3. まさかの復讐劇
「ランスキー・ラスカルが面会したい?」
ダド・フレンジーからの突然の連絡に、私は首を傾げた。はて、ランスキー・ラスカル。そうだ、記念すべき第一話である。緑の狸、ヴェルデ親分の組織の裏切り者、かわいいお目目の武闘派アライグマである。詳しくは『さらば愛しきリスよ』をご参照頂きたい。
「奴がな、至急どーーーーーーしてもお前に会いたいそうだ」
「至急どーーーーーーしても会いたい?」
いや、んなこと急に言われても。こっちは別に会いたくない。大体、シリーズ一話目の敵キャラクターなんて、思い入れある人いないだろ。ここまでなんの伏線もなかったし。私もちょっとどんな顔して会っていいか分からない。
「そんなこと言わずに会ってやれ。…おれにはよく分からんが、『会った方が身のため』らしいぞ?」
やれやれ、しょうがないな。塀の向こうにいる奴に、何が出来るかは分からないが、一応会ってはおこう。
「ふーっ、ふっふっふっ!すぐ来たなスクワーロウ!やっぱりおれが怖いようだなあ」
タヌキ、もといアライグマのランスキーは、やたら嬉しそうだった。相変わらずぱっちりお目目が可愛らしいが、なんだ口元が真っ赤である。
「なんだランスキー、火傷でもしたのか?」
「やかましい!コーヒーこぼしたんだよ!お前に関係あるか!」
ない。ないが、わざわざ呼ばれた以上、関係がないとも言えない。そもそもこいつとはそんなに、話題がないのだ。
「早くいーから早く用件を言え早く」
「早くって三回言いやがったな…いいだろう、教えてやる。スクワーロウ、お前の命に関わることだからなあ!」
アライグマの元ギャングは、現役時代のいきり方で言った。むむ、これはもしやまさかのリベンジか。
「ムショにいるお前が、そんなに得意そうにしているのを見ると、殺し屋でも雇ったか」
「いや、違うさ。アナログなお前には分からんだろうが、シャバにはすんごいものがあるんだぞう!」
「シャバにいないお前が何故分かる?」
「分かるんだよ。最近はいーもんがあるなあ!そのっ、あの…あれだ!アプレって言うのか?スマホに入れる奴ですんごいのがだなあ」
「さてはお前も、詳しくないな」
機種変でスマホに変えざるを得なくなった、年配の人か。
「うるさい!そうあれだ!(手の甲にメモ書きがあった)…ブラック…フットだ!『ブラック・フット』!こう言えば分かるだろう!?びびったか!?」
「いや、分からんね」
私は首をかしげて見せた。嫌な予感がしていたが、こんな奴の前で弱みを見せるのが嫌だったからだ。
「聞け!ブラック…フットに、お前の殺害を依頼してやったぞ!『苦しい目に遭わせて殺せ』とな!どうだ、びびったか!おれをこんな目に遭わせたことを後悔して死ぬがいい!」
悪用キタ。
覚悟はしていたが、割りと思い入れ浅い人間からダイレクトに殺害予告受けるとは思わなかった。
しかしうーん困った。すでに犯罪が起きていたり、狙っている人間がいたりするならば、私も動けるが。相手は『アプリ』。電子空間上のAIなのだ。そいつがランスキーのリクエストに応えて、私を殺害してくるとするならば、これは24時間気を抜けないではないか。
「スクワーロウさんっ、大丈夫ですか!?」
電話したら、急いでクレアが迎えに来た。両手に拳銃を持っている。気持ちは嬉しいが、これが暴発して私に当たったら予告達成ではないか。すぐに仕舞ってもらった。
「今のところ大丈夫だ。そんなに焦らなくても、平気だよ」
「でも怖いですね。『苦しい目に遭わせて殺せ』だなんて」
「そうだね」
だが、希望はある。『苦しい目に遭わせて』と言うことは、とりあえず即死は、免れると言うことだ。まー気休めだが。
「ど、どうするんですかこれから!?」
「落ち着け。相手は人間じゃない、AIなんだ。実は連邦調査局から、連絡を受けている。このAIを止めるために、ハッキングの専門家を呼び出したらしいんだ」
やがて、現れた一台のワゴン。調査局御用達のハイテクワゴンだ。中にモバイルを抱えた白衣の猫が乗っている。サバ虎猫のオス。思ったより若いが、中々出来そうなにゃんこだ。
「こんにちは、スクワーロウさん。…僕は、アラン・リシュリュー。『ブラック・フット』の殺害予告を受けたと言う連絡を頂いて、ここへ来ました」
「ずいぶん早かったですね」
クレアが感心していた。しかしアラン博士は、苦笑して肩をすくめる。
「実は研究のために、カジノにいたんですよ」
「カジノ!?なんの研究ですか!?」
「『確率』の研究です。専門が、こちらなので。ギャンブルの成功率とそれに挑む人間の行動について科学しています。確率と学習が、偶然を支配する。それはAIの判断についても同じことが言えましてね」
なんかすごい頼もしい人来たぞ。