うん?
「コルネ嬢、レグルス王太子殿下がお呼びです」
ディナーのための、第二王女殿下のドレスの着替えが始まったまさにそのタイミングで、レグルス王太子殿下付きの従者が訪ねて来た。
そう、第二王女殿下の部屋にまで従者が来て、レグルス王太子殿下が私のことを呼んでいると言うのだ!
(と言うか、レグルス王太子殿下! 何でこう何度も私を呼び出すんですか!?)
「まあ、お兄様ったら。コルネ嬢のことが、余程お気に入りのようね」
淡いラベンダー色のドレスへまさに着替え中のコーデリア第二王女殿下が、おっとりとそう言うと、私を見た。
髪色はレグルス王太子殿下と同じアイスシルバーだが、瞳は碧眼で、目尻が垂れている。その顔立ちもあり、コーデリア第二王女殿下はぽわんとした雰囲気の持ち主。キリッとしたレグルス王太子殿下とは、まさに真逆だった。
「コルネ嬢、ここはもういいわ。お兄様のところへ行っていいわよ」
「ですがコーデリア第二王女殿下……」
「お兄様、信頼した相手にはとことん入れ込むタイプなの。だからスコット筆頭補佐官なんて、お兄様から二十四時間三百六十五日、離れられなくなっているわ。コルネ嬢も頑張ってね」
コーデリア第二王女殿下が何だか不穏なことを言うので、私はサーッと顔が青ざめる。
「ふふ。大丈夫よ。とって食われたりはしないわよ。それより、待たせない方がいいわ。お行きなさい」
待たせない方がいい――それは当然だ。相手は王族、しかも王太子! さら彼は自分にも厳しいが他人にも厳しいタイプなのだ。
(急ごう。何の用事か分からないけど、とにかく早く用を済ませてしまおう)
従者について歩き出しながら、すぐに気が付く。
(粉薬を飲みやすくする方法を宮廷医ボルチモアたちが、殿下にまさに報告したんだったわ。きっとこの件ね。喜んだレグルス王太子殿下が私にいないことに気が付き、呼んで来い……になったのではないかしら?)
何となく呼び出された理由が分かったので安堵する。
「ああ、コルネ嬢! お待ちしていました!」
前室に入ると、レグルス王太子殿下につきっきりのスコット筆頭補佐官に迎えられることになった。
「あの、スコット筆頭補佐官。粉薬の件ですが」
「ああ、あれは素晴らしい案だったと思います。先程、殿下は報告を受け、実際に試され、感動されていました。今回はボルチモア医師、パティシエ、料理人、そしてコルネ嬢が協力し、ゼリーと煮こごりを使った服用法を考えたのですよね? 呑み込みやすく、味も調整し、貴族から平民まで実践できる方法を生み出した。早速国王陛下に報告し、褒章の授与を検討することになっています」
(ああ、やはり。褒章を与えてもらえるのね。それは本当に良かったわ。宮廷医ボルチモア、パティシエ、料理人のみんなは大喜びだと思う。やはりこの件で呼び出されたのね)
完全に肩の力が抜けた状態で、レグルス王太子殿下が待つ寝室へと足を踏み入れる。
《子リスのコルネが来たな。くりっとした瞳は本当にリスのようで愛らしいな》
心の声では私を子リスと称しているレグルス王太子殿下と目が合う。
今日もいつも通りのポーカーフェイスだが、その輝くようなアイスシルバーの髪といい、星空のように煌めく紺碧色の瞳といい、やはりレグルス王太子殿下は美しい。
(小動物に思われ、愛らしいと褒められる……人間として褒めていただきたいところだけど、二人の姉に比べたら、私は凡人だから仕方ないわ)
「コルネ嬢。忙しくしているところ、呼び出してしまい、申し訳ないです」
「いえ、コーデリア第二王女殿下にも許可もいただけましたので」
そう答えながら、クリームイエローのドレスのスカートをつまみ、きちんとカーテシーをする。
「そうですか。コーデリアも許可したなら安心です。まずは粉薬の件。素晴らしかったです。ゼリーや煮こごりで包み込むようにして、噛まずにごくんと呑み込む――確かにこの方法ならあっという間に粉薬を飲むことができます。苦い錠剤もこの服用法なら、難なく飲めるでしょう。父上に報告します。追って褒章を授けられることになるでしょうから、お待ちください」
「お気遣い、ありがとうございます。煮こごりを使う案は、料理人の皆さんの発案です。パティシエもゼリーの味や固さについて調整くださいました。ボルチモア医師も様々なタイプの薬を用意し、試されて……。皆様のおかげで編み出した服用方法です」
私の言葉を聞いたレグルス王太子殿下は、声を出す前に、心の声を聞かせてくれる。
《相変わらず、自分の手柄とせず、他の者を立てる。何と欲のない人間なのだろう……。自分が、自分がと目立つようなことをしない。実に謙虚で好ましい……》
「好ましい」の言葉にドキッとした瞬間、レグルス王太子殿下が口を開く。
「君たちが全員で協力したこと。ちゃんと分かっています。全員を公平に扱うので、安心してください」
「ありがとうございます」
「それで今回呼び出した件。コーデリアから聞いていますか?」
これには「うん?」となり、「何のことでしょうか……?」と答えることになる。
「おや? でもコーデリアは許可をしたのですよね?」
「……? こちらへ来る件について許可をいただきました」
「ならば問題ないですね。コーデリアには、コルネ嬢をわたし付きの侍女にしたいと話していました。許可するなら、従者を迎えに行かせるから、応じるように伝えていたのです。手放さないなら、従者は一人で返していいと。でもこうやって来てくださったのです。そしてコーデリアは許可している。よって今この時から、君はわたし付きの正式な侍女になりました。スコット、契約書を」
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