06.05.女子借り物競争
「女子借り物競争に出場する選手は招集ゾーンにお集まり下さい」
男子競技があるということは、当然女子競技も存在する。本来なら目玉商品は “ミスター高天原(お姫様抱っこされる)” なんだろうが、こんな物、ただの罰ゲームでしかない。
大半の女子が狙うのは “告白したい相手” だろう。考えてもみろ、脈ありならばこれを切欠に交際へと進展する可能性がある上、そうならなくても告白したい相手が居なかったから、などと誤魔化せば今までの関係を続けることもできる。
問題は、このカードが全体の七割近い120枚も存在することだ。実行委員側もこの辺りは考慮していて、“ちょっと待った” システムを導入している。文字通り、告白したい相手が同じだった場合「ちょっと待った」と叫んで相手の前に並ぶ。まあ、誤魔化しは効かないんだけど。選ばれればそのままゴールし、選ばれなかった者はその場で失格になるというシステムであり、この競技の実態は借り物競争などではなく単なる告白タイムなのだ。
「霊雷は誰狙いなのかな~」
私が告白したい相手。それは……
「誰だっていいだろ、まだそのカードを引くと決まったわけでもないんだから」
「ふ~ん、まっ、聞かなくても解っちゃうんだぞ♪」
「なっ、何を勝手に……」
1組からの出場者は私と一刃、それに火神さん。後は姫ちゃんが距離を置いてる女子たち。きっと嫌がらせしてたんだろうけど、そういう奴らはノーマークでいい。あの二人も距離を置いてるみたいだから。
とはいえ、あの二人、密かに女子の人気を集めてるからな。姫ちゃんが近くにいる所為か、普段は誰もそんな素振りも見せないんだけど。
あと、気になるのは火神さんか。伊織くんと仲良さそうなんだもん……
まあ、考えても仕方のないことだ。
120枚のカードには幾つかのバリエーションが有るという。平凡な “二人三脚” に始まり、過激なものは “抱き合いながら” や “キスしながら” なんて物まで。
い、いきなりキスとかはな……
そもそも、そういうカードの場合は相手に拒否されることが多いだろうな。脈ありどころか、相思相愛でもない限り無理だろ。
そして、いよいよレースが始まる。
一刃は幸運にも第1レース。何が幸運って、「ちょっと待った」なんて叫ばなくて済むんだから。恥ずかしいだろ、そんなの。そもそも、本気ですって言ってるようなものだ。
私は第5レースで、火神さんは最終レースだけど、第1レース以外はあまり関係ない。特に人気の相手を狙う場合はな。
スタートの合図とともに一刃が走り出す。一刃は足も速い。真っ先に封筒を引くとその場でこう叫んだ。
「武ちゃ~ん、お姫様だっこだぞ♪」
それを聞いた他の出場者の中から「ちょっと待った」コールが起こる。
一刃を入れて20人ぐらいだろうか、横一列に武神さんの前に並び、一斉に右手を差し出す。
「武ちゃん、武ちゃん」
一刃のやつは選んでアピール付きだけど。
「誰を選ぶのでしょうね、武神さん」
火神さんは此処にいる。ということは……
武神さんは一刃を選んだ。お姫様抱っこされて嬉しそうに笑う一刃。
「透さんが出ていたら、結果は違ってたのかしらね?」
姫ちゃんはこの競技に出場していない。ミス高天原は皆のアイドルだからと実行委員会に止められているのだとか。
もし姫ちゃんが……か……
夏休み明けから二人の距離が近くなったように見える。当人同士は否定してるけど、同じネックレスを着けているし……
でも、姫ちゃんは出場してないんだから。私だってお、お姫様抱っこ……してもらいたい。姫ちゃんみたいに。
「彼女、ミスター高天原を引き当ててしまったみたいね」
姫ちゃんの事を考えている間にレースは進み、火神さんの指摘通りカードを破り捨てている人が居た。
「ちょっと待ったー」
そしてそんな声も。目に飛び込んできたのは、伊織くんの前に居る女の子。
行かなくちゃ。私も……行かなくちゃ。
「ちょっ、ちょっと……」
でも、断られたらどうしよう……
「ほら、頑張って」
「火神さん……」
あれ? 火神さんはいいの? 伊織くんじゃ……ないの?
「急がないと」
違うんだ。伊織くんじゃないんだ。うん……
「ちょっと待ったー」
姫ちゃんも火神さんも居ない、だったら私を選んでくれるかも……
伊織くんの前に並び、そっと手を差し出す。
「伊織……くん」
「うん、鹿島さん」
私の手を……とってくれた。伊織……くんは私の手を。
カードに書かれてたのは “告白したい相手(恋人つなぎ)” だった。 お姫様抱っこが良かったんだけどな……
「どうかした? 鹿島さん」
「ううん、なんでも……ない」
これはこれでいいかも。
気になる最終レース。火神さんは……
カードを破り捨てて危険したのか。“ミスター太もも” とかだったのかな……




