02.14.腹が減っては
「そうですわね。望み……、私の望みはただ一つ」
火神さんからもたらされた、既に凜愛姫が巻き込まれてしまっているという情報。そして彼女は犯人を知っているという。
「私とお友達になって下さいませ」
「友達に……」
「はい。お友達に、です」
「それだけ？」
「嫌ですか？」
「嫌じゃないけど……、火神さんまで巻き込んで――」
「水無、ですわ。先程も申しましたが、私の心配は無用です」
確かに彼女はそう言っていた。
「でも、何で……」
「それも言ったはずです。貴女の事が気になるから、と」
そうだけど、何で僕なんか……
「気になってしまったものは仕方ありませんわ。それで、どうします？ 知りたいですか？ 知りたくないですか？」
「知りたい……」
凜愛姫に……
「伊織に何かしようとしている奴が居るなら……」
「そうですわね。でも、無茶はいけませんわよ。あくまでも警戒するだけです。そのためにお教えするのですから」
「勿論。どのみち僕には何もできないし」
「では――」
彼女の口から告げられたのは、亀島 夢妃、猿田 琉花、御竿 立也の三人。同じ班の三人だ。会長の推測だと、成績によるクラス替えを意識しての事なんじゃないかとの事。僕と中木さんに嫌がらせして、2組行きを免れようとしてるんだとか。
中木さんには僕が嫌がらせしてるように思わせるようにして、僕は嫌がらせしてるって事で更に皆んなに嫌われるようにして。彼女の教科書が僕のロッカーに入っていたのもその一環で、知らなかったけど、彼女の教科書にも落書きされてたんだとか。
凜愛姫に何かしようとしてるんだったら……僕が止める。でも、本当なんだろうか。たかが成績の為にそこまでするんだろうか。水無を信じていいんだろうか……
「そろそろ戻りましょうか。大分長居してしまったようですし」
「うん」
◇◇◇
部屋へと向かう途中、ロビーに差し掛かった所で話し声が聞こえてきた。
「（嫌ならルッチが塚田の足止めする？ あーしだってあんなおっさんと寝たく無いしさ。いいよ、それでも）」
「寝るってお前、また――」
「（声がでかい、役立たずっ。あーしとヤりたかったら少しぐらい役に立ったらどうなの？）」
水無の言っていた三人だ。ひそひそ話のつもりなんだろうけど、辺りが静かだからなんとなく聞き取れる。
「（話は終わり。さっさと行ってきて）」
「（う、うん）」
「（解った……）」
そのまま猿田さんと御竿くんは外に出ていった。
「（何か企んでるようですわね）」
「（そう……なのかな）」
「（まともな目的なら担任を足止めしておく必要は無いと思いません？）」
「（確かにそうだけど）」
「（二人が帰ってくるまで様子を見ましょうか）」
「（うん……）」
二人を待つ間、水無とは何も話さなかった。僕から話すことも無いし、水無も話し掛けてこない。只、息を殺して二人が返ってくるのを待った。
「（帰ってきましたわ。あれは……）」
30分程だったと思う。帰ってきた二人の手には、ペットボトルの容器が握られていた。取っ手の付いた大きなペットボトル。
「（マムシ……）」
間違いない。じいちゃんが同じことしてた。捕まえたマムシをああやって焼酎のペットボトルに。
「（そんなものまで……）」
問題は、アレをどうするつもりかだ。蛇焼酎にして、匂いで嫌がらせしようっていうんなら放って置いてもいいだろう。でも、彼らがしたのはそんな可愛い悪戯の準備なんかじゃなかった。
「（1班のバッグですわね）」
それは、ロビーに置かれた1班のバッグ。明日の林業体験で使う道具一式が入っているバッグだ。
彼らは、そのバッグの中にマムシを潜ませた。
そこまでするんだ……
水無の言葉が確信に変わった瞬間だった。
「（警察を呼びましょうか）」
「（待って。彼らがやったって証拠が無いよ。マムシは僕が何とかするから）」
「（何とかって、大丈夫ですの？）」
グググー
「（えへへ。お腹もペコペコだし）」
警察が出てきた所で彼らがやったって証拠は無いし、蛇焼酎にしようと思ったら逃げちゃって、とか言い訳もできないこともない。
だったら、同じことしてあげるよ。折角担任の足止めしててくれてるんだしさ。
◇◇◇
「やっぱり危険なんじゃ……」
心配する水無を他所に、僕は1班のバッグを開ける。
「平気だよ、慣れてるから」
じいちゃんに散々やらされたからね。でも、マムシは初めてか。まあ、基本は同じ、首根っこを掴めば何もできないから。精々腕に巻き付いてくるぐらいかな。
「ほら、ね？」
「こっちに近づけないで下さい」
嫌がりながらも何故かついてくる水無。向かうのは屋外の調理場、皆んながカレーを作ってた場所だ。
「一体何を？」
何をって、解体……だけど……
「ちょっと刺激が強いから見ないほうがいいかも」
「透さんが平気なら私だって大丈夫ですわ」
噛まれても嫌だから、マムシの頭を石で叩き潰す。
「ひぃっ」
「だから見ないほうがいいって」
「大丈夫……、も、もう平気ですから」
首根っこを紐で縛って木の枝に吊るしたら、縛った少ししたの皮をぐるっと一周切って、その皮を持って一気に下に引き剥がす。
「あれ、じいちゃんはこうやってたんだけどな。水無、ちょっと手伝って……」
「ううっ」
水無は僕の背中にしがみついて、嘔吐しそうになるのを必死に堪えていた。頼めそうにないか……
何度か切り込みを入れながら、漸く解体できた。皮を剥き、内臓を取り出し、頭を落とされたピンク色のウネウネ動く物体。
「こんな状態になってもまだ動くんですのね」
「うん。食べやすい大きさに切っても暫くは動いてるよ」
「えっ、透さん、今、何て……」
えっ、何のために解体してると……
「水無も食べてみる？ 意外と美味しい……」
遂に我慢できなくなったのか、水無はその場で……
悪いことしちゃったかな。
