短編その1 はじまらない変態
お久しぶりです。
なろうを始めてから最初の方で、息抜きに書いていたものが出来掛けていたのでこれを機に完成させました。
肩の力を抜いて、リラックスしてお読みください。
「あ、すっげぇ美少女がいる」
そう男は呟いた。いや、呟いたと言うには少々声が大きくはあったが。
顔面偏差値が五十を少し切っていそうなその男は裾を折り曲げたジーンズを履き、上にはよれよれのティーシャツを着ている。
その男の視線の先には、一人の少女がいた。先ほどの言葉はどうやらその女性に向けられたものらしい。
「ふふ、仮にも一つの世界を管理する私に美少女、か。なかなか面白いね君は」
その男の呟きに答えたのは、年が十七前後くらいの女性であった。髪は白に近い銀、服は黒の地に白の縦縞の入ったややぴったりとしたワンピースを着ている。
男が美少女と称したように顔立ちは整っており、なるほど、まったく動かなければまるで人形とでも思ってしまいそうなほどだ。
「まあいい。それはさておき、君はここがどこだか気にならないかい?」
そう言って女性は辺りをぐるっと見渡してみせる。ここには、何故か男と女性の二人しかいない。いや、それ以外には何もないのである。
真っ白な床だけで、天井も壁も無い、見渡す限り地平線まで真っ白な世界が続いているのだ。むしろ、男と女性だけが異物のような印象を受けてしまいかねないような世界である。
「ここはね、」
「そんなことより名前教えていただけませんか?」
「? おおっと、そうだね。失礼した。自己紹介は大事だね。ボクの名前はテレミア。よろしく」
「テレちゃんですね。名前も見た目に負けず劣らず可愛いなぁ。自分は修平って言います。青木修平です。よろしくお願いします」
「それはどうも。さて、話を戻すけど、」
「ところで綺麗な足ですね。舐めてもいいですか?」
「……?」
女性、テレミアは男、修平の言葉を聞いてその言葉の違和感に首を傾げた。修平の口から話の流れに沿わない文脈で何か言われたような気がしたからだ。
ただし、テレミアは少し考えて納得した。ああ、彼は自分を試しているのだ、と。恐らくここが夢の世界だか何かと勘違いしており、きっと適当な冗談でも言っているのだろうと。
面白い。神とも呼ばれた自分を疑い、或いは崇拝する者こそいたものの試す人間は一握りだった。ならば男の提案に乗るのも、暇つぶしにはいいだろう。
そう思ったテレミアは、見事、間違いを犯した。
「なるほどね……ふふ、したいならしてみたらいいさ。ボクは気に留めな」
「ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ」
「……」
テレミアが返事をするや否や、修平はいつの間にか近づいて女性の足を舐めていた。
「……うわぁ」
「ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ」
「……あの、舐めるのもいいんだけど」
「ベロ?」
「まずは話をさせてくれないかな? ボクも話したい事が」
「あ、困ったような顔も可愛い。顔も舐めていいですか?」
「いや、足舐められた直後はちょっと……じゃなくて」
「そうですよね。うがいしてきます」
「待ってくれ」
そう言うや否や修平は全速力で後ろを振り返りダッシュしてどこかへと駆けていった。
しかし、この世界はテレミアと修平以外何もない、何も存在しない世界なのだ。しばらくすると、修平は疲れ切った様子でテレミアの元へと戻ってきた。
「あの、すいま、せん。どこにも、洗面台、なくて、うがい、できなくて……」
「……ああ、うん。そうとも、そうともさ。この世界は君とボク以外は何もないからね」
「誰もいない……?」
「ああ、ボクと君以外誰もいないさ。物だって何も」
「つまり、美少女と男が誰もいない空間で二人っきり……?」
「……まあ、そうなるかな?」
「訂正しよう。貴方みたいなすれ違えば百人のうち百人が振り向くであろうスタイルの良い美少女と、俺みたいな性欲持て余した男が二人っきり……?」
「率直に褒める姿勢は好ましいけれど、言葉選びがなんだか不穏な気がするんだが?」
修平はテレミアを舐め回すように見る。
確かに、ややぴったりとしたワンピースから浮き出るその身体のラインはバランスがとれている。胸部は平均と比べると大きく、ウエストはその反対に締まっており、腰から臀部にかけてのラインは艶めかしいとも形容できる代物だ。
その修平の視線に寒気を覚えたテレミアは話題を変えようと試みた。
「そ、それより君には伝えなくてはいけない事が私にはあるんだ。どうか聞いてくれないかい?」
「その前にあなたの額の汗で塩分補給したいんですが」
「後でスポーツドリンクでもあげよう。……唐突で申し訳ないけどね、君は」
「君は誰? 私はどこ? どうしてあなたは美少女なの? ああテレミア! どうしてあなたはテレミアなの!?」
「頼むから歩み寄りの姿勢を見せてほしいんだけれど」
「歩み寄り?」
修平はそう言うや否やテレミアに音もなく近づく。それに心の中で恐怖したテレミアは、なるべく顔にそれを出さないようにしながら修平と距離を取る。
「違う、物理的な距離じゃない。精神的な、心情的なものだよ。パーソナルスペース、と言った方が分かりやすいかな?」
「貴方のパーソナルスペースになりたい」
「まだ早いと思う。そういうものはお互いを理解し合ってからなっていくもので」
「つまり、出会って五秒、身体を重ね、心を重ね、お互いウィンウィンシステムのハッピータイム?」
「何を言っているか分からないが、恐らくそれは違うと言えるね」
「つまり他は許された?」
「許した覚えはないんだけど。……というか全く話が進んでいない。頼むから話を聞いてくれはしないだろうか?」
「オッケー検索エンジン。あなたの下着を見せてくれたら話はいくらでも聞こうではないか。テレミアたんは話を聞いてほしい。俺は性欲を満たしたい。ほら、公平な取引だろう?」
「……はぁ、仕方ないなぁ……」
テレミアは呆れたようにそう言うと、かがむようにして下着……この場合黒色のパンツだが、それを下ろした。
これはテレミア自身の問題であるが、彼女は羞恥心というものが人並み未満であり、また彼女は合理主義である。
故に、本来女性であれば恐ろしく抵抗するであろう下着を見ず知らずの男性に見せる、などという行為は、彼女にとってはその程度でまともに会話できるなら、許容できる動作でしかなかったのだ。
「ほら、これでいいんだろう?」
「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
そう言ってテレミアは平然とした様子で脱いだ下着を修平に向かって放り投げる。
男は狂喜乱舞しながらそれを空中でキャッチすると、神々しいものを扱うかのように黒のパンツを掲げる。
「こ、これは、い、頂いてもよろしいんでしょうか……?」
「たかが布切れ一枚で興奮しすぎだよ、君。……それで、話は聞いてくれるかい?」
「はい喜んで!」
「ふぅ。ここまで来るのがここまで長いと感じたのは君が初めてだよ」
「俺が初めて、だと……?」
「脱線はさせないよ。まず最初に伝えるべき事は……」
そう言ってテレミアは言葉を溜める。
修平はそんなテレミアを血走った眼で見つめながらパンツをむさぼっている。再び口を開いた彼女は、含みのある笑顔で修平にこう言った。
「――――――君は、死んだのさ。君たちが現世と呼ぶ場所で、ね?」
☆☆
☆☆
「………………というわけなんだが、理解できたかい?」
テレミアは説明を終えて、修平に理解できたか確認をした。
内容はざっくりまとめると、修平は現世で死んでしまったがこれは神にとっても計算外だった事らしく、元居た世界には戻せないが修平が望むのならば異世界に特典を持たせた状態で送り届けるというものだった。
よくある異世界転生物のテンプレートに沿ったそれを、彼女は先ほどまで説明していたのだ。
だが、
「そういえばブラとパンツってセットでおんなじ色なんですかね? 大体はそんな感じだったと思うんですが」
「……えーっと、私の話、聞いてたかい? もうちょっと違うリアクションがあってもいいと思うんだが」
「全身余すことなく揉みしだきたい。胸もお尻も、そのくびれも太ももも。その裸体を、余すところなく全身を、この目に焼き付けたいぃ……!」
「……ああ、神の仕事に就いてからこれほどまでに話の通じないのは君が初めてだ。私はちょっとだけ泣きそうだよ」
「あらよく見るとおめめも綺麗。玉のような肌に相応しい宝石のような瞳ですこと! こぼれる涙ごと舐めていいですか?」
「何でもかんでも舐めたがるんだね君は。まるで犬のようじゃないか」
「ワンワンッ! ハッハッハッ! クゥンクゥ~ン!」
「頼むから意思疎通に協力してくれたまえ……」
修平の常軌を逸した反応に、テレミアは泣き言をこぼす。
「聞いてますって。異世界転生でしょ? 知ってる知ってる」
「……異世界転生とは、言い得て妙な言い回しだが確かにその通りだね」
「という事は、あなたは女神様って事でいいんですよね?」
「便宜上はそれでも問題ない。厳密には私程度では神と呼ぶには少々弱いが、一つの世界を管理する身としてはその呼称はあながち間違いではない、とだけ言っておこうかな」
「んで特典でしたっけ。女神様が欲しいって言ったら女神様になるんですか?」
「……あー、その場合は考えていなかったけど、うん。現世での私の分身になるだろうね。間違いない。ああ、分身の私も、人間でこそあれど見た目と中身は一緒だよ。一目で分かるようになっている」
「って言う事は、問題ない?」
「ああ、問題ないとも。……ふふ、君も中々策士じゃないか。世界を治めるこの私を使おうだなんて、普通は考え付かない発想だよ。ひょっとして地上でも支配するつもりかい?」
「……」
テレミアは会話が出来た事が嬉しくて、つい会話の内容をスルーしてしまった。それが仇となってしまったのだ。
テレミアの許可を聞いた修平は、無言でこぶしをグッと握りしめてガッツポーズをとる。
それを見たテレミアは、少し怪訝そうな顔になる。
「……そんなに嬉しいのかい?」
「おうともさ! 俺のこの二十七年溜まりに溜まりまくった欲望と渇望と性への飽くなき欲求を、ドロドロのグチョグチョのベチョベチョになるまであなたの身体に叩き込めると思うとおいらの胸が破裂しそうなくらいにワクワクドキドキオーラ、フル☆展☆開!!!」
「う わ ぁ」
修平は、目を血走らせ獲物を定めた獣が如く、テレミアをそのギラギラした双眸で捉える。
対するテレミアは下がる血の気と会話が成り立たない事による頭痛で顔がヒクついている。
「……と、とりあえず、話が決まったら君を地上に送ろうか」
「待った」
「……まだ何かあるのかい?」
そう言うと修平はニヤッと気持ちの悪い笑みを浮かべてテレミアをじっと見つめる。
「行かなくてもいいじゃない」
「ん? 何を言っているんだい。君を転生させないと私の仕事が終わら」
「だって貴方はここにいるもの。……貴方のいる世界が、俺の転生する場所だぁあああ!」
そう言うと、修平はテレミアへと躍りかかった。
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「いやぁ、びっくりしたさ。あの時は」
「ただ、彼が選んだ結論は確かに納得できるものだった」
「私は確かに、この世界と言ったからね」
「私と彼しかいない、この世界、と」
「だから、彼がこの世界に転生したいと言ったのなら、そりゃあ通ってしまうわけだ」
「結局、彼はこの世界に、私と二人だけの何もない世界に転生して過ごす事になった」
「身体も、ここに来た時点で魂だけ。つまり人間のものではないから年老いる事も病に伏せる事もない」
「男女が二人きり、他に何もない空間、男は性欲を昂らせている」
「彼風に言うなら、何も起きないはずはなく……かな?」
「まあ実際彼は面白かったよ。話が通じない事が多い点を除けば、彼は奇妙奇天烈で思いもよらない反応を返す人物だったからね。見ていて飽きなかった」
「長く生きていても、何が起こるかは案外分からないものだと痛感したよ」
「……結局、私も人恋しかった、という事なんだろうさ」
「あそこから始まったんだ、と改めて振り返る事が出来たよ。ありがとう」
「……何? 今? 今はどうしているのかだって?」
「それは、そうだな………………フフッ。君たちの、自由で逞しい想像力に、お任せする事にしよう……♡」
なお、作中における一部の描写に関して。
作中における主人公の行動の一部は、実際に行うと法に触れる場合がございます。
この小説は犯罪行為は推奨するものではありません。
ふぅ、これを書いておけば問題あるめぇ……