07.06.犯人探し(2)
「会長……、これだと昨日と何も変わらないじゃないですか」
会長が透の腕にしがみついてるっ!
会長の胸が透に……
「あら、姫神君、そんな事はないと思うのだけれど。そうね、どちらかというと昨日の方が良かったかしら。何も変わらないと言うのなら今からでもあの部屋に――」
「それは……」
確かに昨日よりはましかも知れないけど、何で? 部屋は広いし、PCだって3台あるのにっ!
透にくっつかなきゃいけない理由なんて何処にも無いはずなのにっ!
「ここでいいです。いいですけど……」
「えっ、伊織まで?」
「私は……、透を監視してないと……いけないから。何かしようとしたら直ぐに拘束出来るようにこうしていないと……」
だから私も透の腕にしがみつく。
「う、うん、そうだけどさ。そんなに信用ないかな、僕……」
「そういうわけじゃ……無いけど」
透がそんな不正をすることなんてないって解ってる。でも、会長とはどうなるかわからないから。
「それに、これだとやりづらいんだけど……」
確かにそうだけど……
「そうね。せめて右手ぐらいは開放してああたほうがいいと思うのだけれど」
右手……、それって私の方だ。そこまで計算して左側に居たんだ、会長。
「会長、どちらかというと左手を開放して欲しいんですけど」
「どうして……、割と自信の持てる方だと思うのだけれど好みじゃなかったかしら?」
「好みとかそういう問題じゃなくてですね……」
「冗談よ。でも姫神さん、右利きよね。マウスも右側においてあるし、右手が自由になった方がやりやすいと思ったのだけれど……」
「右利きってのは間違ってませんよ。でも、マウスじゃなくてキーボードで操作する事の方が多いので。それに、見てください、キーボードも左手が受け持つ範囲の方にアルファベットが集中してますよね?」
「確かに……、意識してなかったのだけれど、言われてみれば右側には記号もあるのね……」
じゃあ、離れるのは会長って事で、私はもっと透にくっついちゃおっかな♪
「うーん、できれば伊織も……」
「えっ、私も?」
何で? 私、迷惑だった?
「両手が自由になってた方が作業しやすいというか、マウスも使うからね。これだとちょっと……」
「残念だったわね、姫神君」
「……」
作業しやすいってだけで、邪魔とは言われてないから。
「あの……伊織?」
「うん……、そういうことなら……仕方ないか」
会長も離れるなら、まあいいかな。
「さて、じゃれ合うのはこれくらいにして、そろそろ調査を始めたほうがいいわね」
急に真面目な表情になり、透から離れるとディスプレイに向かう会長。
「そうですね。昨日も結局進捗なかったですから。あっ、まさか……、調査の邪魔して校長に罷免させないようにとか考えてませんよね」
「なるほど、そういう手もあるわね。参考にさせて貰おうかしら」
「ううう、そうはさせませんから!」
ディスプレイに向かい、キーボードを叩き始める透。なんとかログをもう少し調べてみるって言ってたかな。
私も始めなきゃ。
私と会長は、透が特定した犯行時間にホットスポット圏内で怪しい行動をとっていた人物を探すこと。監視カメラの映像からね。透が秒まで特定してくれてるし、範囲も限られてるからすぐに見つかるはずだった。その気になれば昨日のうちにもね。
「変ね。怪しい行動どころか、PC、いえスマホですら手にしていないみたいなのだけれど」
「こっちもです。何人か通ってますけど、PCもスマホも持ってないみたいです」
普通に考えたら態々職員室近くでそんな事する必要もないんだけど……
じゃあ、透の調査が間違ってる?
「対象の時間帯を少し広げてみましょうか」
「そうですね、会長」
透のディスプレイには文字がいっぱい表示されてる。次から次へと表示される文字を眺めて唸ってるんだけど、私には理解できないな。見ててみどうしようもないから、自分にできることをやらなきゃ。
「見て、この生徒、何かを置いていったみたいなのだけれど」
透の手元……じゃなくてディスプレイから視線を戻し、対象時間前後の映像を確認しようとしていた矢先、会長が何かを見つけたようだ。
「WiFi中継器……」
「わいふぁい……何?」
「これがあれば例のホットスポットにもっと遠くからでも接続できるようになっちゃうかな」
「つまり、調査範囲を拡張する必要があるということね」
「そうですね」
「範囲の拡張……」
時間と場所が特定できてて、監視カメラの映像を確認すればいいだけだと思ってたのに……
校内でスマホを使っちゃいけないことにはなっていない。私も使ってるし、皆んな使ってるよ。どこまで広げるんだろう……、見つけられるのかな、犯人……
「中継機はもう回収されちゃってるんですよね」
「待ってね……」
映像を確認する会長。
「そうみたいね。ほらここ……、さっきとは別の生徒のようね」
「ですよね。電波も確認できなかったし……、そうだっ、こいつらが犯人って事でいいんじゃないかな!」
えっ、いいの? そんなので……
「そうね。彼らに事情を聞く必要があるのは間違いないのだけれど、犯人と決め付けるのはまだ早いんじゃないかしら。誰かに頼まれただけかもしれないし、なんとなく置いてみただけなのかもしれないのだから」
「えーーー」
物凄く嫌そうなんだけど……
「だめだよ透。関係ない人が犯人にされて、退学なんてことになっちゃったら……」
「だって……、面倒臭いじゃん。中継器だってこの1台だけとは限らないし、スマホ使ってる人なんて何人いるのさ。全員確認するの? ……そうだ、こんな事になったのはホットスポット作ったのが原因なんだしさ、あの先生が犯人って事で――」
「その事なら既に訓告処分になったみたいよ。といっても改竄の犯人というわけではなく、不用意にホットスポットを作ったことに対する処罰なのだけれど。犯人探しは継続しているという認識よ」
「そうですか……」
そこまで嫌そうな顔しなくても……
「そういうことだから、行くわよ、姫神さん」
「行くって、何処にですか?」
「例の生徒の事情聴取よ」
「それなら――」
「姫神君は監視カメラの記録調査を続けてもらいたいのだけれど。姫神さんが言った通り、他にも中継器があるかもしれないわ」
「えっ、でも……」
何で私だけ。ここで一人PCに向かっていろっていうの?
「あっ……」
何かエラー出てる。
「えっ、嘘っ!!」
「どうかしたの? 姫神さん」
『セキュリティ・システムの停止を検知しました』
「セキュリティ・システムが落ちてる」
落ちてる?




