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九話:託された思い

見覚えのある部屋の中で白衣を着た少女が、品の高そうな椅子にもたれながらプリントの束をパラパラと捲っている。

 

「・・・今回は最重要任務です」


 プリントに目を遣りながら俺と赤嶺に向けて話し続ける。


「失敗は許されません、必ず成功させてください」


 その一言に重みを感じ、今回の敵は何か厄介なものなのか、と思った。


「その通りです宮沢くん、今回の敵はいつもと違います」


 尖った目つきが俺たち二人に向く。


「他のヒーローと協力し、討伐してください」


 少女が話終わるのと同時に後ろの扉が開く音が聞こえた。


「準備が整いました、地方の警察にも伝達済みです」


 聞き覚えのある声が背後から聞こえる。


「分かりました、では検討を祈ります」


 説明はこれだけか。


「ちょっと待て、まだ分からないことがある」

「何でしょう、手短にお願いします」


 早くことを済ませてほしいと言わんばかりに、前後ろから冷たい視線を感じる。


「今回の敵はいつもと何が違うんだ」


 しばらく沈黙が続いた後、白衣の少女がゆっくり口を動かした。


「説明するよりも実際会った方が早いです・・・ただ倒しずらいとだけ言っておきましょう」


 頼りになる情報を与えられることなく俺たちは部屋を後にし、厄介な殺人鬼がいるされている現場へ向かった。

 道中、魔法少女と掃除野郎にも今回の殺人鬼の情報を訊いてみたが、二人とも、遭遇すれば分かる、と言うだけで、何も説してくれなかった。

 不安の胸に残したまま、殺人鬼の出現地点へと着いた。そこはひどく錆びれた商店街で、通りに面している店は全てシャッターがしまっており、昼間なのに人は誰一人としておらず静まり返っていた。


「幸い、この辺りはあまり人が寄り付きません、なので思う存分捜索できますよ」


 思う存分暴れてもいいぞ、という意味にも聞こえる魔法少女の命令を受けるとすぐ、赤嶺を捜索態勢にし、辺りを散策させた。


「なあ、こんな時に訊いて悪いが、殺人鬼の出現場所って何か規則性でもあるのか」

「そうですね・・・憶測ですが、人の多いところや娯楽に満ちているところなどに現れると考えられています」


 犬のように地面を這いながら、足早に通りを突き進む赤嶺を眺めながら魔法少女と俺は他愛のない話を始める。


「殺人鬼はまだまだ知らないことが沢山あります、奴らが人を襲う目的、何故現れたのか、世界中の研究者たちが秘密裏に調べていますが、未だ解明されていません」

「解明・・・できるのか」

「どうでしょう、人間の力では到底手に負えない存在ですからね、私たちヒーローがいなかったら殺人鬼と戦おうなんて思いませんでしたから」

「お前たちの存在が如何に貴重なものかよく分かったよ」


 いつの間にか赤嶺は掃除野郎と商店街の一番端まで行っていた。

 何やら大きく手を振っており、こっちに来てほしいみたいだ。


「何か見つけたみたいだな」


 振り向くと横にいた魔法少女はいなくなっており、既に赤嶺の元まで向かっていた。


「瞬間移動かよ・・・」


 彼女の後に続くように、俺は全力疾走で赤嶺の元へ向かった。


「この先になにかいるみたい」


 赤嶺と掃除野郎は建物と建物の間にできた、わずかな隙間の前に立っていた。


「すごいねここ、秘密の通路みたい」


 俺は呼吸を整えながら、狭い隙間を見た。


「ほんとに、ここなのか?」

「うん、何か妙な気配を感じまーす」


 赤嶺は歌舞伎俳優のようにゆっくりと首を動かしながら答える。


「とにかく、行ってみましょう」

「入れるのか」

「私なら入れそうね」


 魔法を頭から足先まで見てみる。低学年の子供よりも小さな体をしていた。


「・・・確かにな」


 皮肉の込めた返答をする。


「あなたとグリーンライダーは待機してて」

「あのー私は?」


 恐る恐る赤嶺が魔法少女に近寄る。


「あなたは私と一緒に来て」

「え?」

「あなたもこの中に入れるでしょ?」


 言われるがまま、赤嶺は自分の体を見渡す。


「私・・・クリックちゃんよりも大きいよ」


 ギャグが滑った時のように周りが凍りついた。

 それは全身について言っているのか、それとも特定の部位について言っているのか。

 だが彼女が当てている手の位置を見て答えはすぐ分かった。


「・・・何度も言ってるけど、私はいざとなったらあなたを殺すことができるのよ」


 鋭い眼光を赤嶺に向ける。


「二度とふざけたこと言わないで」


 そう言うと、魔法少女は蛇のように体をうねりながら、建物と建物の間に出来たわずかな隙間の中へ入っていった。

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