究極のソプラヴィヴィヴェンツァ! 禁忌魔法イノチェンテ・インヴェルソ
決意の乙女! 究極の生存戦略とは?
「ねえ、アクヤ様。私って子供っぽいかなあ?」
お茶の時間に質問してみた。あの泥棒野郎に言われたことを気にしてるわけではけっしてないよ。
「子供っぽいかどうかは分かりませんが」
優雅にお茶を嗜みながらアクヤ様はお答えになった。
「人は大人になっても子供っぽい部分を持ち合わせているものではないかしら。だからこそ魅力的なのではありませんの?」
「ですよね」
遊び心のない大人ほどつまらないものはないような気がする。
カラダは大人で頭脳は子供でも何の問題も無い。
名探偵ガキんちょくんだってそうなのだから。
んっ? ガキんちょ?
その瞬間、ふわりと天啓が降りてきた。
椅子から立ち上がり、右手を天に伸ばして、ガシッと掴み取った。
「これだっ!!」
「はい?」
首を傾げてこちらを見るアクヤ様。
「ちょっと出かけてきます」
そう言い残して、部屋から出て行った。
王宮の中を急ぎ足で歩く。気分はいつになく高揚していた。
真実はいつだってひとつ!
答えは自分の中にあったのだ。
「幼女化」だ。
カラダは子供で頭脳はオトナなガキんちょくんみたく「幼女化」してしまえばいいのだ。
「幼女化」することで、王子たちの背丈問題は解消され、全ては丸く収まるはずだ。
「幼女化」が真実であり、答えだった。
「幼女化」こそが究極の生存戦略だったのだ。
「幼女化」に向けて、王子たちのところへ行って協議を開始した。
「大人の女性を幼女化する魔法? わざわざその身を危険に晒す必要もあるまい」
「幼女化魔法はあるっちゃあるけど禁忌魔法だぜ? いいのかほんとに?」
「遡行魔法イノチェンテ・インヴェルソは大人の女性を幼女化する禁忌魔法だが救国乙女が望むのであればその範疇ではないよ」
「禁忌魔法と言われるだけあって、この上なく危険な魔法だ。幼女化したら最後、二度と大人の女性に戻れないぜ」
「一生四頭身のズンドーのまま過ごすんだよ。四頭身でズンドーだよ」
口々に語るちびっこ王子のアスガル、ベクタス、クレド、デリウス、イースト。
「幼女化」魔法は禁忌で危険。四頭身でズンドー。
そんなの想定内だ。
幸せになるためなら、禁忌に手を染めることだって厭わない。
人を変えるより自分を変えろとは、前世ではよく言ったものだ。
王子の足を叩き斬ることができないなら、自分が変わるしかない!
変わることを恐れていては何も前に進まないのだから。
恵瑠は決意を固めた。
「究極の生存戦略を決行しましょう!」
五人の王子たちと一緒に、転送陣で魔術師協会の塔に移動した。
塔の一室には、三人の高位魔術師たちが集結していた。
「遡行魔法は極めて危険な魔法です。それゆえ禁忌とされていました」
「万全を期すため、我々高位魔術師が三人で詠唱を行います」
「魔法が発動すると、二度と元には戻れません。あとで責任を取れとか言いませんね?」
恵瑠はうなづいた。
「はい。あなた方に責任を問うことはないと誓います。これが誓約書です」
魔法契約書を魔術師に渡した。
「確認しました。ではこちらへどうぞ」
案内された窓のない密室の中央には、複雑な魔法陣が描かれていた。
外部からの干渉を完全に遮断するため、蟻の入る隙間もないほど厳重に密閉された空間で行われる遡行魔法は、ほんの少しの揺らぎさえも許されない、超高難易度の魔法だ。
OLスーツも下着も全て脱ぎ、全裸で魔法陣の中心に立った。どんな小さな異物でも魔法の障害になりかねない。
魔術師から声をかけられた。
「くれぐれも魔法陣から出ないようお願いします。よろしいですかな?」
「わかりました」
魔法の詠唱が始まった。
『過ぎさりし夏の幻影よ、幼き日の淡き思い出よ、失われた輝きを現世に取り戻すため、歳月の影響を消し去る力と、過ぎ去った日々を塗り替える力を彼の者に与え給え! 発動せよ! 遡行魔法イノチェンテ・インヴェルソ!』
足元から閃光が迸り、魔術師の塔がグラグラと揺れた。
身体全体が眩い光に覆われた。
光の中で身体が変貌していく。時間が巻き戻るように、腕や足が縮み背丈が低くなっていく。
29歳から20歳へ。15歳……10歳。ふくよかだった腰や胸はズンドーに変化していった。
7歳、5歳、4歳。そして……。
身長80センチくらいの幼女になった時点で魔法は終了するはずだった。
しかし、身体を包んでいる光に消える気配はない。
さらに手足が縮んで背丈もどんどん小さくなっていく。
「え? ちょ、これって大丈夫?」
不安にかられて魔術師達を見てみると……。
「ま、まずい! 魔力暴走だ!」
「いかん! すぐに魔力供給を止めよ!」
「だ、だめだ! 止まらん!」
ちょっとおおおおぉぉぉぉっ!
ようやく光が収まり、魔法陣に目を移した三人の高位魔術師たちに衝撃が走った。
高位魔術師たちはお互いの顔を見てダラダラと冷や汗を流した。
魔法陣の上には、誰もいなかった。
救国乙女は跡形もなく消滅してしまったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここどこ?
真っ白な空間をふわふわと漂っている私。
カラダはないのに目が見えて思考は出来ている不思議。
「幼女化」の魔法をかけてもらったら、幼女を通り過ぎてちっちゃくなっちゃった。そして……。
「生まれる前まで戻ってしまったのでぇーす」
声が聞こえた。
声がした方向に意識を向けると、ふわふわとした金髪に深緑の瞳をしたド派手系美人がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。
「あなたはだれですか?」
「夢先案内人のディーちゃんでぇーす」
ピースをしてパチッ☆と片目をつぶる夢先案内人のディーちゃんだった。
そうか。
認めたくないけれど、遡行魔法は失敗したんだ。
掴みかけた幸せもなにもかもが手のひらからこぼれ落ちてしまった。
覆水盆に返らず。前世のことわざがグサリと胸に突き刺さった。
うわああああん!
「ベリッシア・パエーゼ」が終わっちゃったあーーっ!
失意のOL。しおしおのへにゃんこです。