学年首席
今日は実技試験の内容が発表される日だ。
昼休憩の際、俺たち三人は試験内容が張り出される前からロビーの掲示板前で待機していた。
「だんだん人が集まってきたねー」
「やっぱり皆試験内容が気になるんだな」
「実技で赤点取ったら夏休み返上で補習だからねー。わたしそんなの絶対イヤ」
ラビーは腕組みしながらそう言った。
夏休み——魔族の学校には無かったが、ここでは季節ごとに長期休暇が設けられているらしい。
「エルトは夏休みの予定あるの?」
隣に立っていたコルネが掲示板を眺めながら小さな声で尋ねてくる。
「無いな」
「無いんだ……」
「あ——来たわよ!」
ロビーにやってきたアランシアを見てラビーが声をあげた。
辺りが途端に騒がしくなり、アランシアは険しい表情を見せながら掲示板の前に集る生徒たちを追い払う。
「あーはい退いて退いて。掲示板から離れて静かに待機、はやく」
彼女はそう言いながら大きな羊皮紙を広げ、手際よく掲示板に張り出した。
「——はい注目! 実技試験の内容を簡単に説明するよー」
直前まで騒がしかったロビーに緊張の空気が漂い始めた。
「今回は三人一組のゴーレム戦。目標は私が創り出したゴーレムをできるだけ多く倒すこと。ゴーレムは倒すごとに強くなり、出現から五分経過しても倒せない、もしくはチームメイトの一人が魔力切れか試験前に配布される安全装置を二回作動させた場合、試験はそこで終了とする。要はこの終了条件を満たさないよう上手く立ち回ってゴーレムを沢山倒せってこと。試験の評価はチームの合計討伐数と個人の魔法技術によって決まる……私からは以上。細かい部分は掲示板を確認しておくように……質問はその後でよろしくー」
アランシアが説明を終えてその場から立ち去った途端、ロビーが再び騒がしくなりあちこちから不安に満ちた声が聞こえてくる。
「一年生の試験がこんなに難しいだなんて聞いてない……!」
「先輩たちによれば入学試験とさほど変わらないって話だったのに!」
「ほとんど実戦だ……俺たちにはまだ早くないか……?」
彼らが不満を垂れ流す中、ラビーは一人掲示板の前に立ち試験内容が書かれた紙を黙々と読んでいた。
「今年の一年生、例年よりも全体的にレベルが高いから試験の難易度も上げるって言ってた」
コルネはラビーの背中を見ながらそう言った。
学園長から聞いた話か……筆記が思いやられるな。
すると突然、掲示板の前に居たラビーが頭を抱えて叫び声を上げ始めた。
「あぁぁぁ、やっぱりねー!! もー最悪っ!!」
その様子を後ろから見ていた俺とコルネは困惑しながら顔を見合わせ、彼女の元に向かう。
「おい、急にどうした」
「分かってたのよ!? 最初から分かりきってたことなんだけど——試験は魔道具の使用と持ち込み禁止って書かれてるの……!」
「試験に魔道具持ち込んで何する気だったんだお前」
「ほら……私の得意分野って魔道具だし色々持ってるから、試験でも魔道具使えたらいいなーって思ってたんだけど……ダメみたい」
「まぁ、当然だな……」
「エルトお願い——私と組んで!! 絶対足手まといになるけどお願い私と組んで!!」
俺の両腕を掴み至近距離で泣き叫ぶラビー。
「他に組む相手もいない。分かったから落ち着け」
「コルネも!! お願い私を見捨てないでぇぇ!!」
「うん。一緒にがんば————」
「見苦しいこと」
突然会話に入ってきた聞き覚えのある声——入学試験の時コルネに絡んでいたあの貴族だ。
「またお前か……」
「落ちこぼれに試験を受ける資格なんてないわよ? そこの魔人を連れて早いとこ学園を出て行きなさいな」
あの貴族はラビーに蔑んだ目を向けながらそう言った。
すると、ラビーは抑えていた怒りの感情が爆発したのか俺を突き飛ばしあの貴族を指差して正面から睨み付ける。
「なによ! せっかく受かった学園をあんたに言われて辞めなきゃいけないのよ! ここじゃ貴族と平民は対等なのよ対等! 香水臭いからどっか行ってくれる!? わたし今すごい大事な話してるの!!」
「好き放題言ってくれるわね。だったら対等に、試験で勝負しましょ? ゴーレムを倒した数が少ない方が三人揃ってこの学園を辞める、これでどうかしら」
「ふんっ、お断りよ! あんたを学園から追い出したいのは山々だけどわたしギャンブルはしない主義なの。いいからあっち行って!」
「やっぱり負けるのが怖いのね。あんたの態度次第ではハンデをあげてもいいわよ?」
あの自信は一体どこから来るんだ……。
「————ヘリドナ」
貴族の背後に立ち穏やかな表情を浮かべる金髪の男子生徒。
顔見知りか……身なりからしてあいつも貴族なんだろうが、どこかで見た覚えがあるな……。
「っ——ラスター……」
彼と顔を合わせたヘリドナ一行は途端に警戒心を丸出しにし俺たちの方を見なくなった。
「そのくらいにしてあげなよ。ほら、皆の邪魔になるから」
ラスターが掲示板の前から退くよう促すと、ヘリドナは舌打ちをして連れと共に去っていた。
「べー」
既に見えなくなったヘリドナに向かって舌を出すラビー。
「僕の友人が失礼したよ。はじめましてだね」
随分短い挨拶だな……こちらが知っている前提か。
そう思っていた時、隣にいたコルネが俺の袖を軽く引っ張ってきた。
「ラスター・アート。公爵家の長男で、入学試験をトップで通過した学年首席の人。入学式で見てると思う」
あー、首席の挨拶でステージに立っていた気もするな。
「きみ、学園長の娘だよね?」
ラスターから直視されたコルネは顔を逸らしながら小さく頷く。
「きみの成績、僕の次に優秀だったはず。僕はきみの本気が見てみたい、ヘリドナじゃないけど、よかったら僕と実技試験の成績で勝負しないかい?」
その直後、ラビーが二人の間に割って入った。
「ちょっと! あんたも変な条件吹っかけてくる気じゃないわよね!?」
「安心してほしい、僕は彼女の本気が見たいだけなんだ。仮にきみたちが負けても僕は何も要求したりしない。逆にきみたちが勝ったら、きみたちの願いをひとつだけ叶えてあげてもいい、出来る範囲でね」
「そんなうまい話があるか」
この男、話せば話すほど信用できないな。
するとラスターは澄ました顔で俺の元に歩み寄り耳元でこう囁いた。
「きみは魔族だ——僕の勘がそう言っている。もしこの誘いを断ったら、僕はきみの秘密をうっかり誰かに暴露してしまうかもしれない」
次回 『強化合宿』