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新入生は魔王の子  作者: 岩井碧月
新入生は次期魔王
2/8

入学式

「お前も合格したんだな、コルネ」


「うん」


 今日は入学初日。

 学園の試験に合格した者は、今からこの大ホールで開かれる入学式に参加することになっている。


 既に大ホールは新入生と在学生で埋め尽くされ、まるで祭りのような賑わいを見せていた。


「盛り上がれるようなスケジュールでもなかっただろう……」


 通知に書いてあったのは生徒や魔導師の挨拶に徽章授与、そしてクラス発表だ。


「この魔法学園の入試は世界でも最難関だから、入学式は在学生の歓迎がどこよりも熱い」



「合格おめでとぉぉぉ!! 入学おめでとぉぉぉ!!」

「我らの魔法学園へようこそぉぉ!!」

「困ったことがあったらぁ、俺たち先輩魔法使いを頼れよぉぉぉ!?」


 男子在学生たちの声が他の者たちの話し声をかき消すほど絶え間なく大ホールに響き渡っている。

「暑苦しいの間違いだろ……」


 ていうか俺……よく白紙の解答用紙で合格できたな。

 魔力測定と適性検査でなんとか巻き返せたのか……。


 そして間もなく、ステージの方で何者かが床に杖を突き立てる音を響かせた。

 一瞬にして大ホールが静まり返り、全生徒の視線がステージへと向く。


 ステージ中央に現れたのは、学園長のアルカーサだ。

「これより、カーミレイ王立魔法学園の、入学式を執り行う」


 いよいよ入学式が始まった。

 アルカーサは慣れ切った様子で歓迎の挨拶を済ませて退場。

 その後は新入生と在学生それぞれが挨拶を行い……長く退屈な式はようやく後半を迎えた。


 ————と、思いきやだ。


 この徽章授与からがとてつもなく長かった。


 アルカーサはあろうことか、学園生徒の証である魔法陣が描かれたブローチを200人近い生徒たち一人ひとりに()()()で授与していった。


「長い……魔法で配るとかクラス単位で配るとか、もっとあるだろ……」


「たしかに長いけど、私は手渡しの方がいいかな」


「なんでだ?」


 コルネはステージの方を見ながら小さな声で言う。

「お母さんがいるこの学園に入るのが、私の夢だったから……。あのブローチは、お母さんから直接貰いたいの」


 ……そうか。

 成り行きで適当に試験を受けて入学した俺と違って、コルネは夢を叶えるためにあの試験を突破したんだ。

 いや、コルネだけじゃない——ここにいる新入生全員に大なり小なり何かしらの夢や目標があり、中には日々の努力の末今日それが叶った者もいるだろう。


 そんな記念すべき日に、式が長いなんて無粋なことを言うものじゃないな。


 しばらくして——徽章授与の順番が回ってきた俺はコルネと共にステージへと上がった。


 俺の一つ前で待機していたコルネがアルカーサの正面に立つ。


「入学おめでとう……コルネ」


 差し出されたブローチを受け取ったコルネは、いつもの彼女とは違いアルカーサの目を真っ直ぐに見つめていた。


「はい……ありがとうございます……!」


 コルネがステージを降りた後、俺は彼女と入れ替わりでアルカーサの前に立つ。


「入学おめでとう、エルト」


「あぁ、ありがとう」

 受け取ったブローチは見た目よりもほんの少しだけ重く感じた。


「少しは生徒らしい振る舞いができるようだな」


「式を台無しにするわけにはいかないからな」


「感謝する」


「それは俺の台詞だ」


 他愛もない会話を終えた俺はそのあと何事も無かったかのようにステージを降りた。


 まもなく徽章授与は終わり、最後のクラス発表の時を迎える。


「同じ……ス……」

 隣に立つコルネの声が微かに聞こえた。

「……なんか言ったか?」

「同じクラスに……なるといいね」

「そうだな」


 コルネは俺が魔族だと知っている。

 人間のフリをするなら同じクラスにいてくれた方が頼りやすいかもしれない。



「それでは……これより一年生全6クラスの振り分けを、一斉に発表する」



 アルカーサは声を張ってそう告げると、大きく杖を振って青白い光の障壁を作り出し、そこへ新入生約200人の名を一斉に刻んだ。


 大ホールが一気に騒がしくなりあちこちで生徒たちが跳びはねる中、俺は魔法の壁に書かれた自分の名を探す。


「あった……一組だ」


 思いのほか早く見つかったな。


「……あ、私も」

 コルネは魔法の壁に書かれた自分の名を見つめながらそう言った。


「同じだな」

「うん……よかった」


 アルカーサの計らいか……それとも偶然か……。


「以上で入学式を終了する。これより新入生諸君は各々自身のクラスを確認し、担当魔導師の案内に従って学園内を見学して回るように」


「はーい、一組のみんな私のとこに集まってー。遅い子は置いてくよー」


 あの丸眼鏡……たしか試験の時に登録を手伝ってくれた女教師だな。

 あいつが一組の担任か、エレパスとかいう奴に当たったら最悪だったが……一安心だ。


「早く行こ、エルト」

「あぁ」


 そして、コルネの後に続いて担任の元へ向かう途中のことだった。


「はぁ~……長かったぜぇ~……!」


 俺はその台詞を聞いた瞬間、声の主の首に背後から腕を回し、彼の瞳の奥を至近距離で睨みつけた。


「おい、もう少し黙ってられないのか?」


「はっ——えっ……?」


 男は困惑しながらも怯えた様子を見せる。


「だれキミ……新入生、だよね……?」


「だったらなんだ。いいからもう少し黙ってろよ。それができないなら、そこの暑苦しい奴らと一緒に最後まで場を盛り上げろ、いいな?」


「は……はいっ……! 盛り上げますっ……!」


 俺がその場を去ると男は一目散に暑苦しい連中の元へと向かい、彼らに加わって俺たち新入生を大ホールから送り出し始めた————


「さぁ、君たちの学園生活が始まるぞぉ! 共に青春を謳歌しよぉぉぉ!!」

次回 『魔道具店の娘』

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