03.05.怪しいお仕事
透と一緒に居られたのは中華街に出かけたあの一日だけ。次の日から部屋に籠もりっきりだし、たまに出かけたと思ったら暗くなるまで帰ってこないし。武神さんや水無さんとも遊びに行こうねって言ってたのに。
GWが終わってもずっとそんな感じなんだけど……
「透さん、相変わらず忙しそうだね」
「仕事、みたいなんだけど」
「何の仕事か気になってる、ってところかしら?」
「うん、まあ」
「伊織さんの話では最近羽振りもいいみたいですし、気になりますわよね、武神さんも。怪しいお仕事じゃなければいいのですけれど」
「ぼくは……、透さんを信じるよ。そんなことする人じゃないって」
「私だって信じてるけど……」
やっぱ気になるよね。お母さんへのプレゼントだって安くないんだし、あの日の出費だって結構な額になってるはず。それをあんな短期間で貯めてただなんて……
「信じてる……ですか。でも、万が一、という事も。誤った道に進もうとしているのでしたら正して差し上げるのも友の務めですのでわよ?」
「だったら、後をつけてみようか。土曜日は何処かに出かけてるんだろ? 透さん」
こそこそ後をつけるなんて気は進まないけど、訊いても教えてくれないからな。
「なんだか面白そうですわね、私も参加させていただきますわ」
「じゃあ、決まりだね。今週の土曜日、授業が終わったら密かに透さんを尾行しよう」
「う、うん……」
まあ、着いてくるなとは言われてないか。
◇◇◇
そして、その土曜日。私達は、授業そっちのけで透を尾行する準備をしていた。
いつも通り終了と同時に教室を飛び出していく透。私達は透に気付かれないように、それでいて見失わないよう細心の注意を払って透を尾行した。
透が向かったのは、学校近くのファミレス。といっても、ここで働いているというわけじゃないみたいだ。
「誰かと待ち合わせ、なのかな」
「気になりますわね。どんな方がお相手なのか」
「水無、まだそうと決まったわけでは……」
「確かに、今のところはそれらしい殿方は現れていませんね」
私達は、ファミレスの向かいの喫茶店に居る。ここからだと、丁度透の座っている席が見えて、ファミレスに入っていく客も確認できる。
子供連れの主婦の集団、スーツ姿の小太りのオジサン、老夫婦に女子高生の集団とか、水無さんの言う通り、今の所それらしき人は訪れていない。強いて言えば小太りのオジサンぐらいなんだけど……、無いかな、生理的に。
「そもそも、こんな所で待ち合わせしないんじゃないかな。学校も近いし」
確かに、密会には向いてないかも。ここは駅にも近いし、うちの学校の制服もよく見かける。こんな所で密会してたらとっくに噂になってはずだよ。
「勘ぐりすぎたようだね、水無」
「あれを」
水無さんが指差した先、勿論、誰かを待っている透の方を指しているんだけど、それを見た武神さんの顔から血の気が失せていくのが判る。
「まさか……」
多分、私も……。やだ、そんなのやだ。こんなの見なかったことにしたい。
「えっ、何……、えええええー」
何で、何であんなおじさんと……
さっき入ってった小太りのオジサンだ、スーツ姿の。
「二人とも落ち着いて。まだそうと決まったわけでは無いわ。限りなく怪しいですけれど」
オジサンが透に近づいて、そしたら透が立ち上がってオジサンに挨拶してるみたいに……
でも、そうか、偶々会った恩師なのよ。中学時代の先生とか?
「座りましたわね、同じテーブルに」
「透……さん……」
だ、大丈夫だって、武神さん。きっとあれよ……、『久しぶりだね、ここ、いいかね』みたいな? 偶々よ偶々。『いやー懐かしいねー』みたいな感じで!
「まだ帰らないね、あの人……」
「う、うん」
「決まりですわね」
バン
限界に達した武神さんがテーブルを叩く。
目が怖いよ……、透、何してるの……
「直接行って確かめる。事と次第によってはあの男……」
「暴力沙汰はいけませんわよ。自分の能力を良く考えてくださいね」
暴力沙汰? 武神さんの能力? えっ? 何?
「どうかな。紳士的にいくつもりだが……、理性で抑えられるかどうか……」
わかんないけど、とりあえず頑張れ、理性!




