07.01.黒タイツの後継者
「姫神、立候補するなら何故俺に言わん。推薦演説の一つや二つ引き受けてやったというのに」
相変わらず言ってることが意味不明だな、火無は。
「驚きましたわよ、透さん。興味ないものかと思っていましたのに」
「水無まで。何の話?」
「何のって……、会長選の……」
「会長選?」
そういえば会長選があるって言ってたっけ。
「透、聞いてないよ。立候補してたの?」
ランチの後、トイレに寄るからと別々に教室に戻ってきたんだけど、慌てて駆け込んできた凜愛姫まで変な事言い始めた。
「してないよ」
態々忙しくなる必要ないし、会長は天照会長で良いんじゃないかなぁ。
「じゃあ何で名前が……」
興味無いから見てもなかったんだけど、廊下には次期生徒会長候補者の名前が張り出されていた。
天照 神楽
十六夜 葉月
姫神 透
「ほら、ね?」
天照会長は当然だとして、ウザ男は……まあ立候補するのは自由か。
でも……
「何で?」
僕は何かの間違いなんじゃないかなぁ。
「何でって言われても……、そうだ、選挙管理委員会に確認してみたら?」
選挙期間中、生徒会執行機関と独立した組織として選挙管理委員会が設置される。委員は各クラスから執行機関に属さない者が1名づつ選ばれ、その中から委員長も決定されることになっている。
早速、うちの委員である得利稼に訊いてみたんだけど……
「ここに名前が載ってるってことは、立候補したか誰かから推薦されたってことだな」
「推薦?」
「ああ。自薦も他薦も問わないからな、うちの会長選」
なるほど、誰かが推薦したのか。本人に何の断りもなく……
でもいったい誰が?
何故俺に言わんとか言ってるぐらいだから、火無の嫌がらせってわけでもなさそうだし……
◇◇◇
翌日の昼休み、僕に無断で推薦してくれちゃった犯人が判明した。推薦人の応援演説って形でね。
『代々我が校ではミス高天原が生徒会長を努めてきました。故に姫神 透さんこそが次期生徒会長に相応しいと思うのだけれど』
……だって。
何故か自分も立候補してるくせに、僕を推薦するという謎の行動に出た天照会長。何がしたいんだよ……
そして、各候補者の体勢も公表された。
常任委員会である4つの委員会、そして専門委員会である2つの委員会の長は1組もしくは2組の評議委員から選出する規定となっているんだけど、副会長と書記2名、会計2名は選出制限がなく、且つ、生徒会長に任命権がある。別に投票前に公表しなきゃいけないわけでもないんだけど、公表することで票を集められる可能性もあるってわけだ。勿論、顔ぶれ次第だけど。
ちなみに、ウザ男の体勢はというと、副会長:姫神 透って、おい……
書記が八嶋と草井、会計が佐々木……、うーん、公表すると逆効果としか思えない体勢だな。
天照会長の体勢は、副会長:姫神 透って、おいぃぃぃぃ。
書記が霊雷ちゃんと一刃ちゃん。会計が得利稼と箕浦って人。
「見て見て、私と霊雷は書記になってるんだぞ♪」
って言ってるから、僕だけじゃなくて霊雷ちゃん達にも何の相談もなく決めたんだ、会長。
箕浦って人は文化祭実行委員長だった人だけど、得利稼と会長って何処で繋がってるんだろう……
僕は会長に推薦されてて、他の2陣営の副会長にも指名されそうで、どうあっても逃げられないの? 拒否権は? 無いの?
◇◇◇
放課後、生徒会室に真意を確かめに行く。
「何の冗談ですか、これ」
「あら、私は本気なのだけれど」
「自分で立候補しておきながら僕を推薦するとか、どう考えてもまともじゃないじゃないですか」
「規則では禁止されてなかったと思うのだけれど」
「そういう問題じゃなくて……」
そんなことする人想定してないんだよ、規則だって。
「後継者を育てておこうと思ったのだけれど」
「後継者?」
「ええ。私の後継者」
「そんなのは僕なんかじゃなくてもっと相応しい人に――」
「応援演説でも言ったとおり、我が校の生徒会長は代々ミス高天原が務めているのよ? 創立以来ずっとね」
「だから?」
「だから貴女が次の生徒会長になるの」
そんな事で生徒会長が決められていいのか? そもそも……
「そんな規則はないよね、テスラ」
『……はい、マスター。そのような規則は定められていません』
「便利そうね。スケジュールの管理とかも出来るのかしら?」
「出来ますけど……」
「そう。姫神さんは何かと忘れっぽいみたいだから、当選した暁にはしっかりとサポートしてくれそうで何よりだわ」
「当選って……、だったら何で立候補してるんですか」
「保険よ。姫神さんを凌ぐ候補者が現れた場合のね。心配しなくても全力で貴女を応援してあげるわ。保険も必要なかったみたいだしね」
確かに、体育祭の感じからしてウザ男に投票する人なんて居ないんだろうし、投票システムも有志じゃなくてちゃんと選挙管理委員会が用意するから不正もできないんだろうけど。
「拒否権は? 僕に拒否権は無いんですか?」
「無いわよ。ねえ、テスラ」
『はい。立候補した者も、推薦された者も取り下げ並びに辞退することは認められていません。また、会長から役員に指名された場合も同様に辞退は認められません』
「何それっ……、っていうか、他の人の指示に勝手に答えちゃだめだよ、テスラ」
「……申し訳ありません、マスター」
「そういうことだから、これを渡しておくわ」
「えっ、これって……」
黒タイツ、だよね……。後継者って形から入るってこと?
「心配しなくても未使用品よ。使用済みの物を態々包装したりしないわ」
「はあ……」
「それとも、脱ぎたての方が良かったかしら。何なら今ここで――」
「い、いえ、これで……、いいです……」
そんなの持って帰ったら凜愛姫が……




