07.07.セクシー動画
『セキュリティ・システムの停止を検知しました』
とんでもない状況を淡々と知らせてくれるテスラ。別に感情があるわけでもないし、単純な受け答えしかできないんだけどね。
でも、テスラの言ってる通り、どうやら……
「セキュリティ・システムが落ちてる」
そう、セキュリティ・システムが停止してしまったみたいなんだ。
システムへの接続が切断され、もう一度ログインしようとしても応答がない。pingは……、応答してる。テスラは動いてるみたいだから、システム全体がダウンしたってわけじゃないんだろう。でも、スタンバイ側へのフェイルオーバーが機能しない。
「会長、部屋、開けて下さい」
「ええ。急ぎましょう」
会長と共にメンテナンス・ルームに向かおうと生徒会室を出た所で、校内に楽しげな音楽が流れ始めた。
「透、透が……」
凜愛姫の声に反応して生徒会室に戻ってしまう会長。
「何処で売っているのかしら、これ。私も欲しいのだけれど……」
仕方なく僕も戻ってみると、モニターを凝視する凜愛姫と会長の姿が。あのモニターは校内放送用のなんだけど……
「フェイク動画だね」
映っていたのは、セクシーアイドルっぽい女の子に僕の顔が合成された映像。際どいビキニ姿でビーチを走ってみたりと、揺れちゃって大変そうだよ。
「「フェイク?」」
「そう。良く出来てるけど僕の顔を合成しただけだよ、これ」
だって、こんなビキニ持ってないし、ここまで大きくないもん。
「それより、セキュリティ・システムを再起動しないと」
「もう少し……、待ってもらえないかしら」
モニターを凝視し続ける会長。
「会長って、女の子に興味が……」
そういえば性別関係ないんだっけ。
「別に、誰でもいいって訳では無いのだけれど……、これはちょっと見逃せないわね」
「そう……ですね」
えっ、凜愛姫まで? うーん、凜愛姫はしょうがないのかな……
「部屋開けてくれたら後は自由にしてくれていいですから、兎に角メンテナンス・ルームへ」
「自由に?」
「そうですよ、会長のしたいことしててくれていいですから。うううう、もう、鍵貸して下さい、一人で行きますから」
会長から強引に奪い取る形でメンテナンス・ルームへと駆けつける。
セキュリティ・システムは電源が落とされてたわけじゃなくて、いろんなデーモンが片っ端から停止させられていたみたいだった。
復旧作業に追われていると、メンテナンス・ルームのドアを激しく叩く人物が。当然、復旧を優先し、全てが正常に戻ってからドアを開けたんだけど、そこには数学教師が立っていた。
「やはりお前の仕業だったか、姫神」
誰が侵入したのかだとか、どうやって侵入したのかだとか、何か仕込まれてないかだとか、色々確認しなきゃいけないことがあるのに……、ん? お前の仕業? つまり、セキュリティ・システム止めたの僕だって言いたいの?
「はあ? 何で僕が?」
「言い訳なら校長の前でするんだな」
◇◇◇
「どういう事か説明してもらえるかな、姫神君」
校内放送システムはジャックされたまま。つまり、僕のセクシー映像が垂れ流しになった状況の中、校長に問いただされている僕。って、あれは僕の体じゃないけどね。
「僕がやったとでも?」
「やったかどうかは置いておくとして、規則ではあの部屋に一人で入れないことになっていたと思うんだけどね。違ったかね?」
「そうですけど……、セキュリティ・システムが止まっちゃってたんですよ? そんな事言ってられないじゃないですか」
「天照君はどうしたのかね? あの部屋の鍵は君と天照君が持っているんだよね」
「会長は……、なんか忙しそうで……」
「伊織君もかね?」
「伊織も……です」
数学教師がノートPCを差し出してくる。そこには水着姿の女の子がちりばめられていて、1本500円から……
「って、僕の顔じゃん」
怪しげな動画販売サイトに表示されていたサンプル画像は間違いなく僕の顔だ。
得意げに幾つかの動画をクリックし、サンプル動画を再生していく数学教師。校内放送で流されてるのだけじゃなくて、他にも色々あるみたいだけどさ……、お前、こういうの好きなのか?
「何だ、その目は。これは単なる証拠だ。別に俺の趣味ってわけじゃ……、それに、今流れてる動画でここの紹介してるだろうが。そもそも、別に禁止されるわけじゃないんだが、どうかと思うぞ、こういうのは」
「禁止されてるしっ、フェイク動画だし、これ」
こんなの校則なんかよりもっと上の次元で禁止されてるって。
「何? これ、全部偽物なのか」
全部胸の大きさが違うじゃん。体型だって違ってるしさ。見ればわかるよね。顔の解像度が微妙に低いんだけど、違和感ないの?
「良く出来てるな……、どうやって作ったんだ?」
「僕じゃないし。っていうか、自分の顔合成する馬鹿なんかいると思ってるの?」
「じゃあ誰がやったんだ」
「知るわけないしっ」
「まあいい、何れにしてもあの二人も今流れている映像に興味があるんじゃないか? 天照君の嗜好は独特だからな。弟の方も血は繋がってないんだろう? 他の動画も見てるのかもな」
さっきの感じからするとあり得なくはないけど……
「こうやって二人の監視から逃れて何やってたんだ? 証拠の隠滅か?」
「坂木先生、姫神君の成績が改竄されていないことは確認済みですし、態々ここまでして証拠を隠滅するとも思えないんだけどねえ」
「しかし校長、こいつは一人であの部屋に……、そうだ、こんな問題起こせば流石の天照君も諦めると思って……、副会長になりたくないからこんな事しでかしたに違いないっ」
なるほど……、そういう手があったのか。
「くだらない。姫神さんがそんな事をするだなんて本気で思っているのかしら」
校長室で数学教師の間抜けな推理を聞かされてる間にセクシー映像の放映は中断されていたようだ。我に返って駆けつけてくれたって感じかな、会長と凜愛姫。
「確かにそうだね。副会長にはならなくて済むかもしれないけど、学校にもいられなくなってしまうからね。それがわからないような生徒ではないでしょ? 姫神君は」
「も、勿論ですよ」
そうだよね。うん、そうなっちゃうよね。
「ただ……、規則を破った事実は変わらないからねえ。風紀委員長としての権限は当面停止せざるを得ないでしょうね」
ってことは、そんなのに副会長なんて勤まらないって判断になるよね♪ テスラを手放すのは惜しいけど、副会長にならなくて済むなら仕方ないかな。
「そんなっ……、姫神さんを一人で行かせてしまったのは私の落ち度です。罰するならこの私を。それに、姫神さんの権限を停止してしまえば改竄事件の調査にも支障をきたします。校内放送システムへの侵入の件だって、誰が調査するのですか?」
会長、もういいですって。僕は生徒会と関係のないところでのんびりと生きていきますから♪
「それなら心配いらないぞ、天照君。校長先生、私から推薦したい生徒がいるのですが」
「ふむ……。いいでしょう。情報システムの責任者である坂木先生の推薦ということなら、任せてみるのもいいかもしれないねえ」
「彼なら必ずやご期待に添えるかと。入りたまえ、鏡音君」
入りたまえって、こうなる前提で待たせてたってこと? それに、その名前は……
「失礼します」
校長室のドアが開き、現れたのはやっぱりあの男。
「やあ、久しぶりだね、姫神さん」
「風紀委員長姫神 透を更迭し、鏡音 響を風紀委員長代行に任命する。異存はないね、天照君」
「……」
そんなに悔しそうな顔しなくてもいいじゃないですか、会長。調査も面倒臭かったし。
「では、よろしく頼んだよ、鏡音君。天照君もね」
◇◇◇
「姫ちゃ〜ん。俺に一言相談してくれればよ〜。次はいつ撮るんだ? 水着選びは俺に任せてくれよなっ! なっ!!」
「あー、はいはい」
ここにもいた、フェイクだって気づいてない奴。教室に戻ると、得利稼が大はしゃぎしていた。
「おおおお、姫神、なんと神々しい姿だ。俺はあの身体を……、あの身体が俺のものに……」
「勝手に悶えてろ」




