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拉致監禁!? 乙女のヴィチーナ・アル・ボルド

ゆるふわファンタジー第5話。イベント発生!


 ベリッシア・パエーゼにやってきて、一か月が過ぎた。


 王妃教育を受けたり、こっちの世界の勉強をしたり、侍女たちとイチャイチャ……もといお茶会を開いたりして日々を過ごしているわけだけれど、肝心のイベントが始まらない。


 相対的異世界転移の影響なのか、全くなんにも欠片ほども始まらないのだ。


 いったいどうなんってんの?


 どんなイベントがあったっけ、ベリッシア・パエーゼのイベントを思い出してみる。



【聖魔伝説】


 聖女教会と魔術師協会が覇権を争う中で、第一王子アスガルと第二王子ベクタスがそれぞれの組織の代表として戦うことになり、王子たちは聖なる山と魔の山で修業をして奥義を得る。その修行の場に手作り弁当を持っていって好感度を上げるという、地味なイベントだ。

 覇権を争うイベントのはずが、いつの間にか救国乙女の寵愛を競うイベントに変わっていて、「私のために争うのはやめて!」と乙女が叫ぶのが印象的だった。

 結末は三パターン。アスガルエンドとベクタスエンドと三人で幸せになろうエンドだ。


【王宮伏魔殿】


 王宮の財務官たちの汚職を第三王子クレドと一緒に暴くイベント。財務官たちの罠をかいくぐりながら、クレドと逢瀬を重ねて好感度をアップ。


【冥界への旅】


 妖精の悪戯で魂を奪われた第四王子デリウスを救うため、救国乙女はひとり冥界への旅に出る。

 幻想的な黄色いカラス(デリウスの使い魔)に護られながら、無事にデリウスの魂を取り戻し、脱出しようとしたところで冥界の王が襲い掛かる。

 光の化身が現れ間一髪ふたりは脱出。光の化身の正体はデリウスの亡き母親で、息子を救国乙女に託して消えていく。この後、有名なひざまくらエンドに突入する。


【失われた花園】


 ふだんから存在感の薄かった第五王子イーストが消失した。なんの痕跡も残さずある日突然に。

 しかし、彼はけっして消えたわけではなかった。失われた花園という別時空に囚われていたのだ。唯一そのことに気がついた救国乙女が王宮の庭園に失われた花園を復活させるとイーストは現時空に生還することができた。

 よみがえった花園で、ふたりはアネッロ・ディ・フィオーレ(花の指輪)を交換して愛を確かめ合う。

 そしてふたりは末永く幸せに暮らしました。


【ネコねこ猫ニャン】


 猫になる呪いをかけられた第二王子ベクタスが逃げ出した。王宮のどこかにいるベクタスを見つけ出せ。猫グッズを使ってベクタスの好感度を上げていく。最終兵器猫耳猫尻尾も登場してベクタスルートまっしぐらのイベントだ。

 このイベントの後、ベクタスは毎夜猫のコスプレを要求(おねだり)するようになり、ふたりはいつまでもニャンニャンして暮らしましたとさ。



 中小イベントを上げればキリがないけれど、大きなイベントはだいたいこんな感じだ。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「はっ!」


 ここはどこ?


 目を覚ますと自動車の後部座席に寝かされていた。


 体を起こして周囲を見た。


 窓の外を見ると人家は見えず、自動車は田舎の道をひた走っていた。


 てゆうか、なんで自動車なの? ベリッシア・パエーゼに自動車なんてあったっけ?


「おや? お目覚めかい?」


 運転席と助手席には見たことのない男たちが座っていた。


 無精ひげをはやした荒くれ者といった風貌だ。




 あれは少し前のことだ。


「平民の暮らしが見てみたいだと?」


「うん。人口の98%は平民なんでしょう? 王族や貴族の生活を支えてくれるおめでたい納税者なんだよね? 搾取するにしても一度その暮らしぶりがどんなだか見ておきたいってのが正直なところなのよね」


 平民のことなんて歯牙にもかけずに生きることは王族や貴族ならばもちろん可能だけれど、実際にそれをやってしまうと、後から必ずと言っていいくらい問題が発生するんだよね。全てを見通す千里眼の持ち主でもない限り、デスクワークだけで問題解決なんて到底不可能な話だ。百聞は一見に如かずって言うし、資料で読んだり提出された報告書を鵜吞みにすると、後で痛い目に遭いかねない。


 新入社員の選別の時だって、履歴書だけで選ぶことはめったにない。必ず面接をしてどのような人間か確かめてから選別するんだよね。


 などと前世のOL時代の経験を交えて視察を提案した恵瑠だったが、本音ではイベント発生もままならず、救国乙女としてなんの成果も得られない現状に若干焦りを覚えていたことも否めなかった。


「お勧めはしないぜ」


「治安が悪いところだよ」


「貴族と平民は違う。なによりも美しくない。救国乙女の審美眼にはかなわないと思うぜ」


「やめといたほうがいいよ」


 五人のちびっこ王子、アスガル、ベクタス、クレド、デリウス、イーストは口々に反対した。


 王子たちの言い分は正しい。美しい国に平民たちのどろどろとした生活感は必要ない。


 けれど恵瑠は、美しいものに囲まれて生きていくためには、平民たちから巻き上げる税金は必要不可欠なわけだから、一度は自分の目で見てあげてもいいかな、などと考えてしまったのだ。


 その結果、襲撃を受けて拉致されてしまった。


 襲撃時のことを思い出すと恵瑠の全身におぞ気が立った。




「敵襲!」


 護衛が叫んだときには突如発生した白いガスによって視界は遮られていた。


 ガスを浴びた護衛たちがバタバタと倒れていった。


「即死ガスだ! 吸うな……うっ!」


 白いガスの猛威は凄まじく、何も出来ないまま現場は制圧された。


 トゥット・スカートラ(なんでも箱)からクレイモアを取り出し、風圧で白いガスを消し飛ばしたときには、立っているのは恵瑠一人だけだった。


 誰一人ピクリとも動かなかった。足元を見ると侍女たち三人が横たわっていた。


「うそ……」


 数秒前までは生きていた生命が次の瞬間には失われていた。


 ズシリと身体が重くなり、自由が利かなくなった。そして意識を失った。




 運転手と助手席の男を恵瑠は睨みつけた。


「何人殺したの」


 憎しみと怒りを込めて問い質した。


「あの襲撃で何人死んだかって聞いてるの!」


「あーーっ」


 助手席の男が頭をかいて何の緊張感もない声で言った。


「ただの朝までぐっすり眠れるやつだから、あれ」


「はっ?」


「誰も死んじゃいねえよ、安心しな」


「へ?」


 ダレモシンデナイ? 聞き間違いじゃないよね。



「手荒なマネをしてすまんな」


 運転手が言った。


「あんたを連れてくるようにと、上からの命令なんだ」


「上って、誰の命令なの?」


「パラケルスス教団の教祖様さ」


「パラケルスス教団!?」



 ベリッシア・パエーゼのイベントのひとつ、パラケルスス教団による拉致監禁事件。囚われの乙女を好感度が一番高い王子が救出に来るというイベントだ。


 なるほど。この事件は起こるべくして起こったというわけね。


 いずれ王子が助けに来てくれるだろうけど。王子たちの好感度を上げた覚えはないからなあ……。さすがに不安だ。


 確かゲームでは、好感度が足りずにこのイベントに突入すると、死亡エンドになるんじゃなかったっけ?


 NOーーっ! 初めてのイベントで死亡とかぜんっぜん笑えないよーっ!



 王子たちの助けなど必要ない。恵瑠は待っているだけの乙女ではないのだ。身体強化をブルにして自力脱出だ!


「ふんっ、ハーーッ!」


 おかしい。身体強化魔法が発動しない。魔力が全く思い通りに流れない。


「なんで?」


 バックミラーからこちらを眺めていた運転手と目が合った。


「魔法は使えないぜ。首のチョーカーは魔法を阻害する魔道具だ。力ずくではずそうとすると、爆発して首が吹っ飛ぶから気をつけな」


 ええええええっ!


 映画で見たアレだ。首がドカンってなって血がドバッってなるやつ。


 さすがにアレは直視できなかった、思わずスクリーンから目を逸らした。アレが自分の首に嵌められているなんて、考えたくはないけれど、手を首にやると確かにありました、チョーカーが。


 いやああああっ!


 救国乙女絶体絶命である。




 パラケルスス教団の本拠地への旅は幾日にも及んだが、自動車による移動は、後部座席が足を伸ばして眠れるほど広々としていたので、思ったほど不快ではなかった。


 途中休憩で車から降りると、二人の男が自己紹介をした。


「俺はウンテン・シュダ。短い間だがよろしくな」


「俺はジョシュ・セキ。独身だぜ」


 白い歯を見せてニカッと笑った。


 なにそのアピール。


 驚いたことに、ウンテンとジョシュの二人は恵瑠より背が高かったのだ。


 4/5スケールのこの世界で初めて会ったよ。



OLの危機!

乙女のヴィチーナ・アル・ボルド……Vicina Al Bordo --> Close To The Edge --> 危機 となります。


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