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03.06.とんだ勘違い

 「(とおる)さん、貴女は何を……」


 武神(たけがみ)さんの声が震えてる。


 「武神(たけがみ)さんっ、それに伊織(いおり)水無(みな)まで」


 「伊織(いおり)さんが心配そうにしていたものですから。でもまさかとは思いましたがこの状況はいかがなものかと」


 「いかがなものかって、ちゃんと要求確認して条件決めとかないとこの後の事が不安じゃない。それに――」


 「この後って……そんなことしたら退学じゃ済まない……、いや、この男の人生がどうなるか……」


 怒って……る? 何で? そんな規則あった?


 「校則は確認したつもりなんだけどなぁ。バイトは禁止されてないんじゃなかったっけ?」


 「流石に校則とかいうレベルじゃ無いよ、(とおる)


 あれ、凜愛姫(りあら)まで怒ってる……

 うーん、校則じゃないなら何? 他に何かあったっけ? 個人で受けたらバイトって呼べないの? 二人が怒ってる理由は何?


 「とりあえず、一旦ここを出よう。このままだとぼくは……」


 腕を引っ張って無理やり連れ出そうとする武神(たけがみ)さん。


 「ちょっと待ってって。それじゃ仕事にならないじゃん」


 「こんな仕事、認められるわけないでしょっ」


 凜愛姫(りあら)、そんな怖い顔しなくても……。もう、何が何だかわからないよ。


 「君たち、ちょっといいかな」


 特に慌てるわけでもなく、僕のクライアントが二人を呼び止めた。それに反応して般若のように睨み返す凜愛姫(りあら)と鬼の形相で今にもクライアントに殴り掛かりそうな武神(たけがみ)さん。


 「何か誤解しているみたいなんだけどね。私は彼女にプログラムの開発を依頼してるだけなんだよ」


 「「プログラム?」」


 「そう。もっとわかりやすく言えば、スマホアプリの開発だね」


 「パパ活じゃなくてアプリの開発?」


 へぇっ? パパ活?


 「あははは、まあ、そんな風に見えてしまったなら申し訳ない」


 「なんだ……」


 「なんだ、じゃないよ、伊織(いおり)。僕がそんなことするとでも思ったの? しかもこんなオジサンとっ!」


 「おいおい、手厳しいな。おじさんにだって傷つくハートぐらいあるんだよ?」


 えっ、あるの? いつも井川(いかわ)さんに散々言われてるから無いと思ってたんだけど……

 それにしても井川(いかわ)さん、遅いなぁ。


 「本当なのかい? (とおる)さん」


 「本当だよ。そうだ、ほらこれ。先週リリースしたんだけど、僕が作ったんだよ♪」


 「これを……(とおる)さんが……」


 「そうそう。今日は次の案件の打ち合わせ。仕様とか金額とかのね」


 「我々の力不足でね、なかなか仕様も纏められなくて発注まで時間がかかってたんだけど、そこも彼女が引き受けてくれてね、本当に助かってるんだよ。このままうちに就職して欲しいぐらいだ」


 信じてくれたのかな。凜愛姫(りあら)武神(たけがみ)さんも怖い表情が消えたみたい。


 「あら、どうかしら。カモフラージュかも知れませんわよ? 打ち合わせと見せかけて実は、ってね」


 「そうなの? (とおる)


 「そんなことないって」


 「じゃあ、証拠はあるのかしら?」


 もう、水無(みな)ったら。二人も二人だよ、水無(みな)におもちゃにされちゃってさぁ。


 「おまたせしましたー。あら? 今日はずいぶんとにぎやかね。(とおる)ちゃんのお友達?」


 「はぁ、やっと来た。井川(いかわ)さん遅いから大変なことになってたんですからぁ」


 「うーん、なるほど、そういうことか。心配しなくても援交なんてしてないわよ、(とおる)ちゃん。今はパパ活って言うんだったかしら?」


 いつもこのオジサンと一緒に打ち合わせにやってくる井川(いかわ)さんだ。こんな日に限って来るの遅いんだから。でも、一瞬で状況を把握してパパ活を否定してくれたから、まあ許してあげよう。


 「で、どっちが(とおる)ちゃんの彼氏さん?」


 何でそうなるの。もう余計なことを……

 って、何で硬直してるの? 二人共……

 凜愛姫(りあら)? 武神(たけがみ)さん?


 「もしかして、二人共なの? 凄いわね、(とおる)ちゃん」


 「違いますって。友達ですからっ」


 「あらあら」


 もう、二人も何か言おうよ。


 「部長、もう注文しちゃいました?」


 「いや、君が来るのを待っていたからね」


 「じゃあ、お友達も一緒にいいかしら? 経費で落ちないなら部長のおごりって事で」


 「ああ、いいとも。心配しなくても君が大食いだったってことにしておくよ」


 実際この人大食いだけどね。


 「ごめん、(とおる)


 「ぼくも謝らせてもらう。済まなかったね」


 はぁ、何とか治まった。


 「ふふ。仕方ないですわね、二人共」


 「って事はやっぱり解っててやってたんだね、水無(みな)は」


 「だって、二人の反応が面白いんですもの。……ただ」


 不敵な笑みを浮かべる水無(みな)。嫌な予感しかしない。


 「彼女もカモフラージュという可能性は否定出来ませんわね? この後三人で……」


 「もう、いい加減にしてよね、水無(みな)


 「まあ、(とおる)ちゃんとはありだけど、正直言って部長とは無いわね」


 「えっと、僕とは……」


 「(とおる)?」


 「えっ、いや、何でも無い」


 「冗談よ。まあ、(とおる)ちゃんが男の子だったら無くもないんだけどね。さあ、皆んな座って座って。部長のおごりだから好きなもの頼んでいいわよ」


 「私じゃなくて経費ね」


 食事をしながらも、三人の事をあれこれ聞き出そうとする井川(いかわ)さん。


 「ねえねえ、(とおる)ちゃんのお友達って事は、プログラミング得意だったりする?」


 「いえ、私はそういうの興味ないので」


 「ぼくもどちらかと言うと苦手です」


 「私もですわ」


 「それは残念ね。今ちょっと人手が足りなくてね。そうだ、データ入力とか、ドキュメント作成の仕事もあるけど、興味ない?」


 コーディングしか見てなかったけど、そういう仕事もあるんだ。凜愛姫(りあら)、どうかな。そしたら打ち合わせの時も一緒に居られるよ?


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