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5 何もしないって言ったのに

(ど・う・し・て・こ・う・な・っ・た・!?)


 ベッドの上に結衣は横たわり、類が上から覆いかぶさっている。類は結衣の両手首をがっちりと掴んだままで、結衣は身動きが取れない。




 ——数時間前。


 居酒屋で結衣に洗いざらい喋ってスッキリした類は、気をよくしたのかお酒を次々に飲んでいく。


(いやいやいやいやいや、待ちなさい、そんなに急ピッチで飲んだらまずいでしょ!)


「ね、そんなに飲んだらやばくない?佐伯君、お酒強いの?」

「いくらでも飲めますし、飲んでもあまり変わらないって言われますね」


 確かに、あまり変化は見られない。まぁ本人が大丈夫と言うのであれば、それを信じるしかない。そう思って、結衣はお酒を飲まずにつまみをパクパクと食べていたのだが。


(いや、突然寝ちゃうとか、一番ダメなやつ!おい!)


 結衣の目の前で、類は机に突っ伏している。


「佐伯君、ねぇ、佐伯君てば!起きてよ!会計して帰るよ?起きてくれないならこのまま置いてくよ?」

「う、置いてくとか、結衣さん、ひどく、ないすか……」


 机に突っ伏している類の体を揺すりながら覗き込むと、顔を上げて辛そうに呟く類。突然さらっと下の名前を呼ばれた挙句、推しの顔がすぐ目の前にあって、驚いて結衣は思わず立ち上がろうとした。


 ガンッ


「〜!!!いっっ!!たっ!」


  思い切り膝を机にぶつけ、結衣は膝を抱えて倒れ込み、悶絶した。


「大丈夫ですか!?」

「くっ、大丈夫じゃない、佐伯君のせいだ……」

「えぇ……」


 類は結衣の状態に驚いて少し酔いが覚めたようだ。


「痛いけど、佐伯君ようやく覚めたみたいだし、帰ろ」

「……はい」



 そうして、店を出ると、店の外は豪雨だった。バケツをひっくり返したような、という例えをよく聞くが、そんな例えでは収まりきらないほどの雨。


「なんで?予報で雨だなんて言ってなかったのに」

「この雨のせいで、電車も止まってるみたいですね」

「本当に!?うわぁ、どうしよう、ネカフェ開いてるかな……」


 結衣が近くのネカフェがないかスマホで調べていると、横にいた類が、結衣の目の前に移動する。


「俺、実は家がこの近くなんですよ。結衣さん、雨が止むまで家に来ませんか」

「……はい?」

「この雨だから空いてるネカフェ見つけるのも大変だと思います。タクシーだって捕まらないだろうし。……近くのラブホと俺の家、どっちがいいですか。別に変なことはしません」

「待って、何その二択!?」


 戸惑う結衣をよそに、類はいたって平然としている。


(いや、別に何かされるとは思ってないけど。ないけど、推しの……家?行っていいものなのかな?いやでもラブホは流石に無理でしょ、色んな意味でダメ、ダメだよ)


「……雨宿りさせてください」


 結衣が静かにため息をついてからそう言うと、類は静かに微笑んだ。




——そして数時間後。


「待って、なんでこうなってるの?何もしないって言ってたのに!」

「あんな顔されて本当に何もしない男がいると思ってるんですか?結衣さん、マジで危なっかしいな、俺以外の男に隙見せないでくださいね」


 両手首を掴まれベッドに組み敷かれている結衣が抗議すると、類は静かに笑みを浮かべている。


「佐伯君だから、信じてたのに……」

「俺は確かに佐伯類だけど、ルシエルでもあるって言っただろ。ルシエルは天候を操れるって小説やアニメで描かれてなかった?」


 類は静かに、低い声で結衣の耳元に囁く。類の急に口調が変わって、思わず結衣の心臓は跳ね上がった。アニメのルシエルと声は当然違うが、それでもかなり近いものがあり、それも結衣の心拍数を上げる要因の一つになっていた。


「まさか、あの豪雨、あなたの仕業なの?」


 確かにルシエルは天候も操れるキャラクターだ。あの豪雨を起こすことも簡単だろう。驚く結衣を、類は何かを堪えるような切羽詰まった表情で見下ろしていた。


「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど。類とルシエル、どっちが好きなの?」





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