03.04.大切な人
「ブルーダイヤには “大切な人の幸せを願う” って思いが込められているのよ。プレゼントにはいいと思いますよ」
僕は今、元町のジュエリーショップに来ている。凜愛姫と一緒にね。
大通りから一本入った路地にあるこじんまりとしたお店なんだけど、何故か引き寄せられるようにこのお店に入っていた。
大切な人の幸せを願う
この石に引き寄せられてたのかなあ……
お店に入って真っ先に目についたネックレス。決して大きな石でもないんだけど、透き通った青が綺麗で、何より込められた思いが心に響いた。
僕の大切な人……、凜愛姫には幸せになって欲しい。
8月は凜愛姫の誕生日。母の日のプレゼントを買いに来たんだけど、良いのを見つけちゃった。だから、義母さんへのプレゼントはこれじゃない。
このまま買って帰りたいし、なんなら取り置きしておいてもらいたいけど、凜愛姫には当日まで秘密にしておきたいかな。
「ねえ、こっちは?」
店員さんの説明を遮って、他のネックレスを指差す。四芒星の中心にダイヤモンドがはめ込まれてるデザインのネックレスを。別に適当にってわけじゃない。実際こっちのもいいと思う。透明なダイヤだってだけで。
僕の義母さんになってくれた人なんだから、凜愛姫と同じ様に僕にも接してくれる人なんだから、感謝の思いを伝えたい。
でも、一番は凜愛姫かな、やっぱり。
もし二人共こんな病気にならなくて、もし僕が告白していたら……、なんて時々思ったりもする。実際、僕から告白出来るかどうかも微妙なのにね。それに、考えてもどうにもならない事なのに。
僕の心は男のままだ。だから、誰かと付き合うことになるとすれば、それは女の子とだと思う。勿論、心も体も女の子。僕みたいに元は男だったってのも嫌だ。
だから、告白しようとは思えない、凜愛姫には。一緒に居ると楽しいし、幸せなのに。兄妹として大切、兄妹しとして一緒に居て幸せ、それでいいんだ。
それもあってか恋愛に積極的になろうと思えない。会長だって水無だって綺麗だし僕に優しくしてくれる。でも、生まれたときから女の子だったの? なんて訊くこと出来ないし、あれこれ調べ回るわけにもいかない。
逆に、凜愛姫はどうなんだろう。
男子になったんだから、やっぱ女の子と付き合うのかなあ。それとも、男子と? 武神さん? たぶんだけど、元々女の子だよね。
うーん、気になる。ねえ、凜愛姫、凜愛姫は誰とくっつくの?
ネックレスを選びながらも、そんな事が頭から離れない。凜愛姫の事が気になる。何で? 大切な人だから?
「そうだね。じゃあ、ちゃんと返すから、今は貸しておいて」
凜愛姫も気に入ってくれたのかな、このネックレス。
「いいってば」
「そういうわけにはいかないから」
「うーん、どうしてもって言うなら、体で払っちゃう?」
「体、で……」
「えっと……、ごめん」
会長の真似してみたんだけど……、僕にはハードル高かったかな。顔が熱いよ。
◇◇◇
今は、帰りの電車の中。義母さんへのプレゼントも買えたし、凜愛姫の誕生日プレゼントも良いのが見つけられた。喜んでくれるかな、凜愛姫。
疲れたのか、僕にもたれ掛かって眠ってしまっている。凄く近い所に凜愛姫の顔があって……、こうやって少し傾けると僕の耳が凜愛姫にくっついちゃう。
もうちょっとこうしててもいいよね……
手も握っちゃおうかな……
「透……」
「ごめん、えっとこれは……」
寝言……か。どんな夢見てるんだろう。
「だいす……」
うん、僕も大好きだよ。
なーんって。『そんな事言ってない』って怒られるよね。“だいすけ”かもしれないし、“だいするの?”かもしれない。いや、“だいするの?”はないか。ほんと、どんな夢見てるんだろう、凜愛姫。
大きく電車が揺れて、凜愛姫が目を覚ます。
「透……、ごめん、重たかったよね」
「いいよ、そのままで」
「うん、じゃあもうちょっとだけ」
再び僕の肩に頭を乗せてくる。
「透、今日は楽しかったよ。ありがと」
「僕も。又行こうね、凜愛姫」
「うん」
繋いだままの手をぎゅっと握ってくれた。このまま……ずっとこうしてたいな。
◇◇◇
「「ただいまー」」
「お帰りなさい。どう? 進展あった? もうキスぐらいしたの?」
ハイテンションな義母さんがそんなことを尋ね、凜愛姫が全力で否定する。
「ないから。キスとか……してないから」
顔を赤らめながらだけど。
「なんだ、残念っ」
「もう、お母さん、透とはそういう関係じゃないんだから」
そう、僕と凜愛姫はそういう関係じゃない。
「ねえ、透」
「そうだよ義母さん。からかうのは止めてよね」
……恋人同士じゃないんだ。




