07.03.選挙結果
開票の結果、天照会長が圧倒的得票率で当選した。
「やったな、姫ちゃん」
「ありがとう、得利稼」
「おうよ。次は副会長の指名をどう躱すかだな」
「何か考えあるの?」
「それが……、まだ……」
副会長の指名は会長が独断で行える。誰の賛同もいらないばかりか、指名された人に拒否権も認められていない。つまり、会長の気が変わらない限りどうしようもないのだ。
「そうだ、副会長に指名するんだったら風紀委員はやらないって宣言するのはどうだ?」
「やらないって言って認められればいいんだけどね」
「委員長選出は評議委員会で決議されるんだろ? だったら……」
「実態は天照会長の独裁政権なんだよ。会長の議案は誰も拒否しないしさ」
「そうなのか……」
腕を組んで考え込む得利稼。僕は次なる作戦を思いつくのをじっと待つだけだ。
「姫神さんはいるかしら」
ううっ、時間切れか……
まだ選挙結果出たばっかりなのに、早すぎるよ会長。
「駄目だ、姫ちゃん……。諦めてくれ」
「うん……、会長にならなかっただけましだったと思うことにするよ」
「何の相談をしているのかは知りたくもないのだけれど、それどころではないの。一緒に校長室まで来てもらえるかしら」
「校長室?」
「姫ちゃん、何やらかしたんだよ」
やらかしてない……と思うんだけど。私的利用のことだったり?
「うわあ、ちょっと会長」
「急ぎなさい」
強引に手を引いて校長室へと向かう会長。表情も真剣で、冗談でやってるようには見えない。
「会長、何が」
「生徒に聞かれるとまずいことだから、校長室まで我慢しなさい」
そうして辿り着いた校長室。そこには数人の教員が渋い表情でテーブルを囲んでいた。
「よく来たねえ、姫神君。まあ、掛けたまえ。天照君も」
ただ一人、校長だけは穏やかな表情で、こんな風に椅子を勧めてくる。
「はい」
会長に倣って僕も着席する。校長の正面で、僕が何かやらかしたみたいな構図なんだけど。
「彼女は信用していいんだよね、天照君」
「はい。先ほども申し上げた通り、姫神さんの人間性については私が保証します」
「これはこれは。君にそこまで言わせるとは。いいでしょう、ひとまずは信じることにします。これから話すことは他言無用でお願いしますね」
そう前置きをして、校長は言葉を続けた。
「実はね、生徒の成績やら何やらを管理するシステムに侵入された形跡があってね。先生方に確認していただいたところ、改竄されている事が判明したんだよ、期末試験の得点が」
「それで僕が呼ばれたと……、僕が疑われてるわけですか」
「そうだね。君を呼んだのはそういう理由なんだけど、君に疑いがかかってるわけじゃないんだ。こうして君に声を掛けるに当たって真っ先に確認してもらっているからね。君が犯人だとしたら目的が分らないんだよ。自分の為でもなく、特に親しい友人の為でもないというのはね。天照君の話だとお金の為というのもなさそうだから」
「ということは」
「察しの通り、君に調査の協力をお願いしたくてね。引き受けてくれるかな? 勿論、それなりの見返りは用意するつもりでいるんだけど」
見返りか……
「確認なんですけど、校長って生徒会長より強い権限もってますか?」
「校長だからねえ。理事会を除けばこの学校で一番偉いと思うんだけど。何が望みかな?」
「僕が副会長に指名されたら、校長の権限で罷免できますか?」
「姫神さん、それは……」
何を言い出すんだって顔で会長に睨まれたんだけど……、だって嫌なんだもん。
「そういえば、ユニークな会長選だったね。長年この仕事に携わってきたけど、自分に投票しないでくれなんて訴えた候補者は初めて見たよ。そんなに嫌なのかな」
「嫌です」
「はっはっはっ、これはもう、諦めるしかないんじゃないかな? 天照君も」
そうそう、諦めるしかないんじゃないかな? 天照君も……、天照……会長……
「くっ、解りました。今回は諦めます」
「今回……は?」
「ええ、今回だけよ。覚悟なさい、来年こそは当選させてみせるわ。でも、その時は私は補佐できないのよ? 本当にいいのね、それで」
「……」
怖いよ、会長。
「君も厄介な人に見込まれてしまったものだね。はっはっはっはっ」
はっはっはっじゃないよ。もっと他にいると思うんだけどな。
「何で僕なの? 会長」
「それは……、あれよ……、貴女に見込みがあるからに決まっているじゃない」
見込みね……
会長、人を見る目が無いんじゃないの?
「では、宜しく頼むね、姫神君。詳しいことは天照君に聞いてくれたまえ。それから、くれぐれも一人で行動しないようにね。有らぬ疑いを掛けられないためにも、調査は常に天照君と一緒に行うように」
と、何故か会長にウィンクする校長。
「ん?」
「そういうことだから、暫くの間、放課後は生徒会室に籠る必要があるわね。ふ、二人きりで」
「……」
生徒に聞かれたらまずくて、常に会長と一緒にって言われたらそうなるか。
「では、先生方も、二人の調査に協力してあげてください。それから、ここに居る先生方以外には口外しないようにお願いします。職員による犯行の可能性も考えられますからね。隠蔽工作でもされると厄介です。逆に言えば、何かしらの動きがあれば真っ先に疑われますので、先生方もそのつもりで」
ここに居る先生、それは、副校長と情報システムの責任者になっている数学教師、それを補佐する非常勤講師の三人。校長を入れれば四人だ。
数学教師は例のあいつ。入学早々僕に嫌味を言ってたあいつだ。もうこいつが犯人ってことでいいんじゃないかな。
「だめよ、姫神さん。正しく調査を行った結果でなければ認められないわ」
「そうですか……」
「今のやり取りで何となく分かるが……、過去の事は水に流して厳正な調査を頼む」
お前が言うな、お前が。
「行きましょう、姫神さん。早速調査を始めるわよ」
「……」
「姫神さん?」
「あの……、もう一人……」
「もう一人、なにかね?」
「調査に参加させてください。伊織を……」
やっぱり凜愛姫が機嫌悪くなるのは嫌だよ。だったらこんな調査引き受けない。適当に副会長やってた方がいいよ。
「伊織君……、主席の子だったかね。信頼に足る人物なのかね?」
「「勿論です」」
会長……
「天照君がそう言うなら、いいんじゃないかね。では、頼んだよ」




