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「王子の足は叩き斬るもの」なのか

ゆるふわファンタジー第四話。OLがやらかしそうな予感。



 その昔、背が低いことにコンプレックスを抱いた男性は、自らの足を斬り落として義足にした。


 高身長を得た男性はドヤ顔で自分より背の低い人々を見下して歩いたと言われている。


 ふむ。ずいぶん思い切ったことをした男性もいたものだ。


 よっぽどYYCがイヤだったんだろうな。



「おーい、救国乙女」


 図書館で本を読んでいたところへ、ちびっこ第一王子アスガル様から声がかかった。


「これから聖教会だ。支度をするがいい」


 聖教会に行って魔力を測定してもらおうというわけだ


 救国乙女には「トゥット・スカートラ(なんでも箱)」というスキルがある。生活必需品は全部スカートラの中に入っているので困ることはない。OLスーツに、ドレス、パジャマ、ジャージ、下着、なんでも入っているすぐれもののスカートラだ。


 OLスーツに着替えて、王宮内の転送部屋へ向かった。転送部屋の前で待っていた二人の護衛が扉を開けると、部屋の中央に描かれた転送陣が見えた。


 高魔力持ちの王族の移動はたいてい転送陣で行われる。


 アスガル様に手を引かれて転送陣を踏む。


 一瞬で空気が切り替わる。王宮とは壁も匂いも何もかも違う場所に着いた。頭が少しクラクラする。いわゆる転送酔いというやつだ。


 アスガル様がこちらを振り返った。


「大丈夫か?」


「はい」


 部屋を出ると司教が出迎えてくれた。


「ようこそ、アスガル王子殿下、救国乙女様」


「うむ、世話になる」


「よろしくお願いします」


「では、参りましょうか」


 聖教会内は、荘厳な雰囲気なのはもとより、清潔感に満ち溢れ、どこもピカピカに磨き上げられていた。


 聖女は何よりも穢れを嫌うのだから当然かもしれない。


「聖女様は?」


「あいにくご不在にございます」


「そうか」


 聖女の国パエーゼ・サクラの女王アリエンローズ様から、アスガル様は聖剣サクラを授けられたんだよね。聖女は世界に9人しかいない。その中の一人がベリッシア・パエーゼに派遣されている。


 魔力を測定する鑑定の間へと案内された。


 テーブルの上には透明な水晶が置いてあった。


「これに触れて下さい」


 司教に言われた通り、右手を水晶の上に乗せた。


 うっすらと光を放つ水晶を見て司祭がうなった。


「これは、うーむ……。魔力偏差値50ですな」


 ビミョウな偏差値だ。もっとこう景気よくドバッとならんもんかね。


「悲観することはない。50あれば身体強化には十分であろう」


 ちびっこ第一王子アスガル様に慰められちゃったよ。


 お礼に頭をなでてあげようとしたら断られた。


「私は子供ではない」


 はいはい。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「身体強化の練習をしてみよう」


 ちびっこ第三王子クレド様に連れられて、兵士の訓練場にやってきた。


「魔力があれば身体強化は誰でもできる簡単な魔法だよ。見てて」


 クレド様が手本を見せてくれるようだ。


「ふんっ! ハァーーッ!」


 掛け声とともにクレド様の身体が黄金色のエフェクトに包まれた。金髪も逆立っている。


 うん。実に分かりやすい強化方法だ。


「さあ、救国乙女もやってみて」


 言われた通り、体内の魔力を循環させて、身体強化をやってみた。


 ボワッと身体が黄金色に包まれた。


「これが強化1」


 なるほど。魔法はイマッジーネ(イメージ)が大事と言われているように、しっかりとしたイマッジーネさえ持っていれば発動はさほど難しくはない。さらにイマッジーネを膨らませていく。


「強化2、強化3、強化ロッソ(レッド)、強化ブル(ブルー)!」


 強化が進むごとに、エフェクトも変化していった。


「ちょ、ちょ、ちょ! どこまで強化するつもりだい!?」


 前世のアニメでイマッジーネ(イメージ)はだいたいつかめていたからね。


「はじめての魔法でここまで出来るなんて、救国乙女の面目躍如といったところだね」


「どうも」


 いくら強化できたとしても、私はただのOL、デスクワークこそが戦場なのは変わらない。




 ちびっこ王子クレド様が、今度は武器の入った箱を持ってきた。


「好きな武器を選んでみて」


 箱の中を物色してみる。


 片手剣、ちっちゃ。


 ちょうどいい大きさの剣を探すと、ひとつだけあった。


「それはクレイモアだよ。アルティジャーナ産のね」


 とクレド様に指摘された。


 アルティジャーナ、聖女の国の遥か向こうにある職人の国だ。


 この世界は大まかに言うと、三つのグループに分かれている。


 貴族の王国レグノ・アリストラティカ、聖女の国パエーゼ・サクラ、職人の国レプッブリカ・アルティジャーナ。それぞれ魔法使い、聖魔法使い、非魔法使いの国として分類される。


 ベリッシア・パエーゼは貴族の王国の中で最も美しい国と言われている。



 アルティジャーナ産のクレイモアを片手で掴む。両手剣らしいけど、片手で持つのにちょうどいい。


 軽く身体強化をかけて、ブンッと振ってみた。


「悪くないわね」


 さらに身体強化をかけて、標的めがけて振ってみた。


 ブワッ!


 バキッ!


 剣先から飛び出した空気の斬撃が命中し標的は粉々に砕け散った。


「風魔法が付与されてるの? この剣」


 そう尋ねたのだけれど、クレド様はいつまでもポカンと口を開けたままだった。




 眉目秀麗で学歴も高い王子たちに足りないのは背丈だけだった。


 これを克服する方法は無いものか……。


 あれこれ考えた末、辿り着いた結論は、無いなら作ればよい、というものだ。



「背が足りないなら足を継ぎ足せばいいじゃない!」



 昔の人々がやっていたように、足を叩き斬って義足にしてしまえばいいのだ。


 膝下から叩き斬って1メートルの義足をはめてしまえば私より背は高くなるはずだ。


 我ながらボーナ(グッド)アイディア!


 善は急げ。


 ちびっこ第五王子イースト様を訓練場に呼び出した。


 失敗したところで、どうせ末っ子の第五王子だ。問題ないだろう。


「ちょっと実験台になってよ」


「愛の告白の実験台なら、いつでも大歓迎だよ」


「そこに立ってて、大丈夫、すぐに終わるから」


 身体強化をかけてクレイモアを手に取る。


 一太刀で斬り落とすために、身体強化をブルまで引き上げた。


 あとはクレイモアで叩き斬るだけだ。


 力を溜めて、一気に剣を振り抜く。


「お姉様!」

「おやめになって!」


 アクヤ様とトリーマキ様が血相を変えてやってきた。


「どうしたの?」


「王子の足は叩き斬るものではありませんわ」

「イースト様は、ヒキターテの思い人なのですって」


 おおっ! あの内気なヒキターテ様がついにゲロったのか。これは無視できんな。


「そうなの?」


 ヒキターテ様の方を見ると、顔を真っ赤にして頷いた。


 とっても可愛い。


「イースト様の背が高くなったら嬉しくない?」


「イ、イースト様は今でも十分お高いですわ」


「ふーん」


 こんなところにも、スケールに齟齬が生じちゃってるんだね。



 王子の足を叩き斬って、一メートルの義足をはめたところを想像してみたけれど、なんだかバランスがよくないなあ。あしながおばけの誕生だ。


 いい考えだと思ったんだけどもなあ……。


 あきらめるしかないか。


 それに私は可愛い部下には甘いのだ。


 侍女たちの願いはできるだけ叶えてあげたいって思っちゃうやさしい上司なのだ。


 その夜は侍女たちといっしょにヒキターテ様をたっぷりと可愛がった。ベッドの上でね。


 乙女同士のコムニカツィオーネ(コミュニケーション)は楽しいね。




 室内を歩き回って思考を巡らせる。


「このままではらちが明かない。何か恒久的な解決方法はないものかしら?」


 企業には生存(ソプラヴィ)戦略(ヴィヴェンツァ)が不可欠なように、恵瑠の異世界生活にも生存戦略が不可欠なのである。


部下思いのやさしいOL! なごみます。












乙女のコムニカツィオーネを妄想してみました。


OL「さあさあ、ヒキターテ様、私の指をイースト様だと思って、遠慮なくいっちゃってください」

ヒキターテ「そ、そんなはしたない……」

アクヤ「まあっ! 綺麗に花咲いていますこと。甘い蜜の香りが漂ってきそうですわ」

トリーマキ「きっとイースト様もお喜びになること間違いなしですわね」

ヒキターテ「いっ、いきますっ、イースト様!」


ヒキターテはアネッロ・ディ・フィオーレ(フラワーリング、花の指輪)を仮想イースト様の指にはめた。ベリッシア・パエーゼでは、意中の異性にアネッロ・ディ・フィオーレを贈って思いを伝える習慣がある。


こんなことが繰り広げられているのです、たぶん……。



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