08.22.【徒話】試作品
「会長、私、行かなきゃ」
「何を言い出すかと思えば……。そんなこと認められるわけ無いじゃないの」
「伊織が先輩とカラオケに行くって……、例のカラオケ店にって」
例のカラオケ店……、先輩というのは十六夜 葉月の事でしょうね。
私が余計なことをしなければ、あんな男に付き纏われる事も無かったかも知れないし、今こうして人質を取られるなんて事も無かったはず。
「……今日の役員会はこれまでとするわ。姫神さんは私と来なさい」
「一人で来いって」
「まんまと誘い出されてレイプされる気なの?」
「でも、どうすれば」
「いいから来なさい」
迎えの車を呼ぶついでに例の試作品を持ってこさせる。
「会長、急がないと伊織が」
「カラオケ店には送ってあげるわ。それに、事情を知っていて丸腰で送り出せるとでも思って?」
「それでも、私は……」
「ほら、来たわよ」
待ちきれない様子の姫神さんを車に乗せる。
「これを着けなさい」
「ブラ?」
「只のブラじゃないわ。不用意に触れると感電するようになっているの。スタンガン付きブラ、スタン・ブラと言ったところね」
「わかった」
走り始めた車の中で躊躇なく服を脱ぎ去り、私の差し出した護身用ブラを身につける姫神さん。そんなに必死な姿を見せられると嫉妬してしまうのだけれどね。
「これもね」
「パンツ……」
「こっちは着脱式になっているから、カラオケ店に付いてから電極部分を取り付けるといいわ。あと、スタンロッドを何本か鞄に入れて置くわね。それから、これも」
「厳ついカチューシャ……」
「オレオレジン・カプシカム内蔵よ。男性との身長差を考えれば丁度いい位置だと思うのだけど。此処から遠隔操作するから気にせず着けていればいいわ」
「で、これがカメラ付きメガネ?」
「いいえ、只の防護用よ。カメラもカチューシャに内蔵しているわ」
「……よくわからないけど、有難う、会長」
車が止まると、直ぐに飛び出していこうとする姫神さん。そんな彼女に、最悪の場合には介入する旨を伝えておく。
「それから、私の判断で強力を向かわせるわね。あと、警察への連絡も」
「強力?」
「お初にお目にかかります。神楽様付きの執事をさせていただいております強力 光貴と申します」
「只の老人に見えるけど、空手の有段者よ。スタンロッドも持たせるから何かの役には立つと思うわ」
返事もしないで彼女は行ってしまった。私の言葉なんて聞こえてなかったかも知れないわね。
結局、私の杞憂に終わったみたいで、姫神くんは無事に救出できたみたいね。少し暴行を受けたようだったけど、十六夜 達に比べたら大した事ないかしら。
局部にあれだけ放電されたらね……
「強力、姫神さん達の迎えをお願いできるかしら。試作品の回収も忘れずにね」
「畏まりました」
◇◇◇
「会長、これ、僕までしびれちゃったんだけど」
「そう、開発部門に伝えておくわ。それより、記憶が戻った、ということでいいのかしら?」
「うんっ!」
「それは残念ね。姫神くんの事を忘れている間に私のものにしてしまおうと思っていたのに」
「「え、えー」」
「冗談よ。今日は家まで送ってあげるわ」