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チャオ! ぷにぷにバンビーナ

ゆるふわファンタジー最終話です。


 美しいものが好き。


 美しいものを愛でたい。


 美しいものに囲まれて生きたい。


 こんなちっぽけな願いさえも叶えられることなく、恵瑠の人生は終わりを告げた。


 出会った男はYYCと低学歴と低収入ばっかり。つくづく男運のない人生だった。


 転生先のベリッシア・パエーゼでさえも、相対的異世界転移によって夢は無残に打ち砕かれた。


 うわああああん!


 カラダは無いので心の中で大きな声で泣いた。 




 ふわふわの金髪に深緑の瞳をしたド派手系美人の夢先案内人ディーちゃんは、ニコニコ明るく話しかけた。


「だいじょうぶでぇーす」


「ぐすっ……えっ?」


「魔法は成功したってことにして返してあげますからぁ、心配しないでくださいぁーい」


「マジですか!」


「マジマジぃー」


 よかったああぁぁーーっ! ベリッシア・パエーゼはまだ終わってなかったよ!


「傾きかけた王国にはぁ、あなたの卓越したOLスキルが必要でぇーす」


 それ、「ベリッシア・パエーゼ」のスタート画面に出てくるセリフ!




「あの、ディーちゃん、質問いいですか?」


「はぁーい」


「どうして返してくれるのですか? べつにイヤというわけではないんですよ。ただその理由が知りたくて」


 ディーちゃんは顎に人差し指をそえて首を傾けた。


「転生時にスケール調整を怠ったこちら側のミスのお詫びをかねて、ですかねぇー」


「それってつまり相対的異世界転移はそちら側のミスによるものだったと?」


「完璧な世界なんてどこにも存在しないわけですよぉ」


「神様でもミスをするんですね」


「わたくしは神様ではありませぇーん。しがない夢先案内人のディーちゃんでぇーす」


「神様はどこにいらっしゃいますか?」


「眠っていまぁーす」


「はぁ?」


 神様は、仕事をせずに、眠ってる。


「いつ目覚めるのですか?」


「神のみぞ知る、でぇーす」





 図書館で読んだ本の中にこんな詩があった。聖女の国パエーゼ・サクラの聖女が書いた詩だ。


「この世は神が見る夢。


 この世が存在するのは、神が眠っている間だけ。


 神が夢見る無数の泡沫の中の、


 たったひとつぶの泡、それが私たちの世界。


 私たちが送るのはうたかたの日々」


 神が目覚めると泡沫(この世)は霞のように消えてしまう。私たちが神を認識できないのと同じように、神も私たちをけっして認識できないのだと、パエーゼ・サクラの聖女は詩っている。


 もしそれが真実(ヴェリータ)だとしたら、神が人に手を差し伸べることは永遠にないってことじゃん。



 恵瑠の思考を打ち消すように夢先案内人の声が響いた。


「では、王国の王妃になってOLスキルをいかんなく発揮して下さぁーい!」


 手を振るディーちゃんのもとから離れ、恵瑠の意識は白い空間から放り出された。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 消えたと思っていた光が再び灯り、凄まじい勢いで爆ぜた。


 塔がガタガタと揺れ、高位魔術師達は皆尻もちをついた。


 光の奔流が収束し魔法陣に目を移すと、そこには身長80センチメートルの幼女が立っていた。


「おおっ! せ、成功だ!」


「一時はどうなるかと思ったが、結果良ければ全て良し!」


「すばらしい成果だ!」


 高位魔術師達は皆胸をなでおろしていた。


 幼女(バンビーナ)は自分の身体を見下ろした。


「これがわたち」


 四頭身でズンドーでぷにぷにの身体。


 ディーちゃんによってスケール調整もしっかりと行われており、ベリッシア・パエーゼ基準の幼女になっていた。


(もしかして、スケール調整だけしてもらえばよかったんじゃね?)


 そう思い至ったところで後の祭りだった。


(幼女になってもOLスキルが失われるわけじゃないから、まあいいや)



 部屋の外で待機していたアクヤ、トリーマキ、ヒキターテ、三人の侍女たちがやってきて、幼女(バンビーナ)にフリフリの子供服を着せてだっこした。


「まあ! お姉様、いえ、エル様! とってもドルチェ・カリーナ(スイートキュート)ですわ!」

「ぷにぷに具合がたまりません!」

「一生お側でお世話します、エル様!」



 続いて王子たちが心配そうな表情で入ってきた。


 美しき5人の王子様を目の当たにした幼女(バンビーナ)の心臓がドキドキと大きな音を立てて鳴り響いた。


 王子たちは皆眉目秀麗、高身長で、高学歴、高魔力の持ち主で、まさに理想の王子様!


 これこそが、ベリッシア・パエーゼのリネア・ディ(スタート)パルテンツァ(ライン)なんだ!


「想像以上にかわいいな」

「さすが救国乙女といったところか」

「ぷにぷにだね」

「ぷにぷにだな」

「抱き枕にしたいね」


 アスガル、ベクタス、クレド、デリウス、イースト、五人の王子たちは顔をほころばせた。


 ぺちんと頬をたたいて幼女(バンビーナ)は気合をいれた。


「これからバリバリ仕事をしゅるわよ」


 舌足らずな口調で宣言した。



「ところで誰が王ちゃまになるのでしゅか?」


 と幼女(バンビーナ)が問うと、5人の美しき王子様が一斉に手を差し出した。


「救国乙女よ。私の(俺の、僕の、オレの、ボクの)手を取って」


 王妃に選ばれるのはあなた。


ベリッシア・パエーゼ(美しい国)


 イニツィオ(スタート)






【終】





 追記



 救国乙女がOLスキルをいかんなく発揮したおかげで、傾きかけた王国の立て直しは目覚ましい勢いで行われた。


 女王制がないこの国で、国王不在のまま、救国乙女には王妃という肩書きが与えられた。


 国王は飾りで、いてもいなくてもよいという考えのもと、苦肉の策であった。


 王妃のお相手(キャヴァリエ)は5人の王子が交代で務めた。


 幼き外見の王妃は、王子や侍女たちの抱き枕として重宝され、大事にされていると、風のたよりに聞こえてくるのであった。


読んで頂きありがとうございました。


【問】OLスキルってなんですか?

【解】オフィスの貴婦人レディですから、きっとすごいスキルです。


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