07.05.犯人探し(1)
「ん? な、何、透」
「ううん、何でも無い」
「そう、じゃあ、お休み」
「お休み、凜愛姫」
本当にここで寝るんだ、凜愛姫。僕を監視するっていい出して、お風呂もドアの外で監視されたし、今もこうして一緒に寝る事になってしまった。
勿論、あの時みたいに一緒のベッドってわけじゃないけど……、会長との事疑ってる?
さっきは何となく誤魔化せたと思うんだけど、校長室を出た後は生徒会室に居たんだよね。会長と二人で。
凜愛姫を呼びに行ったってのは嘘じゃないんだけど、もう帰った後だったんだもん。こうなったのは凜愛姫の所為でも有るんだよ? だから怒らないでね?
何があったかって、いつもは会長の正面に座るんだけど、昨日は会長が隣に座ってきた。だから、会長が足を組み替えるときのワクワク感はかなり減少していたかな。
「まず、今分っていることを簡単に説明しておくわね……」
でも、あの角度からの眺めも悪くなかったかも……、とか言ってるから凜愛姫に怒られちゃうんだけど。
「姫神さん?」
「は、はい、お願いします」
会長も僕の視線に気づいてるみたいだったな。でも仕方ないじゃん、気になるんだもん。
そんな感じで、この事件の説明をしてもらったんだった。
会長の説明によると、これまでに改竄が確認されているのは丁度クラスの境界付近に居る生徒なんだとか。しかも僕たちの学年だ。ってことは、犯人は2組から1組に移動になった奴、確か……、草場っていったかな。
「怪しいのはこいつですよね」
「そうとは限らないわ。3組から2組への移動だってメリットが無いわけでも無いし、逆に、好ましくない人を別のクラスに追いやったという可能性もあると思うのだけれど」
「言われてみれば……」
「それに、対象のシステムは他のシステムから物理的に隔絶されていてね、生徒が直接どうこうできるはずがないの」
確かに会長の言った通りだ。
成績を管理するシステムは外部に接続されていない。それどころか、WiFiも無くて、職員室にあるPCのみが有線接続されている。だから、外部からの侵入なんて出来ないはずだ。物理的に繋がってないんだから。
という事は、何か別の手段、例えば誰かがうっかり作ってしまったホットスポットから侵入されてるとか、誑し込まれた教員が不正操作をしてるとか、うっかり持ち帰ったPCでエッチなサイト見てたらウィルス送り込まれてた、とかそんな可能性が考えられる。
と、ここまでは良かったんだけど、その後の事が凜愛姫にバレたら……
「ここに居ても何も出来ませんから職員室に行ってみましょうか。PCは使わせて貰えるんですよね」
凜愛姫が機嫌が悪くなることは少しでも避けておきたかった。だから、密室は避けようとしたんだよ?
「……」
「あの、会長?」
「もう少し、もう少しだけこうしていたいのだけれど」
「えっ、何で」
「こうして姫神さんの隣に座っていると心が穏やかになるの」
「でもこのままだと調査が――」
「姫神さんの所為なのだけれど……。姫神くんを巻き込んだりするから、こうして二人で居られるのは今だけになったしまったじゃない」
僕の手を取り、肩に擦り寄って来た会長。足とかもくっついちゃってて、ドキドキしちゃってたな……
「じゃ、じゃあ、ちょっとだけですよ」
「ありがとう、姫神さん」
ごめん、凜愛姫、結局会長の誘惑に勝てなかったよ。でも凜愛姫も悪いんだからね、先に帰ったりしちゃったんだから。
◇◇◇
翌日。
今日は最初から職員室へと向かう。目的は野良ホットスポットの確認だ。凜愛姫も一緒にね。
「テスラ、アクセスポイントと電波強度を一覧化して」
『かしこまりました』
僕のスマホはテスラに全ての権限を与えている。位置情報も、マイクも、カメラも、WiFi接続の制御だってテスラが制御できる。
だから、アクセスポイントの電波強度も知ることができるし、その気になれば攻撃を試みることだってできる。
『15のアクアセウポイントを発見しました』
「電波の弱いのは除外、セキュリティ保護がかかってないのは……」
テスラが勝手に判断して調べてくれるわけじゃないからいちいち指示しないといけないんだけど、こうしてスマホ持って歩いてるだけで調査ができるからそこは楽かな。
で、結果を言うと、職員室内部に存在すると思われるホットスポットは3つ。やっぱりあったよ。しかも、そのうちの一つはセキュリティー保護もなし。誰でもアクセス出来る状態になっちゃってたんだ。
ここから入られちゃったのかな。電波の届く範囲も特定できたから、監視カメラを確認すれば犯人に近づけるかも。
「会長、改竄が行われた時間は特定できてるんですか?」
「ログが削除されてしまったみたいなの。特定には至ってないそうよ」
あの数学教師が調べたんだろうけど……
「REDOログとかアーカイブログとかもですか?」
「私には何のことなのか解らないのだけれど……、直接確認させてもらいましょうか」
構築自体はセキュリティ・システムを手がけた所と同じ会社に任せたってことだから大丈夫だと思ってたけど、ちゃんとレプリケーションされてて、アーカイブログも残ってたみたい。犯人はそこまで気が回らなかったのかな。これが有ればデータベースの変更内容や操作した時間も特定出来る。
◇◇◇
「三人だと少し狭いのだけれど……、そうね、姫神くんは姫神さんの隣に座るといいわ」
改竄操作が行われた時間を特定し、その時間にホットスポット圏内に入った人物を確認する為にメンテナンスルームに来ていた。会長の言っている通り、三人入ると狭く感じる。
「いえ、会長がお座り下さい」
「私の事は気にしなくてもいいわ。そうね、姫神さんの後ろにでも立っていようかしら」
後頭部に何か当たってる。何かは……、意識しないでおこうかな。肩にはそっと手も置かれてる。
「そ、そうですか」
凜愛姫は僕の隣に座り、必要以上にくっついてくる。
「そんなに詰めなくても見えるんじゃないかしら?」
「いつもこんな感じですから。ねえ、透」
「そう……だね」
こんなに近くはなかったと思うけどな……
「最近視力が低下したようなの、ここからじゃ見えないわね」
そう言って前かがみになる会長。ちょっ、ちょっと、思いっきり当たってますって、会長っ。
「か、会長、それじゃ透に……、透に……」
「あら、何か問題でも? 女の子同士なのだけれど……、貴方の方が問題よね。姉弟とはいえ異性なのだから……、いえ、義理の姉弟だったかしら。大問題だと思うのだけれど、そんなふうにくっついていたら」
「そう……ですけど……、このディスプレイ、横からだと良く見えないから仕方ない……かな」
凜愛姫がどんどんくっついてくる。
「確かにそうね。私ももう少し下がったほうがいいみたいなのだけれど……」
会長の顎が僕の肩に……、凜愛姫が居ない方の肩に乗ってるっ!
顔が近いっ、背中に……、背中が大変な事に……
「会長っ! 流石にやりすぎですっ!!」
「あら姫神くん、見えないのだから仕方がないじゃない。でもこのままでは安定しないわね」
そんなっ、後ろから抱きつかれたら犯人探しどころじゃないよっ。
「と……透……」
いや、僕に言われてもっ。




