03.08.黒タイツの誘惑
僕は自分のペースで気楽にコーディングするのが好きだ。なのに、火無の所為で面倒臭いことになっちゃったよ。なにが『思い知らせてやる。どっちが優秀なのか』だよ。お前が優秀だったら僕は降りられてた筈なのに。
「ごめんね、透。私が余計なこと言ったから」
「別に凜愛姫の所為じゃ無いから。ボーナス無くなっちゃうのは流石に可愛そうだもんね」
「でも、大丈夫なの?」
「まあ、ね」
井川さんの言う通り、この案件をこの期間でこなすのは難しいだろうな……、本気出さないと。でも、楽しくないじゃん、そんなの。自分の時間が無くなっちゃうし、何より……
「凜愛姫と出かけられなくなっちゃうかもしれない」
「それは……私も残念だけど、私の所為だから……我慢……かな」
残念だけど我慢……か。凜愛姫もそう思ってくれてるんだね。
あーあ、パパ活疑惑で凜愛姫が寂しがってるって知って、少し仕事減らしてたのにさ。
「頑張る。僕頑張るよ。終わらせちゃえばいいだけだもん。そしたら出かけられるもんね」
凜愛姫がそう思ってくれるんなら頑張れるっ!
と思ったんだけど……
「姫神さん、セフレ募集の次がパパ活疑惑というのはどういう事なのかしら?」
黒タイツの麗人のそんな一言。ある放課後、僕は生徒会室に呼び出されていた。
優雅に足を組み替えるのに、何故か見えない。こんなに短いスカートなのに、黒タイツの所為なのかな……
僕の心は男のままだ。だから、そういうことをされるとやっぱり凝視してしまう。
「黒は好き?」
「な、何がですか?」
「あら、見えなかったのかしら。残念ね」
黒なのかな……、それともタイツのこと?
会長も解ってやってるのか、楽しげに笑みを浮かべてる。
結局、ブートキャンプの後は僕に嫌がらせする人も居なくて、こうしてここに来ることは無かったんだけど、今日来ているのは違う理由。いや、決して会長のパンツを覗きに来たわけじゃないよ?
先の会長の質問の通り、新たな疑惑について弁明するためだよ。目の前に突きつけられているのは、例の小太り部長さんと一緒にいる写真。名前は覚えてないけど。
「この人は僕の発注元で、勿論変な仕事の発注なんかじゃなくてですねぇ、ソフトウェア開発って言ったら解って貰えますか?」
会長の誘惑から気をそらすように、突きつけられている写真のオジサンの説明をする。
「それで疑惑が否定できるとでも思っているのかしら?」
会長は相変わらず足を組み替えながら、僕の反応を楽しんでるみたいだ。もう少し、もう少しなんだけどな……
「逆に肯定にもならないんじゃ?」
「噂話に決定的な証拠なんて必要ないのよ? 実際、この写真だけでパパ活疑惑が広がりつつ有るわ。次から次へと、心配の種が尽きないわね、貴女は」
確かに、時間が惜しいからって、迂闊だったかも知れない。学校のすぐ近くだもんね、誰かに見られたらこういうことになるって想定しておくべきだった。入学早々迷惑かけたばかりなのに……
「ごめんなさい……」
「いいわ、今回も私の方で何とかしてあげましょう」
「信じてくれるんですか?」
「あら、元々疑ってなんて居ないわよ」
「じゃあ、僕は何でここに……」
「貴女が全然遊びに来ないからに決まってるじゃない。言わなかったかしら? いつでも来ていいと。それなのに、こんな事でもないと来ないのだから」
生徒会室ってそんな気軽に来ていい所だったんだ……
それに、会長って忙しいんじゃ……
「兎に角、この件が解決するまでは毎日ここに来ること。いいわね」
「毎日、ですか?」
「そう、毎日よ」
はぁ、コード書く時間が……
会長がゆっくりと足を組み替える。そんな事したら今度こそ……、見えないんだ。何で?
「あら、もうこんな時間。一緒に食事なんてどうかしら?」
「いえ、そろそろ帰らないと……」
「変ね、聞こえなかったのかしら、食事に誘ったつもりだったのだけれど」
「えーっと、はい、お供します」
こんな感じで、急に会長に拘束されるようになり、おまけに、家に帰ると……
「遅かったね、透。やっぱりあの噂の件だったの?」
「うん。会長がなんとかしてくれるみたいなんだけど……」
「そう、良かったね。ご飯用意できてるよっ、もうお腹ペコペコ」
「待っててくれたの?」
「勿論。一緒に食べたいもん」
食べてきたなんて言えない……
でも、頑張ってみたものの、そんなに食べれるわけもなく……
「食欲、ない?」
「そういうわけじゃ……」
「食べてきちゃった……とか?」
「ごめん」
「会長と?」
「……うん」
「そっか。言ってくれればいいのに。明日は一緒に帰れるんだよね?」
「……」
「明日もダメなの?」
「噂の件が解決するまで毎日来いって……」
「そう……」
こんなふうに、凜愛姫が寂しそうな顔をしてる。
これも全部火無の所為だ。凜愛姫にこんな顔をさせる奴は許さない。
『思い知らせてやる。どっちが優秀なのか』か……、上等だ。思い知らせてやる。実力の差を。




