06.09.表彰式
全ての競技が終わり、表彰式を迎えて、私と透は全校生徒の前で壇上に上げられていた。
何故ってそれは……
「では、見事八咫鏡を手にした姫神君に女神から祝福の口付けを!」
そう、体育祭実行委員長によって急遽設けられたルール、ミス高天原から八咫鏡を奪った者は彼女に口付けしてもらえるというルールによるものだった。
「しないしっ、伊織は弟なんだからキスなんてするわけないじゃん!」
「えー、こちらの調査によりますと二人は義理の姉弟ということになっていますから……、問題有りません。寧ろ羨ましい限りです。ということで、さあどうぞ、祝福の口付けを!」
「しな――」
「透は嫌? 私とキスするの……」
「嫌じゃ……ないけど、こんな人前で――」
「じゃあ、しよ? 嫌じゃないなら、私とキス……してよ」
一歩、透へと近づく。
「なになに……、実行委員長から手渡されたメモに寄りますと、ここで口付けをしたらMVP確定とあります。豪華賞品もあなたのものです!」
「だって。賞品も貰えちゃうんだよ?」
「(凜愛姫……、いいの?)」
透が耳元で囁いてくる。周りに聞こえないように気を遣ったんだろうけど。
「勿論だよ、透」
「凜愛――」
ぺちっ
「ん(怒)」
ちゅっ
キャーキャーと歓声が沸き起こる。歓声だけじゃないのかな。
私は……、ちょっと恥ずかしいけど大丈夫。
ぺり
「期待してた? 残念だったね」
「ううう、ずるいよ、伊織っ」
だって、これはガムテープ越しのキス。頬に手を添えてって感じで透の口にガムテープを貼って、その上からキスしただけ。だから今のはノーカンだよノーカン、こんなのしたことにならないんだから。確かに唇の感触はあったんだけど……、ちょっとだけ。
「でも……、してあげてもいいよ? 透がしたいなら」
「えっ……」
その反応はどっちなの?
したいの? したくないの?
もう、透ったら。
「なーんて、嘘。へー、したいんだ透。私とキスしたいんだ~」
「もう、人の事からかって……、伊織のバカー」
そんな透の声は、周囲の歓声にかき消され、私は壇上から降りる。
「続いては、騎馬戦の勝者からミス高天原へのお願いを発表します。勝利チーム代表、 強力 光貴さん、前へどうぞ」
「あー、俺から女神さんへのお願いは……」
「お願いは?」
会場が静まり返る。
ミス高天原争奪騎馬戦。最後まで残った1騎が勝者となり、ミス高天原に何でも1つ願いを叶えてもらえる事になっている。勿論、公序良俗の許す範囲内に限られてるんだけど。
これを阻止しようと透自らも出場したんだけど、駄目だった。私も出たんだけど結果はこの通り。でも透の唇を守れただけ良かったとしよう。
「キスだ」
「はぁ? 僕にしてもらいたいことは無いって言ってたじゃん。なのにキスって」
「あー、誤解するな。別に俺としろって言ってるわけじゃない。姫神、姫神 伊織とだ」
私? なんで……
「伊織と? それなら今したじゃん」
「もうちょっと長めで頼む」
「長めって」
動揺してるのかな、透。私だって心の準備がまだ……、それに、さっきのガムテープは丸めちゃったし……
「そういうことなので、姫神 伊織さん、再び壇上へお上がり下さい。そして、ミス高天原と熱烈な口付けを〜」
歓声と怒号が入り混じり、周りに居た知らない人たちによって壇上へと押し上げられる。
「ちょっと、押さないで―― きゃあ」
思わず素が出てしまったけど、大丈夫。周りの声でかき消されてるはず。
そして、倒れそうになった私を透が抱きとめてくれる。壇上で…、全校生徒の目の前で……
「(凜愛姫……)」
顔が近い。耳が熱くなってきちゃうよ。
「こ、こんなの、公序良俗の許す範囲を超えてるよっ。みんなの前でそんな事させるのなんて、駄目に決まってるっ」
「さっきもしてましたから」
「あれは……」
透の抗議も虚しく、進行役にあっさりと退けられてしまう。あれはガムテープ越しだったんだけど見えないようにしてたつもりだから。
「(凜愛姫、さっきのまだある?)」
「(さっきの……、ガムテープ? あれは……)」
丸めてしまったガムテープを透に見せる。透にだけ見えるように。
「(代わりは?)」
「(……ない)」
「雰囲気を大切に、といった感じなのでしょうが、時間も押してまいりましたので、時間を掛けるなら唇が触れてからにしていただけますか? では、どうぞっ」
どうぞってそんな簡単に出来るわけ――
「(凜愛姫……、しよ)」
透の鼓動が伝わってくる。ドキドキしてて、凄く早くて……、私もドキドキしてる。
「透……」
唇が近づいてくる。透の唇が。プルプルで可愛い唇。
するのかな……、キス。透はいいの? 私としても……
うあああ、もう目を閉じよう。考えるのは止めた。目を閉じて透に全てを委ねるんだ。私としたいならすればいいし……
「うん」
キスして、透。
透に抱き寄せられる。キスするんだ……、私、透と、キスを……
「そこまでだ」
えっ、何?
突然肩を掴まれて、そのまま透と引き離される。
「げっ、何でっ!」
「何でも糞もあるか。公衆の面前で一度ならず二度までも。しかもたっぷりと見せつけおってからに、黙っていられるとでも思ったのか?」
ミニスカートに白衣の女性、透が苦手としている保健の先生だ。
「強力、後で保健室まで来い。お前には説教が必要なようだ」
「いや、これには訳が……、俺は妹の目を覚ましてやろうとしただけで、他意はないんだ」
「言い訳は保健室で聞いてやる。お前たちも静まれっ! 体育祭はこれまで、この場で解散だー!」
「はぁ、助かった」
助かった、のかな……。
「お前も嫌ならはっきりと断らんか」
やっぱり嫌だった? 透……




