08.10.目眩
両親の会社では、年末にパーティーが開催される。
高校生にもなって親の会社のパーティーなんてって思ったんだけど、伊織がどうしてもって言うから来てみたんだけど。
「伊織、怒ってる?」
「別に、そういうわけじゃ」
「怒ってるようにしか見えないんだけど。確かに伊織に断りもなく武神さんと会ってたのは悪かったけどさあ、一刃ちゃんも一緒だったんだから」
「私に断る必要なんてないってこと判ったよね? クリスマス・イブだったけど」
「そうね。こうやって怒ってるくせに自分は水無とデートしてたんだもんね?」
「あれは……、そんなんじゃないって言ったはず。偶々会っただけなんだから。でも透は前から約束してたでしょ? かなり強引だったけど」
「まあそうなんだけど、それは伊織の事を思って――」
「どさくさ紛れに告白してたけど?」
うっ、そうなんだけどさ。そもそも、何で弟の君がその事で怒ってるのよ。そんなにお姉ちゃんのこと好きなの?
もう、シスコンなんだから、伊織は。
「ほんと、ごめんって。また一緒に寝てあげるからさあ、許して?」
「いらない」
「ほらほら、そんなにプンプンしてたら、折角の……、折角の……、折角……」
「透?」
折角の……何だっけ。何言おうとしたんだっけ。
違う、忘れちゃいけないことが……
何処だっけ、ここ。大切な場所だったような……
思い出せない……
「透、大丈夫?」
透?
誰だっけ……
ううん、私の名前だ。
私が透で、伊織は……
「どうした、透。しっかりしろ」
「あっ……、父さん」
「何か思い出したの?」
「母さん……」
何か思い出したか……、ううん、何も思い出せない。
思い出せないけど、何かが違う。だけど、何が違うのか……
「透、無理しないで。ドクターも無理しちゃダメだって」
「ドクター……、ミニスカの」
「うん。だから落ち着いて」
「落ち着いて……、うん。ありがと、伊織。もう大丈夫。伊織、怒ってない?」
「うん。怒ってなんかないよ。だから、楽しもうよ、パーティー」
楽しむ……、パーティー……
「透?」
「うん、もう大丈夫」
また目眩が……
思い出せそうなのに……、思い出せない……
「伊織、済まないが透の側に居てやってくれるか」
「もちろん。一緒にいるからね、透」
一緒に……
「伊織が一緒に?」
「うん、そうだよ」
「ずーっと?」
ずっと一緒に……
そんな事思ったことが有ったような……
私、ブラコンだったのかな……
「少し静な所に行こうか?」
「えっ、いや、大丈夫。もう大丈夫だから」
「ほんとに?」
大丈夫。伊織が居てくれれば大丈夫……な気がする。
「うん。そうだ、急がないとフォアグラ丼無くなっちゃうよ?」
「そういうのは覚えてるんだ」
ほんと、どうでも良いことは覚えてるのよね。肝心なことは何も思い出せないのに。
「あははは、そうみたい。でも、手、握っててもらえる?」
「うん」
「綺麗な手だね、伊織は。女の子……みたい……」
女の子……
伊織は女の子?
伊織……
「そうかなあ。そういえば、どっちかなあ、赤ちゃん」
「えっ、赤ちゃん……。そうか。でも性別はまだ判らないんじゃない?」
「透はどっちがいい?」
「可愛い弟はもういるから、妹がいいかな。伊織は?」
「私はどっちでもいいかな」
「何よ、それ」
妹……
私の……妹……




