08.09.クリスマス・イブ
割と楽しく勉強したにもかかわらず、透は学年2位を維持することができた。もちろん私も。
入学時の成績だと透は22位だったみたいだから頑張ってるよね、すごく。
中間試験も終わって来週から冬休みなんだけど、クリスマスはどうするんだろう、透……
「ねえ、武神さん、イブは何か予定ある?」
「いや、特にないけど」
「じゃあ、私とデートしよっ」
「でも、その日は……」
えっと、私の方を見られても……、透には誘われてないし。
「もう、また伊織の事見てる。傍から見てるだけなら絵になってるし、いいんだけど、伊織は可愛い弟なんだから。そういう道に誘い込まないでもらえるかなあ。というわけで、お姉ちゃんは伊織を守る為に武神さんを拉致する予定なのです。武神さんに拒否権はありませんっ」
なんか私がどうとかって、強引に誘ってるけど、そんな心配いらないのに。
事件以来武神さんの事気になってるみたいだな。
「今回はかなり強引ですね、透さん」
「水無さん」
「気になりますわよね、やはり」
「まあ、ね。でも仕方ないかな。私は何も出来なかったんだから」
「あれは武神さんだから出来ただけですわ。そんなに気にしなくても」
「うん……」
そうは言われてもね……
こうして目の前で武神さんを誘ってるのを見てると……
『その時が来るまで待ってて欲しい』
あの時、そう言ってたのに。
『それまで僕は誰とも付き合わない』
忘れちゃったんだよね……
「ということで、みなとみらいに行こうと思います」
「みなとみらい?」
「うん。何となくなんだけど、何かあるんじゃないかって」
何かある、か。いろいろあったな。
「私達も行きませんか? 前みたいに」
「うん。そうだね。行こうか」
◇◇◇
水無さんとこっそり見守るつもりだったのに、今回はあっさり見つかってしまった。
私の心配は無駄だったみたいで、何故か香取さんも一緒だったんだけどね。
「伊織、それに水無も。どうしたのって聞くだけ野暮か。うんうん、お姉ちゃん安心したよ。伊織が女の子とイブを過ごしてくれてて」
「いや、これは、その……」
「んー、ま、そういうことだから、伊織の事は諦めてよね、武神さん」
「何か勘違いしてるみたいなんだけど……、ぼくにそんなつもりはないから」
透ったらそんな事思って……、それで無理矢理武神さんを?
「そうだよ、透。私と武神さんはそんな関係じゃないから」
「まあ、それは水無とデートしてるの見れば解るけど? 問題は武神さんが伊織を意識してるってとこかな」
「だから勘違いだって」
「まあ、そういう事でいいけどさあ、どうかな、この際だから私と付き合ってみない?」
「「付き合うっ?」」
「ちょっと待った、姫ちゃん。武ちゃんには私がいるんだぞ! 私の武ちゃんにちょっかい出さないでほしいんだぞ!!」
「別に香取さんとはそんな関係じゃ……」
「もう、武ちゃん」
透が武神さんと……付き合う?
「あのね、伊織。動揺してると水無に怪しまれるよ、武神さんとの事」
「そんな」
「で、勢いで告白してみたんだけど、どうなのかな、武神さん」
「ぼくが透さんと……」
あぁ、そうなっちゃうのか……
「だめ~、武ちゃんは私と付き合うんだぞ~」
私との事は……
「透さん、気持ちは嬉しいけどそれは出来ない」
「うんうん、私と付き合うんだぞ♪」
「いや、それも出来ないよ、香取さん」
「なんで、なんで~」
武神さん……、透の事好きだったんじゃ……
「そっかー、お姉ちゃん振られちゃったよ、伊織」
「いや、そうじゃなくて、付き合う付き合わないというのは過去を思い出せてからにした方がいいんじゃないかと」
「そうですわよ、透さん。誰かとお付き合いしていたかも知れませんわよ?」
「うーん、だったら名乗り出てきて欲しいんだけどな。仮に付き合ってた人が居たとしてだよ、いいのかな、このままで。記憶が戻らないまま他の人と付き合っちゃうかも知れないよ? 今みたいに」
「武神さんには振られたように見えましたけれど?」
「ううっ、そうだけど、そうなるかもって話し。平気なのかなぁ、それで。私だったら嫌だけどな」
私だって嫌だよ……
「名乗り出ないって事は、そんな人居なかったのか、そんなに愛されてなかったとか?」
そんなこと……、ないもん。そんな事無いけど、付き合ってたわけじゃ無いし、透の気持ちは聞いたこと無いから……
「考えてもどうにもならないかぁ。武神さんには振られちゃったし、伊織に彼女が居ることも確認出来たし、帰ろっかな、私」
「まあ、でも折角ですので五人で楽しみませんか? ねっ、武神さん」
「そうだね、水無。鹿島を呼んでも良いかもしれないね」
「いいの? 伊織。折角のデートなのに」
「そんなんじゃないってば。偶々、偶々一緒になっただけだから」
◇◇◇
「過去を思い出せかぁ。伊織は知ってるんでしょ? 全部」
「うん」
「教えてくれないの?」
「だって、それは」
私だって出来れば思い出してもらいたい。でも……
「『無理矢理思い出させるな』、か」
「うん。『無理せず気長に』って」
「手、繋ごうか」
「うん」




