02.04.拗れる関係
まただ……。またやってしまった……
『あ、あの……、凜愛姫』
『……伊織だから』
折角透が話し掛けてくれたのに。そんなつもりじゃないのに……
なのに、何であんな言い方しちゃったんだろう。
今だってそうだ。
「頼んでないから」
透がお弁当作ってくれたのに。何でこんな事言っちゃうんだろう、私。
そもそも、私がしてあげようと思ってたのに。透にお弁当作ってあげようと思ってたのに。何で私がしたかったことを透が……
羨ましいのかな……、ううん、透が羨ましい。私がするはずだった事、何で透がやってるの? 透にしてあげたかった事、何で透が……、何で私にしようとするの?
「何なの、その態度。折角透ちゃんが早起きして作ってくれたのに」
「勝手に作っただけだから……。弁当は僕の朝ゴハンにしようかな。ごめんね、朝から嫌な思いさせちゃって」
「透ちゃん……」
何で透が謝るの? 悪いのは私なのに。そんな目で見ないでよ。惨めになるじゃない。
「行ってきます」
だから、そこから逃げ出した。
「待ちなさい、凜愛姫っ。朝ごはんは?」
無理に決まってるじゃない。透と並んで朝ごはんなんて……
どんどん拗れてく。透が嫌いなわけじゃないのに……。こんな事したいわけじゃないのに。
◇◇◇
学校へ向かう途中、武神さんと水無さんと会った。
「おはよう、伊織さん」
「おはようございます」
「おはよう。二人は一緒なんだ。仲良さそうだったけど、やっぱりそういう……」
付き合ってるのかな、二人は。
「水無とは只の腐れ縁だよ。家が隣同士ってだけのね」
「まあ酷い。一般的には幼馴染というのですわよ、この関係。武神さんったらそんな事も知らないのかしら?」
「ごめん、ごめん。水無の言う通り、ぼくらは幼馴染だよ。それ以上でも以下でも無いけどね。そういう伊織さんは透さんと一緒じゃないのかい?」
うん。本当は一緒に登校したかったんだけどな。目の前の二人みたいに。こんな体にさえならなければ……
思い出すなー、ディズニーランド。透と手を繋いで……
戻りたい。あの頃に戻りたいよ……
「伊織さん? ごめん、変なことを訊いてしまったかな」
「ううん、大丈夫。透とはそんなに仲がいいわけじゃないから」
ちょっと胸が苦しくなっただけ。
「何かあったのかい?」
何か……
私が避けなければ普通に接してくれたのかな……、透。
『凜愛姫、久しぶりだね。これから宜しく……』
あの時、久しぶりって、宜しくねって言えてたら……、透と仲良くできてたのかな……
「まだ引っ越してきたばかりだし……」
あれからまだ2日しか経ってないんだもん。まだやり直せる……よね。
「そうですの。確か義理の姉弟でしたわよね。引っ越してきたばかりでまだお互いのことを良く知らないと」
「うん、まあ、そんなとこかな」
「ですって。油断できないですわね、武神さん」
「水無、からかうのはやめてくれないか」
「ふふっ」
楽しそうに笑う水無さん。武神さんも『やめてくれ』とか言いながらも、表情は穏やかだだもん。
私も透とこんな風に……
そういえば、武神さんは女の子だったんだよね……、何でそんなふうに笑顔で水無さんに接することが出来るんだろう。それに、水無さんはどう思ってるんだろう……、幼馴染が男の子になっちゃって、自分以外の女の子を気にし始めちゃって。
聞いてみたい。でも、聞いたらだめなんだよね。女の子だったってのは私の推測でしか無いんだし。
そもそも、水無さんはずっと女の子だったのかな……。綺麗な人だし女の子だったと思うんだけど、透の例もあるからな……
「伊織さん? どうかなさいましたか?」
「ううん、何でも無い」
「そうですか。じっと見つめられていたように感じたものですから」
「良かったじゃないか、水無」
「ふふっ、武神さんがでしょ?」
本当に楽しそうに笑うんだな、この二人は。