02.15.反撃の狼煙
ブートキャンプ2日目の朝。
僕の荷物は廊下に放り出されてたから、そのままそこで寝た。その所為か体中が痛い。
でも、水無のお陰で気持ちは前向きになれたかな。
凜愛姫は僕が守る。
だから、朝食も普通に食べる。皆んながどう思おうと関係ない。
凜愛姫には水無が警告してくれているはずだけど、僕はこいつらから目を離さない。
そして、いよいよ林業体験へと出発する。
ロビーに集まってきている生徒たちが何やら噂してるんだけど、うちの担任の部屋から嬌声が漏れてたんだとか。視線が気になるのは相手が僕だと思ってるんだろうけどさ、僕の置かれてる状況が変わってないのって、見たら解るよね。
「各班で持ち物を確認しろー。出発するぞー」
担任の一声で、皆んな一斉にバッグを確認する。ロビーに置かれたままになっていたあのバッグだ。
昨夜のお相手は、にやけが止まらないらしい。僕も堪えるのに必死だよ、君の表情がこの後どう変わるか考えただけで吹き出しそうだからさ。他の二人は青くなってるけど、そうだよね、死人が出るかもしれないんだから。だったらやらなきゃいいのに。
1班の面々は早々と確認を終え、体験へと出発していった。
「私達も急がなきゃ」
中木に促されるように、猿田がバッグを確認しようとしている。心なしか、ホッとしているような。
亀島は困惑してるのかな? 体張ったのにね、蛇居なかったね。
「ん? 何これ……」
猿田が袋の中を覗き込む。それはね……
「キャーッ!!」
袋が投げ上げられた。
それは凄く慌てた様子で、別に意図したわけじゃないんだろうけど、いい具合に亀島の頭に落っこち、不幸にも開いてしまっていた袋はその中身を全てぶちまける事になる。頭と皮と内臓と、あと僕の食べ残しの骨とを。
「「「キャーーーーッ!!!」」」
それはもう、ちょっとしたパニックだ。
「何やってる、誰の仕業だっ。姫神っ、お前か」
それって偏見でしょ。まあ、僕だけど。
「昨日夕飯抜きだったんでお腹ペコペコで。林業体験に向かう途中で捨てるつもりだったんですけど、誰も僕の話を聞いてくれなくて~」
「そんな言い訳が通用すると――」
「そういえば、昨日は誰と一緒だったんですか~? まさか先生に誘われるとは思いませんでしたけど、お相手見つかって良かったですね~」
「お、お前には関係ねえだろう」
「一緒だったってのは否定しないんだ~」
「誰とも一緒じゃねえよ」
ぷっ、面白すぎ。
「亀島、着替えて来い。5班は亀島を待って出発。他はとっとと出発しろ。お前は待ってる間にロビーの掃除だ」
「はいはーい」
ほとんど亀島が被っちゃったからそんなに落ちてないし、そもそも僕は平気だもん。亀島は僕のことを睨んでたけど、君はもっと酷いことしようとしてたんだから。
◇◇◇
林業体験は、規定の本数を切り倒した班から撤収となる。これは好都合だ。だって、うちの班は4人で作業するんだから。僕? 僕は他にやることがあるし、僕なんか居ないほうがいいって思われてるから、サボってても何も言われないんだよね。
「ゆっきー、急がないと雨降ってきたよ」
「一人サボってんだから仕方ないし。まあ、ずぶ濡れになればいいんじゃない」
僕のレインコートはズタズタに引き裂かれていた。まあ、この程度は仕方ない。
そして、四人は漸く規定の本数を切り倒す。勿論、残っているのはうちの班だけ。
来た時と同じ道を戻り、宿泊所へと戻る。担任は吊橋の向こうにいて、こっち側には5班の面々だけ。
そしてこの吊橋には……
「おっ先~」
「待て、姫神。サボってたくせに」
僕は徐に走り出す。慌てて追いかけてくる四人。
「こらー、走るなー」
金属製とはいえ、吊橋は揺れる。それも、五人で走れば相当な揺れだ。この振動がいい感じに刺激してるに違いない。橋の下、丁度真ん中辺りにぶら下がる蜂の巣に。この辺の人がどう呼んでいるのかは知らないけど、じいちゃんが“赤蜂”って呼んでるあいつらに。多分スズメバチの仲間なんだろうな。
「うわーっ」
止めに思いっきり転倒する。中間地点の少し手前、当然後ろの四人を巻き込むようにして。これが引き金になって、前方からハチの大群が襲いかかってくる。羽音をブンブン言わせながらね。
怒ってるんだろうな~、散々揺らしておいたからな~。
「に、逃げろー」
まあ、レインコート着てるから大丈夫だろう。刺されても初めてなら平気なはずだ。
四人はもと来た道を引き返す。勿論全力で走ってね。僕も後を追う。レインコートは役に立たないからハチを払い除けながら。
当然、向こう側からは誰も追ってこない。蜂を駆除するのが先なんだろうけどさ。
さあ、最後の仕上げだ……