七話:悲劇の始まり
大きな歯車のがゆっくり回っていたり、トロッコが高い所から急降下していたり、子供たちが小型の車を運転していたりなど、宮沢俊にとって、意味不明なことが辺りで繰り広げられている。隣にはいつもと同じ、白いパーカーを着た赤嶺つゆき、その隣にはクリーンライダーと名乗るごつい男と、魔法少女クッリクと名乗るコスプレ少女がいる。
「今回の任務、まさかあなたたちと一緒とはね……」
魔法少女は溜め息をついて、遊園地の入口へ足を進める。
「と、とりあえず現場に向かいましょう!」
掃除屋の男が俊とつゆきの背中を押す。
「私、遊園地来るのは初めてなの!早く行こ!
宮沢はつゆきに手を引かれ、園内に向かった。
「言っておくけど、私たちはここに遊びに来たわけじゃないからね」
魔法少女はベンチの上に立ち、宮沢たちを見下ろしながらそう言った。
「昨日、ここに来ていた複数人の子供が行方不明になったの。殺人鬼の仕業だとエレベーターさんは言ってる。事態が大きくなる前にそいつを片付けるわよ」
ヒーローたちは世間的にはアイドルのような存在のため、周囲の人々が宮沢達に視線を向け、本物ヒーローたちを目の当たりにして興奮している。
魔法少女はベンチから降り、宮沢の元へ近寄って来た。
「それじゃ、手分けして辺りを捜索します」
宮沢はつゆきと一緒に、魔法少女はクリーンライダーと一緒に、二組に分かれて園内を散策することにした。そしてヒーロー二人組がいなくなるやいなや、つゆきは自分の好奇心をさらけ出した。
「私、メリーゴーランドに乗ってみたい!」
「さっきの話聞いてたか?」
彼女は周りを見渡しながら答えた。
「私たちはクリックちゃんとライダーくんたちと協力して、この遊園地に出現したと思われる殺人鬼を駆除するんでしょ~」
「……あの二人って結構強いのか?」
「そうだよ~クリックちゃんとライダーくんがいたら国ひとつ余裕で破壊できるね」
さらっと恐ろしいことを口にするつゆきだったが、彼女が超人的な姿で戦っているところを一度か見たことがあるの宮沢は、あの二人の強さがどれほどのものか想像がつかなかった。
すると、ヒーロー二人組が大勢の来園者たちに絡まれていることに気づいた。彼らは一緒に写真を撮ったりサインをしている。
「相変わらず大人気だね~」
宮沢に一度も笑顔を見せなかった魔法少女が、満面の笑みを浮かべ、ファンとふれあっていた。
「私たちはあの笑顔を守ってるんだよ」
楽しくヒーローたちとふれあう人々をつゆきは微笑ましく眺めていた。
「あいつらはこの国で何が起きているのか、お前たちが何のためにいるのかなんて知らなんだな。平和ボケをしてる民間人共が」
周りに聞こえないように小声で愚痴を言うと、聞こえてしまったのかつゆきが肩をすくめた。
足早にヒーロー二人組から距離をとり、目の前に見える観覧車の方へ向った。
「君ってさ~案外過激なこと言うよね?」
「俺、なんか間違ったこと言ったか?」
「別に言ってませんよ~」
つゆきは走り出し、観覧車乗り場に向かった。
宮沢は気がつくと、観覧車のゴンドラの中で座っていた。
「おい!」
「はい?」
彼女は少しにやつきながら返事をした。
「なんで俺、観覧車に乗って……お前何をした?」
つゆきは足を組んでから言った。
「えっとね……説明する前にまず戦闘許可を出してほしいんだけど……」
すると突然、ゴンドラの外が暗くなった。その瞬間、宮沢はあの時の学校の惨劇の描写を思い出した。
「まさか……これは……」
つゆきは宮沢の手を掴む。
「絶対に私から離れないでよ」
観覧車が大きく傾き、崩れ始めた。つゆきはゴンドラの扉を開け、宮脇の手を繋いだまま、ビルの十階ほどある高さから飛び降りた。
宮沢とつゆき生まれて初めて急降下する感覚を肌に感じながら、真っ逆さまに地面に落ちていった。
地上に降りるとすぐに、つゆきは腰から包丁を取り出す。
「じゃあ、行くよ!」
つゆきは目の前に佇む、巨大なピエロに飛び掛かった。