06.13.密会
「行ってきまーす」
透の声だ。今日もこんなに早くから。
ドアの閉まる音を確認してから私もリビングへと降りていく。何のためって、透が誰と会ってるのか確認しなきゃ。
相変わらず透は私と目を合わそうとしない。家でも、学校でも、私が近づくと逃げていってしまう。
「凜愛姫? あなたも出かけるの?」
「うん。ちょっとね」
「朝ごはんは? 授業中にお腹鳴っちゃうわよ?」
「時間ないから。途中で何か買ってく」
朝ごはんなんか食べてたら透を見失っちゃうもん。
「ふ~ん、頑張ってね♪」
「何をよ……」
「いろいろと♪」
「はいはい。じゃあ、行ってくるから」
お母さんに付き合ってる場合でもないのよ。透を追いかけなきゃ。
急いで家を出て、透の後をつける。
普通に駅に向かってるみたいだけど、ずっと俯いたままかな。気付かれないように隣の車両に乗ったけど、透はずっと俯いたままだ。別に誰かと逢うためとかじゃないのかな……、楽しそうじゃないもん。
なーんだ、心配して損しちゃったじゃない。
……なんて思えたのも、学校につくまでだった。校門前であの車を見るまで。
「会長……」
そう、あれは会長の車だ。
俯いたままだった透も、会長の車を見つけて駆け出していく。
「会長と待ち合わせてたんだ、透……」
セキュリティを解除して、中に入っていこうとする二人。誰もいない学校で何するつもり?
私は……、私に邪魔する権利なんてあるのかな……
でも、私の足は動いてしまっていた。二人を追いかけて。二人を見失わないようにと。
透と会長が入っていったのは校庭脇の倉庫。屋外で使う体育用具とかが置いてある倉庫だ。
「まさか、あんな所でするつもりなの?」
透が会長と……
「ううう、何考えてるんだろう、私。そんなこと……」
ふと、普段の会長の言葉が頭をよぎる。
『二人の愛の巣を用意してみたの』
会長、透の事が好きなんだよね。
でも、今の透は女の子なんだから、女の子同士でそんな……
『私、可愛ければ性別は気にしないタイプなの』
『中に入れば監視カメラの映像も確認できるわよ、私と姫神さんの秘め事のね』
否定しきれない、会長だったら有り得るかも。それに、透だって女の子に興味あるんだよね……
でも何て言って……、私に止める権利なんて……
あるっ! 私は透の家族なんだから。こ、こんな不純行為は駄目に決まってるっ。だから……
ギギー ガタンッ
私は倉庫の引き戸を思いっきり開いた。そして叫んだのだ。
「透、こんな所で何をっ……」
キョトンとした表情でこっちを見る二人。着衣に乱れはないし、手には箒とゴミ袋?
「えっと……、何してるの?」
「何って……、見ての通り、これから校庭の掃除をする所なのだけれど……、姫神くんも手伝ってくれるのかしら?」
朝早くから校庭の掃除? えっ?
「何で?」
「そうね、会長選が近いから、といえば納得してもらえるのかしら」
「会長選……」
確かにもうすぐだけど……、こんな誰も居ない時間帯じゃ何のアピールにもならないじゃない。
「ちょっと無理が。それに、昨日は? 昨日も何処かの掃除をしてたんですか?」
「ええ。昨日も校庭の掃除をしていたわ」
「昨日の放課後は? 体育祭の後も校庭の掃除を?」
「ええ。念入りにね」
そんな事って……
私が来たから慌ててそのへんにあった箒とゴミ袋を手に取っただけなんだ。本当はここで……
「嘘です、そんなの……。私に何か隠してませんか、会長? ねえ、透、会長と二人で何してるの? 私には言えないようなこと?」
「それは……」
「答えてくれないんだ。透は会長と……」
「……」
俯くだけで何も答えてくれない透。ううん、これが答えか……
「邪魔してごめん。私……」
ここから消えなきゃ。透は会長を選んだんだから。透に背中を向け、倉庫から足を踏み出す。
ここにいたくない。二人の前にいたくない。早くここを出なきゃ。
私のそんな考えを否定するかのように腕を掴まれた。透……
「待ちなさい」
「会長……」
透じゃなかった。何期待してるんだろう、私。そうだよね。
「このまま行かせてしまったら大切なものを失うことになるわよ、姫神さん」
大切な……、そっか、選挙が近いのは嘘じゃないもんね。こんなことしてるって広まったら……
「大丈夫です。私、誰にも言いませんから」




