第6話自然は厳しい
森の中を走るセイウチ型モンスターから逃げながらこれは悪い夢なのではないかとナナシは自分に問う。
海の生物であるセイウチが陸を、しかも森の中を走るなど常識で考えて有り得ない。
とはいうもののそもそもここは異世界なので転生者である彼が元居た世界の常識を持ち込んだところでそれはナンセンスというものだ。
「くっそぉ、ついてねぇな! なんでよりによってこんな奴に出くわすんだよっ!」
とは言え、セイウチはあまり足が速いわけではない様だ。
ならば逃げ回りながら対処法を考えればいい。
ナナシは頭をフルに回転させ自分の『特殊能力』について考えた。
「恐らく俺の能力はコピペ的なものだ」
コピー、もしくはカット&ペースト。
その推理が当たっているなら夢が広がるではないか。
考える。例えば相手のステータスをカットして自分に張り付けてみるとか中々に反則級だ。
「ふふふ、反撃の時は来た!ならばまずは……『ステータスオープン』!!」
振り向いてセイウチに手をかざす。
するとステータスウインドゥが可視化され……なんてことは なかった。
「よし、プランその7、逃走だ!!」
世の中そんなに甘くはなかった。
ステータスウインドゥが出た際にやろうと思っていたプランが6つほどあったが一瞬にして全て瓦解した。
念のため、言葉を変えて『ステータス参照』などとも言ってみたがやはりダメだった。
ならば出来る事を探すしかない。ともかくどの様な能力かをきちんと把握しなければいけない。
ナナシは逃げ回りながら周囲のものに触れて『カット』などと心の中で念じてみる。
すると手に持った木の枝が消え掌には木の枝と思しき印が浮かびあがある。
「やっぱり『カット』できる!」
ならばと木に手をついた時に『ペースト』と念じると木の枝がそこから生えて来た。
「やっぱりだ。『カット』と『ペースト』が出来る!!」
ナナシはそう確信する。
ならば逃げ回りながらこの能力を利用した戦い方を組み立てればよいのだ。
そう思ったが……世の中それ程甘くはない。
幾ら相手の足が遅いとはいえ逃げ回って居ればこちらの体力もすぐ切れる。
かといってあの巨体相手に体力勝負を挑むのは余りにも分が悪い。
(詰んだ! おしまいだ!)
自然の厳しさとは正にこの事。
異世界に転生したから、特殊な力を手に入れたからウハウハで俺TUEEというのは大間違いだ。
能力とて万能ではなく、しかも自分よりも遥かに大きな敵に対してはあまりにも無力だ。
そうこうしている内にとうとうセイウチ型モンスターはナナシに追いつく。
「ぐえっ!」
軽く体当たりをされただけで吹っ飛ばされるナナシ。
(ああ、こりゃダメだ)
死を覚悟した瞬間だった。
「はぁぁぁいっ!!」
横から飛び出してきたトリアの拳がセイウチ型モンスターの脇腹 を捉えた。
「グエエエェェッ!!」
もんどりうって吹っ飛ぶセイウチ型モンスター。
(た、助かった?)
「ふ~間一髪だったね!もう大丈夫、ボクが来たからには安心だよ」
親指を立て、ウィンクをするトリア。
「あ、ああ……トリア」
「デッパドンかぁ。こいつの肉、あんまり 美味しくないからあんまり倒したくないんだよねー」
ため息をつくトリアの背後からデッパドンがまたも突っ込んでくる。
「トリアっ!」
「だーいじょうぶ!」
今度は華麗に躱して拳を打ち込むトリア。
セイウチ型モンスターは悲痛な叫びをあげてのたうち回る。
「よいしょーっ!!」
そして追い打ちとばかりに蹴り上げるとセイウチ型モンスターは息絶えた。
(つ、強い……)
ナナシが手も足も出なかった相手をトリアは拳だけで圧倒してしまった。
正に力こそパワー。
「えへへ、もう大丈夫?ケガはない?」
「あ、ああ……トリア」
「ん?なに?」
「トリアって強くてカッコ良いな……」
「え、そお?えへへ~そう面と向かって言われるとテレちゃうね~」
ポリポリと頬を掻くトリア。その仕草は少し可愛いらしかった。
ただ、何処からか出した串焼きを頬張ったりしなければ完璧だったのだが。
「お前、また食べてるのか?」
「え?あ、うん。お腹空いちゃって」
一段落した所でナナシは気になった事をトリアに尋ねてみる事にした。
「なあトリア……お前ってもしかして俺と同じで転生者とかでは……」
「んーや、違うよ。ボクは正真正銘この世界生まれこの世界育ちの普通の女の子」
普通とは何だろうかと疑問が湧いたがそれは一旦置いておく事にする。
「ならお前のその強さは一体……」
「ん?ご飯一杯食べて修行したらこうなっただけだけど?」
聞くんじゃなかったとナナシは思った。
多分、トリアの基準はスタンダードではない。
何か理不尽な力を感じずにはいられなかった。
「さて、と。持って帰るとしましょうか」
トリアはデッパドンを軽々しく持ち上げるとそのままスタスタと歩いていくのであった。
「それ、持って帰るのか?」
「そうだよ。解体すれば売れるし。肉はあんまり美味しくないけど食べられるからねー」
「そうか……食うのか」
そんな気はしていた。
モンスターを担ぎながら歩くトリアの後ろをついて行くのであった。




