06.11.どっちなの
「行ってきまーす」
透の声?
外はまだ……暗いよね。
リビングに透の姿はなく、透を見送ったのかお母さんが下から上がってくるところだった。
「おはよう、お母さん」
「あら、今朝は早いのね、凜愛姫」
「今の、透?」
「そうよ。何か用事があるとかでね」
もう出掛けたんだ、透。こんな早くに何の用事?
「あっ、お弁当の心配? だったら心配要らないわよ? 久しぶりにお母さんが腕を奮ってあげちゃうから」
「別にそんな心配……」
「やっぱり透ちゃんの手作り弁当の方がいいのかな? もう、凜愛姫ったらしっかり胃袋握られちゃって。お婆ちゃんになる日も近そうね!」
「全然近くないからっ!」
そう、近くないよ。だって、透は……、透は……
「そんなに否定しなくても……、何かあったの? 透ちゃんと」
「何もない」
無いよ、何も。直接したわけじゃないし、その後だって先生に止められちゃったし……
「じゃあ、進展しなくて苛立ってるのかな?」
「苛立ってなんてないっ」
私は今まで通りなのに、透が私を避けてるんだもん。
昨日だって私と視線を合わそうとしないし。
「ふふっ、聞いたわよ、透ちゃんとキスしたんですって?」
「そんな事誰にっ……」
いや、皆んな見てたんだけどさ、お母さんに接点なんて無いはず。
「へぇ〜、本当だったんだ〜」
「あ、あれはガムテープ越しで……、だからノーカンなのよ、ノーカン。透とキスなんてしてないんだから」
「ガムテープ越しねぇ」
「そうよ、ガムテープ越しよ。仕方ないじゃない。ああするしか……」
ああするしか透を守る方法を思いつかなかったんだから。そもそも強力さんが余計なことするから――
「で、透ちゃんの様子がおかしくなっちゃったのね」
「……うん、って何で」
「二人の様子がおかしいことぐらい気付くわよ」
「……嫌だったのかな、ガムテーム越しでも」
だから私を避けてるの?
「そうねえ、逆だったって可能性もあるわよ?」
「逆?」
「そう、逆。透ちゃん、ガムテープ無しでしたかったのかも」
「無しで……してよかったのかな……」
ガムテープ無しで私と……
「あら、凜愛姫もしたかったの? だったら何故ガムテープなんて使ったのよ」
「何故って、透は男の子なんだし、今の私となんてしたくないんじゃ……」
「訊いてみたの? 透ちゃんに」
「訊けるわけないよ」
それじゃまるで私が透とキスしたいって言ってるみたいじゃない。
『でも……、してあげてもいいよ? 透がしたいなら』
あれ……、言っちゃってる? あの時、私……言っちゃってるじゃない。言っちゃってるよね、私っ。
「透ちゃんが男の子だって言うなら凜愛姫は女の子よ? 何か問題でも?」
「そういう事じゃ……」
中身が男の子の透は見た目が男の子の私とそういう事したくないんじゃないかなって事。
ううん、したく無いんだよ。前に言ってたもん透……
『男と結婚するとか想像したくも無いもん。かといって、女の子とってのもねぇ。こんな体なんだし、その人だって元々男だったかもしれないなんて考えたら……無理かな』
なのに、私があんな事したから私との距離を置こうとしてるんだ。私に警戒してるんだ。
『(凜愛姫……、しよ)』
でも、しようって言ったよね、透の方からしようって言ってくれたのに……
『はぁ、助かった』
助かった、か……
最後に透はそう言ってた。保健の先生に止められて、“助かった” って言ったんだ。
「表情筋が忙しそうね」
「五月蝿いっ」
もう、どっちなのよ、透。




