05.10.嵐が過ぎて
朝、気がついたら透を抱きしめてた。ううん、透に覆いかぶさってて……
『えっ、そんな、凜愛姫っ』
透の叫び声で目が覚めたんだった。怯えたような透の声、恐怖で引きつった透の表情。
『気にしなくていいってば。僕も……』
そういえば、なんて言おうとしたんだろう。気になるけど、どんな顔して透と向かい合ったらいいのか判らない。
このままシャワー浴びてようかなー。
「凜愛姫ー、いつまで入ってるのー。遅刻しちゃうよー」
その場から逃げるようにお風呂に入ったんだけど……、そっか、今日は学校あるんだ。休んじゃおっかな。
「凜愛姫ー、聞いてるのー」
「今行くー」
もう、透ったら……
着替えてリビングに向かうと、透が朝食を用意してくれていた。
「食べよっか、凜愛姫」
「うん……、その、ごめんね、透」
「そのことはいいんだってば」
「でも私、透に酷いことしちゃったから」
怖かったよね。元々男の子なんだもん。嫌だよね、同性にあんなことされたら。
「無意識だったんでしょ?」
「それは、そうなんだけど」
「だったら仕方ないじゃん」
「でも……」
無意識だったからといって許されないよね。
そもそも、一緒に寝ようなんて言わなきゃ良かったんだ。でも、そしたら怖くて眠れなかったかな。
暖かかったなー、透の背中。小さくて柔らかくて、私の腕の中にすっぽり収まって……
「元気出してよ。僕が気にしないって言ってるんだから、それでいいんだってば」
「うん……」
「上に乗ってただけで何も無かったんだしさ」
「そうなんだけど……」
実際、何かしたわけじゃない。ただ覆いかぶさってただけで。
でも、透は怯えてた。怖かったんでしょ? 透……
「はぁ。僕がいいって言ってるのに、凜愛姫の中で納得できないみたいだね」
「……」
「じゃあ、責任とって貰おうかな」
「責任? ……そうね。私に出来ることなら何でも言って」
それぐらいしないとね。透には嫌われたくないもん。避けられたくないもん。
「じゃあ、僕と付き合ってよ」
透から発せられたのは、想像の斜め上を行くものだった。
「付き合うって、私と透が……」
「そう。恋人同士だったらあんなことしたって全然問題ないでしょ?」
「そうかも知れないけど……」
「凜愛姫は嫌? 僕と付き合うの」
「嫌じゃないけど……私は……」
私も気付いてた。自分の気持ちに。あのネックレス見た時から。
私は透が大好き。ずっと一緒に居たいって。でも、それは二人で元に戻ってからにしようって思ってたのに。我慢してたのに。
透は受け入れちゃったのかな、女の子でいる事。私は……、元に戻りたい。元に戻って透と……、透と恋人同士になりたい。
もしもこのまま元に戻れないとして、私は他の女の子を好きになれるんだろうか……。多分、無理なんだろうな。
もし透と付き合い始めて透だけが元に戻っちゃったらどうするつもりなんだろう。
もし私だけが元に戻っちゃったら……、透はどうするつもりなんだろう。別れる……のかな……
そんなの嫌だよ……
でも……
もう、透ったら、こんな可愛い笑顔はずるいよ。
「私……」
「なーんて、冗談。ドキドキしちゃった?」
「冗……談……」
「そう、冗談。これでおあいこね。さあ、早くたべちゃって」
もう、透のバカ……。その気にさせといて……
ブルルルルル ブルルルルル ……
うわあ、お母さんからだ。
『おはよう、凜愛姫。透ちゃんとは進展あったの?』
「ないから……、そういうの」
『あら、残念ね』
「もう、お母さん」
「進展かあ、何だったらそのまま朝の続きしちゃってもいいよ?」
透っ、お母さんに聞こえちゃうじゃないっ。もうおあいこじゃなかったのっ!
「し、しないってば」
「じゃあキスは?」
「しない」
『キス?』
「何でもないから」
もう、聞かれちゃったじゃない。
「でもしようとしてたよねえ」
「してないってば。覆いかぶさっただけじゃない」
『ちょっと、凜愛姫ちゃん? 透と何かあったのか?』
『なになに? 透ちゃんとキスしたの? 進展してるじゃ――』
「学校行かなきゃだから、もう切るね」




