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ある夏の君へ

作者: 葵鴉 カイリ


 蝉の声を静かに奪った熱が、僕の声を奪おうとした。君に気づかないぐらい涼しかった体は今では頬だけがひんやりと冷たくなり、されど胸の内は終わらない熱を帯びていた。


 君に吐き気がするほど吐いた言葉、僕が僕であるという為に君に吐き続けた言葉、だけど何故だろうか。最後に君に伝えた、たった一言の言葉が今の僕を証明していた。


 理想に生きた僕と現実を生きた君には大きな歪みがあったのかもしれない、君に伝えた感謝の言葉がいつしか僕の後悔になっていた。


 当たり前になっていた現実が僕に惰眠と惰性を与え、衰退へと促す。


 いつも時間は停滞を許してはくれない、いなくなった君へ、大切だった君へ、伝えたかった事を口から伝えられなかったが故なのか、僕から溢れる物は僕の視界に靄をかけていた。


 どれだけ瞳を見開いても、さっきまであった目の前の光は少しずつ僕の前から逃げていく。


 追いかけたいけど足が歩みを始めない。 衰退を知りながら停滞を望んでいる、体は正直過ぎるくらい地面から離れることを拒んでいた。


 何故、何故、何故なんだ。


 どれだけ問い質してもかえってこない何故を己に問い質す。


 待って、行かないで、こんなことになるなんて誰も教えてくれなかったんだ。 そうやって前をみていたはずの自分は過去に手を伸ばしていた。


 立ち尽くしながら足掻いている僕を沈む太陽は何かを伝えるかのようにいつもより長く見守ってくれている気がした。


 そうか終わったんだ。


 きっとこの雫は新たな今を歩むための過去の不純物なんだと、過去に囚われるなと自分に言い聞かせた時、ふと前に光の道が伝っていた。 その光の元に目を向けた時、太陽が僕の下に出来た水溜りをダイヤのように輝かせ、僕の頬を伝う物の意味を教えてくれた。


 大きく叫んだ嗚咽、君には届かないだろう。


 遠くにいる君に、離れている君に、嗚呼今更になって意味に気づいても闇に隠れていく君にはもう僕の声は届かない。


 夜空には君が輝かせた黄色い僕が僕を覗き込んでいる。


 そうか、全てに意味はあったんだ。


 雫から生まれた水面に写る僕がユラユラと揺蕩いながら励ましている。 ぐっと笑顔で見上げたら空には君の光で輝いていた僕はもういない。


 新しい未来が来たのか、きっとそうなんだろう。 ゆっくりと歩みを進めると君は僕の目の前に選択肢を与えるように後ろから光を照らした。 


 君がいる後ろは振り返らない、いつか君が僕と同じ所に来た時に一緒に歩めるように僕はこれから来る君の道標になろう。


 足は軽く、気づけば前に歩み始めた僕はいつしか惰眠を忘れ、傲慢になっていた。でも今はその傲慢でいたい、何故なら君が優しく照らしてくれるから。


初めまして、普段は長編小説を書かせて頂いている葵鴉と申します。

拙作ですが気分転換に詩を綴ってみたのですがいかがだったでしょうか? 

もし宜しければ小説の方も是非見に来て下さい(^^)

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