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第2話 ハンバーガーが美味しい

 記憶喪失の男はトリアの案内で近くの町まで連れていってもらう事に。


「はい、ここが『アールワイの町』だよ」


 その町は至る所に緑が生い茂り、水も澄んでいて、自然豊かな所だった。

 だが何より男を興奮させたのはやはりそれがゲームなどで見るヨーロッパ風の町並みだった事だ。


「おー!すげー!」


 男は感動して思わず叫んでしまった。


(ここが俺の異世界無双。そしてハーレム人生のスタート地点となる町!)


 そんなロクでもない事を考えているとトリアはお腹を押さえ呟く。


「お腹空いたなぁ。お兄さん、驕ってあげるから何か食べようよ」


 そう言ってきたトリアを男は見る。


「うむ。ではごちそうになろうかな」


 異世界で出会った初めての女の子。

 ちょっと怪力だったり気になるところはあるがボクっ娘なのもポイントが高い。

 というか男は女の子と食事など初めての経験な気がした。


(俺は非モテだったんだろう。だがここから俺のモテ街道。現世の知識で無双が始まるんだ。まずはこの世界の食事レベルを確認させてもらうぜ)


 トリアに連れられて入った店は窓も多く思ったより明るい雰囲気だった。


「好きな具材を選んでね。バンズはノーマルでいいよね?」

 

 トリアの言葉に男は怪訝な顔をした。


「え?バ、バンズ?」


 バンズと言えばハンバーガーなんかのあの丸いパンではないだろうか。


「うん。そうだよ。あれ、もしかしてお兄さん知らないの?じゃあボクのオススメにするね」

 

 トリアはそう言って店の主人に注文する。

 前世でよく見たあの丸っこいパンが用意されその上にハンバーグのようなものが2段重ね。


(うわ、どうしよう。ハンバーグ出て来ちゃったよ。結構分厚いな)

 

 ソースが掛けられそして葉野菜。その上へ塊から切り出されたチーズらしき物体が置かれる。


(チーズかなあれ?これもまあまあ分厚いぞ。ていうかこれってもうあれだよな?)


 そして最後にバンズが上から乗せられ具材をサンドする。

 そう、正にハンバーガーだ。

 男が驚いている間に目の前でトリアが会計を済ませる。


「はい。ハンバーガーだよ」


 トリアは笑顔で男を見た。


(まさか本当に異世界でもハンバーガーがあるなんて予想外だぞ。結構食文化進んでるのかな?)


 その後、トレイに乗ったハンバーガーを持って席へ行き食べることに。

 しかもポテトとジュースまでついている。


(ウソだろ……完全にハンバーガーチェーンのスタイルじゃあねぇかこれ。サイドメニューまであるし……しかもポテトがカリカリで美味そう。てかジャガイモ、あるんだこの世界……食糧問題解決だわ)


 男は恐る恐るハンバーガーを口に運ぶ。

 すると口の中に広がる肉汁と濃厚なソースの味。

 このソースがまた美味いのだ。

 男は夢中でそれを食べ進める。


(これは間違いなくハンバーガーだ。しかも……あっちより美味い!!)


「うぇへへ、このムルルチーズのトッピングはボクのお気に入りなんだよ」


 ポテトを食べてみるとこれがまた塩加減抜群で美味しい。


「いい食べっぷりだねー。それじゃあボクも食べよっかな」


 言うとトリアはモニュッモニュッと音を立てながら大きな口でハンバーガーを頬張り始める。


(な、何て豪快な食い方なんだ……俺の記憶でわずかに残る女の子達はもっと一口が小さかったぞ?)


 だが見ていて気持ちがいい。

 ポテトも一本ずつではなくがしっと掴んで複数本を口に運んでいる。

 口の周りに付いたソースを指で拭って舐めている姿に思わず見惚れてしまった。


「ん?どうしたのお兄さん?」


 視線に気付いたトリアが不思議そうな顔をして聞いてきたので慌てて目を逸らす。


「い、いや何でもない」

「ふーん、変なのー」


 そう言うとトリアはジュースを取ると喉を鳴らしながら一気に飲み干す。


(す、凄い飲みっぷりだな……)


 そう思っていると今度はコップを置くと同時にプハーという音が聞こえた。


(おっさんだ。この子は中身はおっさんだ)


 見た目美少女なのにトリアの仕草は完全におっさんのそれである。


「あー、美味しかった。それじゃあお兄さん、ボクはこれで……」

「ま、待ってくれ!」


 席を立とうとするトリアを呼び止める。


「ん?なーに?」

「実は俺、何であそこに居たか記憶が無いんだ。だからわからない事が多くて。だから……」

「そっか、大変だね。くじけず頑張ってねー。じゃっ!!」

 

 やはりトリアは話を切り上げ出て行こうとする。

 意外と薄情な性格らしい。

 だがここで逃すわけにはいかない。

 右も左もわからぬ異世界。今は彼女だけが頼りなのだから。


「ま、待ってくれ。頼む。俺を仲間に加えてくれ。このままじゃ路頭に迷ってしまう」

「えー、ボク、一人旅派なんですけど……」

「そこをなんとか!!」


 それに彼女と旅をすればその中で躍進する自分に惚れてくれるかもしれない。

 ハーレムのメンバー候補第1号をみすみす逃すわけにはいかないのだ。


(ここは何としても粘らないと!)


 男は決意を固めると思い切ってトリアの脚に縋り付く。


「お願いだぁぁぁ、捨てないでくれトリアぁぁぁぁぁっ!!」

「うえぇぇぇっ!!?な、なにしてんの!?」


 驚くトリアが引きはがそうとするが男も根性を振り絞ってしがみつく。


「待って、人が、人が見てるからぁっ!」

「俺にはお前しかいないんだよぉぉっっ!!うわぁぁんっ!!!」


 周りの客達が騒ぎに気付いて集まりだした。


「うぇっ!?な、何でもないですからっ!この人ちょっと頭がおかしいだけだからーっ!」

「そんな事言わないでくれ。何でもするから連れて行ってくれよぉぉっ!ご主人様ぁぁぁ!!」

「ちょっ、そこ通報するの止めて!!わ、わかったから。連れてくから泣かないでぇぇぇ!!」

 

 結局、男の必死さに根負けしたトリアが同行を許してくれたのだった。


(見たか。これぞ異世界を無双する為の現代知識、その名も『泣き落とし』だ)


 男は心の中でガッツポーズをした。

 ただ、残念なことに『泣き落とし』は現代知識でも何でもなかったりするのだが……

 そしてトリアはとんでもないものを拾ってしまった。あの時湖に返せばよかったと後悔するのであった。

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