06.03.男子借り物競争(1)
僕は今、体育祭実行委員の監視下に置かれている。
何故って、逃亡の恐れがあるから。
『男子借り物競争に出場する選手は招集ゾーンにお集まり下さい』
なんてアナウンスが流れてる通り、このあと男子の借り物競争が予定されている。そして、その目玉商品というのが “ミス高天原(お姫様抱っこ)” なんだとか。
こんな風に借りる物(者)とその運搬方法が指定されたカードが封筒に入れられ、出場者の数だけ用意されている。
なんとか回避できないかとあれこれ考えた。
例えば急な腹痛とか、頭痛とか……、でも保健室にはあの人がいる。却下だな。
例えばセキュリティシステムがハッキングされるとか……、体育祭どころじゃなくなるかも。これも却下。
「ねえ、テスラ、何かいい方法ない?」
『今日はいい天気ですね、マスター』
「うん。そうだね」
チャットボットに頼ったところでね……
「あのー、お花詰みに行きたいんだけど」
「お供します。出来れば手短に」
トイレに行くのも監視がついてるから、逃げたくても逃げられない。
ウザ男とか火無が引いちゃったらどうすれば良いんだよ。
「待ってろよ、姫神。お前をこの腕に」
「鬱陶しいのが居ると思えば、また君かい。プリンセスを抱くのはこの僕に決まってるじゃないか」
「十六夜 満月、お前こそ鬱陶しいぞ。姫神に嫌われているのがわからないのか?」
「満月ではなく 葉月だ。何回言えば解る。そもそも、嫌われてるのは君の方なんじゃないかい?」
こうやって態々本部前まで来てああだこうだ言ってるし。心配しなくてもどっちも嫌いだよ。
借り物競争には、各クラス5名、合計180名が参加し、1レース10人ずつで18レースが行われる。目玉商品は1枚だけ、どのレースで出るかは判らない。
そして、いよいよ競技が始まった。
火無は第1レース。何か気合い入ってて怖いんだけど……
スタートの合図と同時に封筒の山に向かって猛突進していく。
「ふっはっはっはっはー、これも愛の力だ」
嘘だろ……
封筒を手にした火無が本部を目指して走ってくる。僕を目指して……
「さあ、姫神。一緒に行こう」
「やだっ!」
「照れなくて良いんだ。それに、拒否権は無いんだろ? ほれ、この通り姫神の名前が書かれた札だ」
姫神 透 (抱き合いながら)
「……偽造、ですね」
「何を言う。これが偽造だと?」
「本物なら “ミス高天原(お姫様抱っこ)” とあるはずです」
「何っ、そうだったのか……」
「ということで、貴方は失格となります」
「そんな、これは何かの間違いだ。もう一度、もう一度引かせてくれ」
「聞こえませんでしたか? 失格です。速やかに退場してください」
「くっ、こうなったら姫神を攫って……」
いきなり僕の腕を掴んだと思ったら、そのまま何処かに連れて行こうとする火無。
「こらっ、離せっ」
「離すもんかーっ、俺は姫神をぉぉぉぉ……、はう」
何処からともなく現れた巨漢。柔道部主将にして、体育祭実行委員長、強力 光貴、その人である。
「大丈夫かい、女神さん」
「有難うございます、強力さん。女神じゃなくて、姫神ですけど」
「おいっ、手を離せ。俺は姫神と……」
「やれやれ、仕方ない」
暴れようとする火無は地面にねじ伏せられ、そのまま動かなくなった。
「死んだ♪」
「流石にそこまでしないさ、女神さん」
「なんだ↓」
女神じゃ無いんだけど、何回言っても直してくれないんだね。
競技は進み、いよいよ最終レース。これまでの所、僕のカードは出ていない。火無の所為で残り11枚となった封筒の中に入っているはずだ。
そして、このレースには凜愛姫が出場する。もちろん、ウザ男も。
「伊織ー、頑張ってー」
「特定個人への肩入れはお辞め――」
監視役の言葉を遮るようにスタートの合図が鳴る。
ウザ男が最初に封筒の前に辿り着いたけど、選ぼうともせず、そのまま待っている。
「なるほど。誰かが引き当てたのを奪おうという作戦ですか」
「はあ? そんなのありなの?」
「特に禁止はされていません」
他の選手達が封筒を選び、中身を確認するのを淡々と見守っている。そして、残る封筒は3枚。遅れて凜愛姫がやって来た。




