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第3話 名前を付けてもらいました

 記憶喪失の男は現代知識……とは言い難い『泣き落とし』で無事トリアの旅に同行させてもらうことが決まった。


「あーあ、ボク何でこんなの拾っちゃったんだろう……」

「え?何か言ったか?」

「何でもありませーん」

  

 とりあえずは状況を確認せねばとトリアは男に質問する。


「一応確認するけどさ、お兄さん冒険者ライセンスは……持ってるわけないよね」

「残念ながら」


 トリアは小さくため息をつく。

 ワンチャン持っている可能性も考えたが予想通りではあった。


「だよね。記憶喪失なんだし当然か……」

「実はそのことで君にとても大事な事を伝えておこうと思うんだ」 

「何かな。まあ、あんまり期待はしないでおくよ」

 

 トリアは少し投げ槍に答える。

 どうせ大した情報ではないのだろうと考えたのだ。

 

「いや、衝撃的な情報だぞ?実はな、俺、こことは違う異世界からやってきたんだ」

 

 衝撃の告白。

 トリアはさぞ驚いているだろうと男はわくわくしながら彼女を見るが、その表情はいたって普通だった。


「あー、はいはいそのパティーンねー」

「あれ、随分と反応が薄いな。ていうかパティーンって……」

「まあ、薄々そうじゃないかっては思ってた。この世界の人じゃないんだろうなぁって。そうでなければただの頭がおかしい人かなぁって」

「それ、酷くないか!!?」


 男は反論するが、彼女は特に気にする様子もない。


「転生者って珍しくないんだよねぇ。お兄さん、運がいいんだろうね。転生する場所次第では死んでたかもしれないよ?ああ、これ転生者かなぁって亡骸、結構あるからね」


 知らない現実を垣間見た瞬間であった。

 確かに転生場所次第ではモンスターのおやつになったり人里に辿り着けず野垂れ死にしていた可能性もあるだろう。

 彼だって湖に沈んでいたわけだからトリアが釣り上げなければそのまま溺れ死んでいたかもしれない。

 何かしらチートな能力を手にしていたとしてもそれが生きる場面に遭遇出来なければ活躍する暇もなく終わってしまう。

 そう考えるとかなりの幸運だったのかもしれない。

 

「お兄さんが湖で喚いていたみたいに転生者ってのは何かしら特別な『ギフト』ってのがあるみたいなんだよね。まあ、通常攻撃が全体攻撃ってちょと意味がわからないけどね。お兄さんはどうだろうね。何か不思議な能力は持ってると思うんだけど」

「えっ、そうなのか?」

「気づいてなかったかぁ。お兄さんを釣り上げた時、釣り針が刺さって抜けんかったんだよね。でもお兄さんはその釣り針を触れるだけで消したんだ。その後で、熊が出て来た時、何処からか釣り針が出てきて偶然熊に刺さった。そのおかげで追い払えたんだよ」

「それって能力かぁ?単に釣り糸が切れてそれを俺がポケットか何かに入れていただけだろ?」

「あの釣り糸って『デビルタランチュラ』っていう大蜘蛛の吐く糸が原材料なんだけど凄く丈夫なんだよ?ちょっとやそっとじゃあ切れない」


 彼女の口から次々と出てくる単語は正に異世界転生をしたという実感を強めるものであった。


「でも何か能力を使ったなんて」

「自覚ナシのパティーンだね。無意識で使っている。その力使いこなせるか、それとも取り殺されるか。それはこれからのお兄さん次第だよ」

「こ、怖いこと言うなよ……」


 トリアはフッと笑い、そして真剣な表情に戻る。


「運がいい記憶喪失の転生者さん。うぇへへ、ちょっと面白くて滾って来るかも。お兄さん、冒険者には興味ある?」

「そ、そうだな。やっぱり異世界と言えば冒険だし、憧れはあるかな」

「それじゃあお兄さんが冒険者試験を受けられるようにしてあげるよ。場所がいい。この町にはギルドの支部があるからね。住所とかが無いお兄さんでもボクの推薦があれば試験に挑戦できるよ」

「おおっ、本当か!ありがとう!」

 

 男は目を輝かせながら礼を述べる。

 システムはよくわからないが本格的に異世界転生らしくなってきた。


「でも名前が無いのはマズいね。登録も出来やしない。だから祝福を込めてお兄さんに仮の名前を贈ってあげようかな。うーん、何がいい?カッコいい名前がいいかな?それとも可愛い方がいいのかな?うぇへへ、迷っちゃうなぁ~」

 

 そしてしばらく迷った末……


「あー、うん。もう『ナナシ』でいいや」

「おぃぃぃっ!!?何か途中でテンション下がって適当になったよな!?!?」

「えー、そ、そんなことないよぉー?」

「いや絶対適当に決めただろ!!」

「じゃあ『ぴっぴまる』で」

「すいません、『ナナシ』最高です。マジ感謝っす!!」

「はい決定~。それじゃあ早速ギルドに行って登録しようか!」


 こうして男は記憶喪失の男『ナナシ』として冒険者を目指すことになったのだった。

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