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2. 暗躍する『ブラック・フット』

「『ブラック・フット』…!?」

「今、ダークウェブで暗躍している犯罪者専用アプリだそうだ」

 目を見張るクレアに、私はスマホを見せてやった。画面いっぱいに、黒い大きな猫の足音がついている。ここをタップすると、どうやらアプリが起動するらしい。

「ここから音声認識AIが起動する。あとは、実行したい犯罪を話すだけだ。このAI一番適切な犯罪計画を30秒から12時間以内にコンシェルジュしてくれる、と言う仕組みなんだとさ」

「犯罪計画をコンシェルジュ…って、そんな安易な…!」

 クレアは目を剥いた。

「ところが、安易でもないのさ。…例のバナナ強盗、凶器をバナナにしろって言うのは、この『ブラック・フット』の指示だったわけだ」

『犯罪計画』は、実行を希望する日時の半日から五日前に指示される。その【準備期間】の間に、ユーザーはゆっくりと用意を整えて、指定された時刻の前後一時間の間に実行する。

 犯罪の成功率は、達成ポイントによって算出され、与えられたクラスごとにまた、ポイントがつく。このポイントは、次回の犯罪計画を実行する際にオプションポイントとして、使用できるわけだ。

「バナナで店主を脅せだなんて…お店の人だって武器を持ってるかも知れないのに。いくらAIが言ったって、そんな危ないこと出来るわけないですよ」

「ところが、その犯罪は成立する予定だった。…これはダドが突き止めたんだが、実を言うとあの雑貨屋の店主も、『ブラック・フット』のユーザーだったのさ。店に高額の保険をかけていて、強盗被害の保険金を詐取する予定だったんだよ」

 強盗したい男と、強盗されたい店。まさに犯罪の需要と供給が、マリアージュした瞬間だったわけだ。

「と、ここまで分かってはいるが、彼らを罪に問うことは出来ない。…バナナは凶器ではないし、弁護士の腕次第では強盗どころか、せいぜい愉快犯止まりだろう。初犯なら厳重注意で済む。店主も強盗事件を自作自演したわけじゃない。つまり、この件で犯罪者として罪に問われる者は一人もいないと言うことだ」

「なーんか釈然としませんね…ここまで分かっていて、何も出来ないなんて…」

 クレアは眉をひそめた。

「それがこのアプリのセールスポイントでもあるみたいだね。『ブラック・フット』は、絶対安全な完全犯罪のプロデュースを謳い文句にしている。AIはもし、逮捕されたとしてその後の方針までアドバイスしてくれるそうだ」

「そんなことされたら、世の中無法地帯になりますよ!?」

「警察も裁判所も弁護士も困るね」

 そしてもちろん、探偵もだ。こんな悪知恵つけ放題のアプリが出回ったら、いつでも誰でもずる賢い凶悪犯罪者になれてしまう。

「こんなアプリ、誰が作ってるんですかね?治安が悪くなって、いいことなんてないと思いますけど!」

 警官の娘であるクレアは、憤然としている。無理もない。

「『ブラック・フット』については、すべてが謎なんだ。このアプリも、無料で運営されている」

「犯人は、どんな悪人なんでしょうね。もう、人の不幸が嬉しくて嬉しくてしょうがないタイプに決まってますよう!」

「まあ、いいじゃないか。今回の事件だが、結局、誰も怪我をしたわけじゃない。私が少し、くたびれ儲けをしただけだ」

 と、私は苦笑で済ませたが、内心、脅威は抱いていた。こんなアプリが出回ったら、犯罪現場は戦場になる。犯罪のコンビニエンス化は必ず、犯罪者の爆増を引き起こすはずだ。

「なんとかこのアプリを作ったやつを探しだしてぎゅーーーーっとおしおき出来ないですかね!?」

「クレア…過激だな君は」

 私はさすがにそこまで血の気が多くはなれないが、これは正しく、犯罪の革命だ。

 このままで済まされないのは、警察をはじめとした法執行関係者ならば、否応なしに覚悟しなくてはならないところだ。そしてもちろん、我がハードボイルドに対しても予想外の試練だ。



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