで相思相愛で即婚約すればいい」
「ですが……」
「さっき言った通り、スコットはまだ法的には平民の身分だ。ゆえに父上は同じ平民であるテレンス嬢との婚約と婚姻を認める」
「……!」
「その後、予定通り、爵位を君に授ける」
これにはもう「なるほど!」で胸が躍る。
(貴族と平民の結婚問題。レグルス王太子殿下のおかげで、越えることができそうだ!)
だがそこで「待て」となる。
さっきはレグルス王太子殿下から二人きりになり、そこで男になれ!と言われ、あらぬ想像をしてしまった。それは勘違いであったが、しなければならないことがある。
――『告白するんだ。気持ちを伝える。それで相思相愛で即婚約すればいい』
じわじわと自分が何をするのかを理解する。
(こ、告白……! あのテレンス嬢に告白!?)
すがるようにレグルス王太子殿下を見てしまう。
「殿下、無理です!」
「無理……?」
「テレンス嬢が僕を好きかどうか分からないのに、告白なんてできません!」
「スコット、落ち着くんだ」
「!」
「本当に恋愛に関して、繰り返しになるが、君は無能だな」
これに異論はない。その通りだからだ!
「テレンス嬢の気持ちを知るために告白するのだろう!」
「あっ……」
「何が『あっ……』なんだ。しっかりしろ、スコット! さっきわたしは伝えたはずだ。『男になれ』と。そこは覚悟を決め、想いを伝えるんだ!」
お読みいただき、ありがとうございます!
完全なるギャグ回でした(笑)
明日はその後の顛末です~






















































