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02.09.ブートキャンプの朝

 ブートキャンプ当日。(とおる)はまだ起きてきていない。


 「(とおる)ちゃん起こしてきて。今日ぐらいは一緒に行ったらどう?」


 「うん、そうだね」


 結局、切欠がつかめないまま(とおる)とは何も話せていない。

 ブートキャンプは二泊三日。その間は家に帰ることもできない。家に居ても部屋に閉じ籠もったままだけど、ブートキャンプではそうやって閉じ籠もることもできなくなるんだもん。そんな環境のなかで、大丈夫なわけ無いよね。せめて私だけでも……


 階段を登ってドアをノックする。やっぱり返事はない。でも今日は諦めない。震える手でドアノブを掴む。ここを開ければ、そこに(とおる)が居るから。私は(とおる)と……


 「(とおる)、一緒に――」


 「話しかけないでっ」


    バタンッ


 「……」


 思い切って開けたドアは、パジャマ姿の(とおる)に閉められてしまった。今までに聞いたこともない強い口調と共に。

 当たり前か。今まで無視してたんだから。(とおる)にとっては私も他のクラスメイトと同じなんだろうな。今更一緒になんて虫がよすぎるよね。

 目の下の隈、眠れなかったんだろうな、昨日。


 「(とおる)ちゃん起きてた?」


 「うん、まだパジャマだったけど」


 「そう、じゃあ、そろそろ下りてくるのかしらね」


 でも、(とおる)はそのまま出かけてしまった。私にも、お母さんにも何も言わずに。


 「今の、(とおる)ちゃん?」


 「そう、みたい」


 「どうしたのかしら、朝ゴハンも食べずに。最近、元気ないみたいだし、学校で何かあったんじゃないの? 凜愛姫(りあら)、何か聞いてない?」


 「特には……」


 何か、か。起こっていることは知ってるけど、聞いてはない、かな。私なんて信用できないんだろうな。


    ◇◇◇


 先に行った(とおる)は皆んなから少し離れたところに居た。


 「(とおる)


 声を掛けたんだけど、私を避けるようにもっと遠くに行ってしまう。


 「何かあったのかい?」


 「武神(たけがみ)さん、水無(みな)さんも……。見てた、今の……」


 「私達も(とおる)さんの事は気になっていますの。ですから、伊織(いおり)さんだったらと期待していたのですが……」


 「ぼくたちが声を掛けようとしても今みたいに逃げられてしまってね。でも、伊織(いおり)さんもだなんて……」


 「私も(とおる)の事無視してたから……。遅すぎるよね、今頃……」


 「そんなこと――」


 「『話しかけないでっ』って言われちゃった」


 「「……」」


    ◇◇◇


 ブートキャンプで訪れるのは自然あふれる長野の田舎。流石に全クラスというわけにはいかないから、今日は1組から4組までの100人。

 目的地まではバスで6時間もかかるんだけど、(とおる)は頭にタオルを冠って身動き一つしていない。他のメンバーも(とおる)のことを気にすることもなく、始めから居ないかのように四人で楽しそうだ。途中の休憩もずっとタオルを被ったまま。


 「(とおる)さん、大丈夫かな」


 (とおる)の事を心配してくれる武神(たけがみ)さん。


 「昨日眠れなかったみたいだから、このまま寝かせておいてあげたいかな」


 目の下の隈はそういうことなんだよね、きっと。


 「伊織(いおり)さんがそう言うなら」


 目的地に着いてからも同じ。班ごとの昼食も会話に交わることもなく、孤立しているみたいだった。食事も殆ど残したみたいだし、午後の活動も少し離れた所で見てるだけ。全く元気がない。


 「ねえ、(とおる)


 「……」


 話しかけても無言で立ち去ってしまう。でも、これって私がずっと(とおる)にしてたことなんだ……


 夕食は飯盒で御飯を炊いて、カレーを作るんだけど、(とおる)は夕日を眺めてる。当然のように(とおる)の分は用意もされなかったみたいだし。


 担任が気付いてくれたのか、(とおる)に近づいていったけど、なんか怖い顔して戻ってきただけで、特に何かをしてくれるわけでもないみたい。普段からそれとなく酷いこと言ってたから期待するだけ無駄なのかも。


 夕食後の入浴は気の合う者同士が誘い合っていっている。

 (とおる)は夕日を眺めててた場所でそのままぼんやりと夜空を眺めていた。誰にも誘われないし、自分から誰かを誘おうともしない。入学当初の姿からは想像も出来ないほどの変わりようだ。出会った時の彼に似てるかな。


 「心配だね、(とおる)さん」


 「武神(たけがみ)さん……」


 「班編成の変更を申し出てみようか」


 「どうかしら。彼女と仲良くなりたいと思ってるクラスメイトがいればいいのですが」


 「ああ、そうだろうね。だからぼくたちが」


 「それもどうかしらね。意識していないみたいですけれど、刃瑠香(はるか)って女の子に人気がありますのよ? もちろん伊織(いおり)さんも。そんなお二人と同じ班になったりしたら他の女の子からはいい目では見られませんですわよね。最悪の場合、嫌がらせが今よりも酷くなることも考えられますわ」


 「だったらどうすれば……」


 解決手段も思いつかないまま、ただ(とおる)を見つめる。


 「そうだ、水無(みな)はまだお風呂に入って無いんだろ?」


 「あら、どうしたの? 一緒に入りたいのかしら?」


 「そうじゃないさ。(とおる)さんを誘ってあげたらどうかと思ってね。ほら、ぼくらでは誘うわけにはいかないだろ? お風呂に入ったら少しはリラックスできるんじゃないかと思うんだ」


 「まあ、そういうことにしておいてあげるわ。彼女には確認しておきたいこともありますから」


 「確認?」


 「ええ。女としてね」


 「彼女を追い込むようなことは――」


 「そんなことしないわよ。解ってるでしょ? 私のこと」


 「そうだね。じゃあ、頼めるかな」


 「ええ。任せておいて」


 そう言い残し、水無(みな)さんは(とおる)を誘ってお風呂へと向かっていった。誘うというよりは、逃げようとする(とおる)の腕を強引に引っ張っていく感じだったんだけど。


 私もあんな風に強引に迫れば良かったのかな……


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