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第3章 きつねさんのお着替え 第4章 メイド少女の部屋着

第 三 章

わたしはもう一度リンゴ100パーセントをきつねさんの口元に運び、テーブルマナーに

厳しそうな彼女が満足するまでぺろぺろとなめてもらった

彼女は言った

「夜もふけ、わたくしのお給仕の時間もすぎました。そろそろ私服に着替えて参ります

部屋着に。

 誰か来たら、何かが起きたらすぐに呼んで

 あの扉の奥、女子更衣室にいるから。でも中をのぞかないでね」


「何か起きたらって?のぞいたらどうなるの?」

きつねは椅子から放物線を描いて飛び降り、店の奥へ足音をたてず4つの脚で歩いた

そして前足で扉を押し、中に入った、

ように見えたが、尻尾が扉に挟まれ飛び出ている

しっぽは左右にぶんぶん振られている。わたしは急いでしっぽの持ち主の所まで走った





第四章

抹茶シェイクを飲みながらきつねさんとのやり取りをぼんやり思い出していた

夜にたった一人でこんな状況を経験したら臆病なわたしは普通逃げ出す


でもここは清らかな場所、そしてわたしは6日前、清らかな神社の一部になった

ここでご奉仕する身分なのだから、怖いことは起こらない


ふつうに考えたら、あのきつねさんはお稲荷さま。だってきつねなんだし

でもここでお給仕してる住み込みメイドと言ってた

そしてどう呼んでも構わないって言ったのに、お稲荷さまと呼ばれるのはいやだ、と

ここには同じお名前のお友だちがすでにいる


それともう一つ

これからお願いする事を考えると、あなたの希望に添いたい

さっき扉に挟まったしっぽを助けてあげること、ではないよね

わたしは抹茶シェイクと、リンゴジュースをカウンターに置いたまま席から立ち上がった

抹茶の飲み物があらかじめテーブルに置いてあったのはどうしてかなんとなく分かる


タリーズコーヒーはシアトルが本店。でもここは神社の境内なので和の心を持つ

茶屋要素(抹茶)をいれたかった。きっとそうだ。そしてりんごは昔から日本にもある


わたしはレジに向かった。ケーキをガラスケースから取り出し席に戻るため

きつねさんには北海道バターミルククッキーを選んだ


バターもクッキーも西洋のだけど、北海道って言ってるから日本のおかし

きっと食べてくれる。いや、今度もわたしが食べさせてあげるのか

ショーケースの小窓を開ける

一番奥のレアチーズケーキを右手でじかに持ち(お皿が見当たらない)

振り返ったとき、わたしはこれから食べるケーキについての関心を失った


きつねのいた席にメイドが座っている

きつねさんが座っていた席に黒髪のメイド服の少女が座ってる

彼女はさくら色のふちのめがねをかけていた。そして手を振り、席を立った

長い黒髪の頭から、きつねの耳がぴょこんと飛び出てる


彼女は白のひらひらエプロンを背中でちょうちょ結びしていた。その真下から、

きつねのしっぽが生えている。そのしっぽは、彼女のふくらはぎまで垂れていた

メイドのお仕事が終わり、私服に着替える。そうすると、きつねである事をやめ

メイド服を着た少女になる。部屋着って言ってた

どういう勤務体制なの?

メイド服は仕事中ではなく? プライベートがきつねなのではなく?

ということは、休日はメイド服の少女

だからさっきから、ほんとうの名前は?とかそもそも何?とか聞いてたんだ


さくらのように儚げなメイド少女をきつねと呼ぶのは違和感が凄まじい

きつねも可愛かったけど、この華奢な少女のそれと意味が違う

少女の二の腕は、少しでも何かあるとぽっきり折れてしまいそうなほど細い

そういえば、きつねの髪が色落ちしないように、って言ってた

実務的なメイド服。ほんとうにここでお給仕してるんだ

あの御神木の桜の木が花を咲かせ始めた昔から。少女の着るメイド服は、新調したばかり

に見える


膝丈の黒いワンピース、細かい花びらの刺繍とリボンのある白いひらひらエプロン

あたまには薄いピンク色のカチューシャ。彼女の細い首に巻かれた、黒い紐のチョーカー

それはのど元でちょうちょ結びをされていた

この服装でも少女の脚が長いと分かるのは、ウエストのくびれが細いから

高い腰の位置がはっきりと分かる


ワンピースの黒と対照的な、花びらの刺繍のされたシースルーの白いソックス

太ももが透けてる。ヒールのある小さな靴は、ピカピカに磨かれている

彼女は、はにかみながらわたしが席に戻るのを待っている

笑顔になると、ほっぺたにえくぼができた


まるでわたしは、一橋大学に通うため岐阜県飛騨市から東京都国立市に上京したばかりの

浪人した女子大生のような複雑な感情を抱きながら可憐なメイド少女(旧きつねさん)

に向かった

わたしが席に戻った頃には、彼女はりんごストレート100パーセントを飲み終わり、

ストローについた薄いさくら色のリップを拭いていた


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