四話:ご案内します
気がつくと、場面が変わっており、豪勢な部屋の中にいた。天井にはシャンデリア吊るされており、いかにも高価そうなソファーや本棚などの家具が並んでいた。部屋の正面に白衣を羽織った謎の少女が机の上に肘を置き、革の椅子に座っていた。
「あなたが……宮沢俊くんだね、初めまして」
白衣の少女が彼に向かって手を振る。
「…初めまして」
白衣の少女が微笑む。
「単刀直入だけど、今日からあなたは彼女の管理者になります」
「は?」
「さっきから驚かしてばっかでごめんね。全て話す時間はないから部分的に説明するね」
「…あぁ」
白衣の少女は立ち上がって彼の元へ近づいてくる。
「まず君の隣に立ってるその彼女、わけあって勝手に攻撃ができないようになってるの」
「はぁ…」
「あなたの仕事は、彼女の攻撃許可を出すこと、それだけよ」
「それだけ…」
「でも戦闘の際は彼女の近くにいなくちゃだめなんだ。攻撃に巻き込まれる危険があるから自分の身は自分で守ってね」
すると黙り込んでいた彼女が突然話し出した。
「守りながらでも戦えるよ…」
「黙りなさい!」
後ろに立っていた魔法少女が彼女の首を掴む。それを見てガタイのいい男が動揺する。
「ちょっと…クッリクっさん…」
「クリックちゃんは、そういう戦い方苦手だったっけ?」
彼女を握る力が強くなる。
「そうね…でも私は守る前に倒すわ」
力がさらに強くなるが、彼女は怯んでいる様子を見せない。
「二人とも落ち着いて」
白衣の少女がそう言うと、魔法少女は彼女の首から手を離した。
「まぁというわけで、今日からよろしく」
白衣の少女は彼に片手を差し出した。
「…ふざけんなよ」
彼は白衣の少女の手を叩いて払いのけた。
「なんなんだよ、なんで俺がやんなきゃいけねぇんだよ!」
白衣の少女は叩かれた手を摩りながら離した。
「…まぁそう思うのは当然だね。でも君が彼女に選ばれた以上やらなきゃいけなんだよ」
「あんな怪物と戦うって…お前は力があるからどうにかなるかもしれないが、俺はただの一般人それに高校生…子供だぞ…なんの才能もないクソガキにそんな命がけのことできるわけねぇだろ!」
魔法少女がシャーペンを彼に向ける。
「来るときも言ったけど、あなたには拒否権はないのよ」
「クッリクさん……それを下ろして」
魔法少女は躊躇いながらシャーペンを下ろす。
「本当に申し訳ないけど、あなたは断ることができないの。お願い……協力してくれる?」
宮沢は俯いた。
「…どうせ断っても無理やりさせるつもりだろ?」
「まぁ…そうだね。なるべくそうしたくはないけど」
「…わかったよ」
白衣の少女は彼から離れまた革の椅子に座った。
「それじゃあ、今日から二人は一緒に暮らしてね」
「え、いいの?」
彼女の目が輝く。
「は?」
「いいよ。というか、一緒にいてくれないと困る。いつ呼ばれてもすぐ来れるようにしないといけないからね」
「なぁ、あの怪物はなんなんだ。お前たちは何と戦ってるんだ?」
「うーん…この世を脅かす存在と戦ってる」
「それが世界を滅ぼすのか?」
「うん、ニュースで毎日聞いてるでしょ?」
「…ヒーローのことはよく聞くが…まさか本当にあんな奴と戦っているとは知らなかった」
「怪物の存在やヒーローの真のお仕事に関しては極秘情報だからね。一般の人たちは特別な力をもったアイドル程度の者としか認識してないけど…」
「そうなんだな…」
宮沢は部屋の家具に目を遣りながら彼女の話を聞く。
「じゃあ…お前らはヒーローなんだな?」
「そうだよ、あっ、自己紹介がまだだったね」
白衣の少女はその場で立ち上がる。
「私はエレベーター、ヒーローたちの指揮をしています」
「エレベーター?」
「それが名前です」
彼女は頬づえをついて彼を見ている。
「……じゃあそういうわけだから、これからよろしくね」
すると宮沢の意識が少しずつ遠ざかりそのまま床に倒れた。
気が付くと宮沢は近所の公園のベンチに横たわっていた。
「もう日が暮れちゃったね」
彼女は宮沢の頭を膝の上に乗せていた。
「うわっ、何だよ!」
彼は慌てて彼女から離れる。
「何してんだよ!」
「そんなに驚かなくても…」
彼女はゆっくり立ち上がる。
「お前……いつ着替えたんだよ?」
彼女の服は、最初に出会った時と同じ、真っ白なパーカーに変わっていた。
「着替えてないよ。この服は一定時間経つときれいになるんだよ」
彼女はその場で一回転する。
「へぇ…それも能力か?」
「まぁそんな感じ~」
「そっか……じゃあ俺は帰るからな」
「え?」
「いや俺はもう帰るぞ」
彼女は不満そうな顔を見せる。
「なんだよ。まだなんかあんのか?」
「そのー、今日から私は君の家に住むことになってるんだけど…」
「はぁ?」
「エレベーターちゃんが言ってたじゃん。今日からは私たちは一緒に行動しないといけないって」
彼は白衣の少女が口にしていたことをなんとなく思い出した。
「そういえば言ってたな。一緒に住まなきゃいけねぇのかよ」
彼女はグッドサインをする。
「その通り。俊くんと私の同居生活が始まるよ!」
彼は全く乗り気ではない。
「マジかよ…」
「もしかして、今の生活に満足してた?」
「まぁな。本来四人で暮らす家にひとりで住んでたからな。掃除が面倒なぐらいで、他は快適だよ」
「じゃあ私が寝る場所はあるみたいだね!」
彼は彼女に背を向けて歩き出した。
「じゃあ行くぞ」
「先に帰ってて、今晩の夜ご飯買ってくるから!」
「…何言ってんだよ」
「君の家、食べるもの何もないでしょ?今日何も食べないで寝るつもり?」
「なんで…俺ん家の食料の在庫知ってんだよ」
「私の力があれば君のことなんて、すぐ調べるよ」
恐ろしいことを軽々しく言った後、彼女はコンビニ向かって走り出した。