救国乙女の審美眼
ゆるふわファンタジー第二話です。OLの厳しい審美眼が炸裂。
本作の主人公は「背の低い男は人間じゃない」なんて、平気で言う女性です。
そういうのが苦手な方はご注意下さい。
【ベリッシア・パエーゼ公式より抜粋】
第一王子アスガルは長男らしい威厳に満ちたたたずまいの正義感に溢れる男性。23歳の彼は救国乙女の到来を待ちわびて、全ての縁談を断ってきた。最も玉座に近い王子と噂されている。聖剣サクラの継承者。
第二王子ベクタスはギラギラした目が印象的な俺様タイプ。22歳の彼は野性的な見た目とは裏腹に硬派で純情な面を持ち合わせている。猫をこの上なく愛する彼に心をよせる令嬢の数は少なくない。魔剣マギカを自在に操る。
第三王子クレドは兄弟仲を取り持つビランチャトーレ的存在。21歳の彼はどんなインチデンテにも冷静沈着に対応できる。王国最強のネゴツィアトーリの称号を持っている。
第四王子デリウスは20歳。楽器キッタラの名手で、遊び人を自認する彼は、とっかえひっかえ女の子とダタツィオーネを繰り返しているが、特定の相手は作らなかった。彼の心の中には理想の女性像があり、理想を追い求める彼を人は夢追い人と呼んだ。
第五王子イーストは19歳の末っ子王子。穏やかで控えめな性格のせいで、よく周囲から忘れられがちである。兄弟そろってヴァカンツァに出かけた際も、ひとりだけおいてけぼりをくらっていた。だが、それによって賊に襲われた令嬢を助けることとなり、けっして目立ちはしないが芯の強い男性でもあった。聖剣と魔剣、両方が扱える器用な面も持ち合わせている。
五人の王子たちの頭髪の色は、ロッソ、ブル、ヴェルデ、ジャッロ、ヴィオラで、それぞれのコローレ・デッラ・イマッジーネになっている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
五人の王子たちと対面した私は、彼らの姿を見て愕然となった。
うそっ!? 王子たちが、まさか! あんなことに!
私の身長は167センチだ。
平均よりちょっと高い程度だ。
男子の平均身長は172センチくらいだから、世の中の半数以上の男子は私より背が高いはずだ。
と・こ・ろ・が!
五人の王子たちの身長は私より低かったのだ!
ちょっと見た感じ、20センチくらい低い!
ということは、147センチしかないってこと!?
ドチビじゃん! 矮小矮躯チンチクりん! 人外じゃん!
人権剝奪されたって文句を言えないレベルだよ。
いくら王子様といえど、これはない。
興味の対象外です。
即チェンジでお願いします。
ここは本当にベリッシア・パエーゼなのか。
自己紹介で五人の王子は自身の身長をそれぞれ自己申告した。
「私の身長は190センチだ」
「俺は188センチだぜ」
「僕は187センチ」
「オレ185」
「ボク183」
数字だけ聞いたらみんな高身長なんだけどさ。
見た目が伴ってないんだよ!
どんだけサバ読んでるんだよ!
「救国乙女は高身長がお好きだと聞いた。私たちは君の好みにピッタリだろう」
堂々と語るちびっこ第一王子アスガル。
なんだこれ?
まるで不思議の国に迷い込んだアリスだよ。
みんなちっちゃくなるキャンディー食べちゃった?
私一人だけがでっかくなって……。
そういえば、ここで会った人はみな低身長だった。
執事もメイドも王宮で出会った人すべて。
縮尺が何分の一とかいうスケールのフィギュアみたく。
その時、ピカッと天啓のようなものがひらめいた。
フィギュア……?
いや、違う。
スケール……スケールだ!!
ある事象について恵瑠は考えを巡らせた。
世界は相対的あって、絶対的ではない。
何事も絶対的なものはなく、世の中の全ては相対的なものなのだ。
そもそもサイズを図る基本のメートル法は、 地球の赤道から北極までの子午線の長さの1000万分の1を1メートルとして定めたってだけで、絶対的なものではない。
地球のサイズが異なれば、必然的に1メートルのサイズだって異なってくる。
なにも物理的なサイズに限ったことではない。
いい人だとか悪い人だとか、善悪にしたって絶対的な基準はない。
何かを基準にして相対的に判断しているだけなのだ。
仕事の業績も、昇進も、査定も、相対的な判断で行われる。
学校でトップだった者が、入社後もトップになれるとは限らないのもそれだ。
世界は相対的であり常に変化し続けているのだから。
スケールだって同様だ。
宇宙誕生から今日までスケールは常に変動し続けている。
泡沫のように無数に存在する世界。それぞれが宇宙年齢も膨張速度も異なる世界においては、スケールもまた違ってくるだろう。スケールが違えば、そこに棲息する生物のスケールもおのずと変わってくるはずだ。合致する場合の方が稀であると言ってもよいのではないだろうか。
パッと見、この世界のスケールは前世を100%とすると80%くらいだ。
つまり4/5スケールでこの世界が存在しているってことだ。
だとしたら、167センチの私はここでは2メートル超えの巨人じゃないか。
ガクッ!
膝をついた私の周りに王子たちが群がった。
「どうした?」
「だいじょうぶか?」
「気分が悪いのかい?」
「無理するなよ」
「ここはいいから休んでなよ」
膝をついているにもかかわらず、王子たちの背は私より低かった。
終わった。
私の異世界転生は終わった。
夢も希望も無残に打ち砕かれた。
世界は相対的であって絶対的ではない。こんな単純なことを見落として異世界転生などと浮かれていた自分が恥ずかしい。
思い返せば前世でもろくな男に出会わなかった。
ドチビから告白されたり、学歴の低い相手からラブレターをもらったり、顔はそこそこだけど貧乏な男とデートしたり……。支払いで割り勘とか言われた日には、我が目我が耳を疑った。金がないなら、最初っから誘うなよ!
ああ、なんて男運のない女なんだろう。
男運のない私は異世界でも男運がなかった。
これってつまりそういうことなのだ。
嘆きのOL! 切ないです。