02.20.名誉回復
ブートキャンプ開け最初の登校日。
僕はバッグに退学届を忍ばせている。
凜愛姫とは仲良くなれて、今日は初めて一緒に登校してるんだ。最初で最後のね。そうそう、お弁当も受け取って貰えたんだよ♪
学校に近づくと、正門の前に生徒会長が立っていた。今日も黒タイツだ。
「おはよう、姫神さん」
「「おはようございます」」
「なるほど、二人は夫婦というわけね」
「ふ、夫婦?」
からかわれ慣れてないんだろうか。凜愛姫が変な声をあげて顔を赤らめている。
「だいたいから年齢的に無理じゃないですか。伊織は僕の義弟ですよ」
「確かにそうだわね。では二人共私とお付き合いを始めるということでいいかしら?」
「……」
「私、可愛ければ性別は気にしないタイプなの。姫神さんも気にしなくていいわよ?」
「性別は……気にしない……」
「これ、貴女にあげるわ」
「鍵?」
「二人の愛の巣を用意してみたの。姫神くんも一緒だとは思わなかっらからこれしか無いのだけれど。ごめんなさいね」
「こんな鍵を使うって……兎小屋ですか?」
会長に渡されたそれはどうみても南京錠の鍵程度にしか見えないんだもん。
「まあ、そんなところね。新年度早々、校内で嫌がらせ行為があったようなので下駄箱もロッカーも施錠できるものに変更することにしたの。1年生のは既に交換済みよ。あなたたちがブートキャンプに行っている間にね。本来は鍵も自分で用意してもらうんだけど、もう毛虫もうんちも踏み潰したくは無いのではなくて?」
「そんなことされてたの? 透……」
「まあ、毛虫は勝手に入ってきちゃっただけかも知れないんだけどね」
「そんなことあるはずないから」
「そうなんだ……。ありがとうございます、会長」
「大した金額でもないから気にしなくてもいいわ。そうねぇ、どうしてもと言うなら体で払ってもらっても構わなくてよ?」
あれ、何か会長のイメージが……
「流石に体でっていうのは……」
「あら、残念ね。気が変わったらいつでも言ってね。それまで預かっておくわ、それ」
「それって?」
「惚けなくてもいいわ。退学届でしょ?」
お見通しか……
「どういう事なの? 透」
「どうって……」
色々やらかしたし、居づらいかな、ここには。それに、凜愛姫とは一緒に暮らしてるんだから、高校に拘る理由もない。
「心配しなくても、貴女の名誉は回復されるわ、間もなくね。退学を考えるのはそれからでも遅くなくてよ」
「透、私も考え直してほしい。信じてみようよ、会長を」
凜愛姫がそう言うなら……
僕は退学届を会長に手渡し、会長はそれを破った。
「あの……、何で……」
「そうね、どうしてもというのなら教えてあげてもいいのだけれど……、下手ね、字が」
「下手……」
そんな理由で……
読めればいいじゃん、そんなの……
「その気になったら私の所に来なさい。いつでも教えてあげるわ。じゃあ、私はこれで。またね」
「ありがとうございました」
笑顔で会長を見送る凜愛姫。
「会長と知り合いだったんだ」
「知り合いっていうか、うんちが入ってた時に助けてくれたんだ。会長が居なかったら異臭を漂わせながら購買まで行くとこだったよ」
「ふーん、綺麗な人よね」
「凜愛姫?」
「その名前で呼ばないでっ」
「ごめん。でも僕には凜愛姫だから」
「しょうがないなぁ。でも他の人が居る時は止めてよね」
「うん、わかった。凜愛姫♪」
「変わったね、透」
「そうかなあ」
下駄箱にもロッカーにもしっかりと鍵が掛けられていた。しかも、ロッカーを開けると教科書が2倍に増えていて、“使い古しでよかったらどうぞ! 貴女の神楽より” なんてメモが添えられていた。
「会長の教科書? しかもこんなに書き込みが。あの人、いつも全教科満点だって噂なんだけど……。ねえ透、私のと交換しない?」
「……」
「透?」
「えっ、うん……」
程なくしてホームルームの時間となる。
何だか、臨時の全校集会とかで、教室に設置されている大型モニターに会長の姿が映し出され、真面目な感じで話し始めた。
『校内で噂になっている件についてですが、事実無根であり、全ては加害生徒による嫌がらせであることが判明しています』
会長の言葉に続いて次々と証拠映像が流される。って、これ、僕が受けてた嫌がらせのことじゃん。
男子トイレに入っていく女子生徒と、入り口で周囲を警戒する女子生徒。偶然やってきた男子生徒が見張り役の引き止めも虚しくトイレに入るも、出てきたのは先に入った女子生徒と一緒で、続いてその二人が体育館の用具置き場に入って行き、マットを広げて……、そこで映像は中断。
僕のロッカーから教科書を取り出して落書きして、中木さんの教科書を取り出して僕のロッカーに投げ込んでる女子二人。トイレの女子と同じ二人だね、これ。
あとは、同じ二人がきゃーきゃー言いながら箸で摘んだうんちを下駄箱に入れてたり。
最後は、“セキュリティ関連業務を委託している者”というテロップ付きて、スーツ姿のオヂサンがいる部屋に例の用具置き場の女子が入ってくる。
プライバシーに配慮してか顔はモザイク処理されてたし声も変えてあったけど、髪型や仕草、話し方の特徴などからそれが誰であるかは明らかだった。特に特選の生徒にとってはね。証拠映像が流れてる間、ずっと俯いてるし。
『これらの行為によって3ヶ月の停学処分となるでしょう』
だって。
「そんなっ、お前の所為だぞ。どうしてくれるっ」
「はあ? 散々出しといて何言ってんの?」
「くっ……」
「そもそも、笑顔振りまいてムカつくから落とそうって言い出したのゆっきーだよね。何で私まで……」
「あんたも成績心配だから姫神を落とそうって言ったよね」
会長の言葉を受けて、三人が内輪もめを始めた。
「えっと……、皆さんお静かに……」
副担任が止めようとしてるけど、そんな声じゃ無理じゃないかな。
最後に、『根も葉もない噂話に惑わされること無く何とかかんとか』と締めくくる会長。何とかかんとかは……何言ってるのか解らなかったんだもん。
直後の休憩時間。誤解が解けたとはいえ、初日みたいに皆んなが集まってくるなんてことは無かった。まあ、皆んな言いたい放題言ってくれたからね。声も掛けづらいんだろうな。
代わりに凜愛姫と水無が僕の所に来てくれる。あと武神さんもか。
「名誉は回復されたみたいだね」
こんな話し方だし、男子の制服着てるんだけど、刃瑠香って名前なんだよね、武神さん。女の子だったんだよ、絶対。名前を変えなかったのは何か事情があるんだろうな。それとも、元に戻ってやるっていう強い意思とか?
これで、僕にも平和な高校生活が訪れた、のかな?
友達いっぱいってわけにはいかなかったけど、凜愛姫が居て、水無が居て、武神さんが居る。
そうそう、ホームルームに担任が来なかったんだけど、辞職したんだって、一身上の都合とかで。




